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職業幽霊の同居人  作者: 方角ノ辰巳
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第三話『メリーと暇と小学校』

少し遅くなってしまいましたが、今回の話も楽しんで読んでいただけたらありがたいです。


 最近メリーの様子がおかしい、俺の家に来てから不満そうではないが何だか物足りなさそうだ。

 

 「メリー? 外ばっかり見てどうした?」

 「ううん、何でもない…」

 

 そう言って部屋の中に入ってテレビを見始めた。

 ふとメリーが見ていた方を見れば土曜日にも関わらずランドセルを背負った小学生が歩いていた。

 

 「育成教室か……」

 

 俺の家の近くの小学校は共働きをしている親のために土曜日や放課後は五時くらいまで子供を預かってくれる。

 

 「メリーは小学校に行きたいか?」

 「え……えっと……大丈夫……」

 「そうか……」

 

 その日の夜、メリーの様子を貞子に話してみた。

 

 「確かにメリーくらいの歳ですと家にずっといるっていうのは暇だと思いますよ」

 「だよなぁ……」

 

 そう言いながら俺が目を向けたのはメリーの通帳だ。それも六〇〇万近く入っている。

 

 「アレってメリーの師匠がメリーに渡したんだろ?」

 「メリーはそう言ってましたね」

 

 俺は少し悩んだが、メリーを小学校へ通わせることにした。

 

 「お金はどうするんですか?」

 「その通帳の金を使うよ。ここに住むんだから宿代と飯代は要らないんだから」

 「フフ……」

 「何がおかしい?」

 「いえ、すごくメリーのこと思ってるなって思いまして」

 

 俺は貞子の微笑みから目をそらした。きっと今は耳まで真っ赤だろう。

 

 「とにかく、明日市役所行って戸籍登録するぞ」

 「そうですね」

 

 俺は布団に潜り込んだ。

 

 「一緒に寝ましょう!」

 「叩き出すぞ?」

 「むぅ……もう少し私にも優しくしてもいいじゃないですか!」

 「ジェラート食わしてもらって恥ずかしがってたやつが何言ってんだよ」

 「あ、あれはあれこれはこれです!」


 ワーキャー騒いでいる貞子を無視して俺は寝た。俺の態度に諦めたのか貞子もふて寝した。

 次の日、俺は貞子に市役所までメリーを連れて行かせた。

 

 「ねぇ、どこ行くの?」

 

 メリーが不思議そうに小首をかしげる。

 

 「いいところですよ」

 

 そう言って、市役所までメリーを連れてきた。

 それでもメリーはまた不思議そうに首を傾げる。

 そして、ハッとした表情になったあと、恐れるように貞子の顔色を伺う。

 

 「私……捨てられる……?」

 「捨てません捨てません、ここで住民登録するんです」

 「じゅうみんとーろく?」

 「そうですよ、メリーが小学校へ入るための準備ですよ」

 

 小学校という言葉に一瞬嬉しそうな顔をするもすぐ貞子の顔から目をそらした。

 

 「これ以上、貞子先輩や翔に迷惑かけれない……」

 「金のことですか? それなら心配しなくていいですよ。メリーの師匠からメリーを小学校に行かしてあげてってお金たくさんもらいましたから!」

 「ホント!」

 

 メリーの表情がパァっと明るくなった。

 

 「この笑顔、ずっと見てられます」貞子は心の中で呟いた。


 「だから早く住民登録しますよ」

 「うん!」

 

 その頃、翔は小学校に必要な物品を買いに出ていた。

 

 「ランドセル、上靴、体操服に筆記用具、それに安全帽……結構買うもの多いな」

 

 ウロウロしているのは前に貞子と来たショッピングモール、上靴はあらかじめメリーの持っている靴からサイズは分かっているから買ったのだが、

 

 「ランドセルってどんなのがいいんだ……?」

 

 とりあえず、女の子だから赤だよな。

 

 「お子さん、小学生になられるんですか?」

 

 突然話しかけてきたのはスーツに身を包んだおばちゃんだった。

 

 「え……?お、お子……さん……?」

 「はい〜」

 

 俺ってそんなに老けて見えるのか。

 ものすごい精神的ダメージを受けた、俺死ぬかも。

 

 「それにしても、お若いですねぇ。おいくつですか?」

 「え? 僕ですか? じゅ、十七です……」

 「え!? あ、すみません。ランドセルのご購入ですか?」

 「あ、はい。妹に……」

 

 最悪だ、すっごく気まずい雰囲気になった。

 

 「そうでしたか、すみません。最近若いお父様も多いので」

 「そ、そうですかァ」

 

 少し声が引きつってしまった。

 

 「ちなみに、どんなランドセンがおすすめなんですか?」

 「そうですねぇ、あまり派手なのは高学年になってから使いにくいですし……」

 

 そう言っておばちゃんはいくつかのランドセルを見比べたあと一つ俺の前に出してきた。

 

 「コチラのような軽くA4ファイルが入るもので赤を基調とし少し花の刺繍がかれているものなどがオススメですが?」

 「へぇー、今はそんなのまであるんですね、分かりました。じゃあそれください」

 「かしこまりました。レジまでお持ちしますね」

 

 にこやかな笑顔とともにレジへ向かう。

 

 「こちらの商品、五万六〇〇〇円になります」

 「へぇ、ランドセルって高いんですね」

 「そうですねぇ。やっぱり六年間壊れない強度のものなので」

 

 買ったランドセルを箱に詰めてもらい、今度は学校近くの服屋に行き学校指定の体操服を購入し家に帰った。

 

 「ただいま帰りましたぁー」

 「ただいまぁー!」

 

 玄関からメリーと貞子の声が聞こえてきた。

 

 「おかえり、意外と時間かかったな」

 「そうなんですよ。色々書かされて大変でしたよ」

 

 貞子はボヤきながら椅子に腰掛ける。

 

 「今日は俺が晩飯作ったから、とりあえず食いな」

 「「はーい」」

 

 久しぶりに自分で晩飯を作ったが、腕は落ちてないな。しかし、俺は箸を止めてしまう。

 

 「翔さん? どうしました?」

 「いや、大したことじゃないんだが……やっぱりお前の方が美味い」

 「あはは、ありがとございます」

 

 食事を終わらせ、洗い物なども一段落し、メリーが風呂に入っているあいだにランドセルを出しておいた。

 

 「お風呂上がったよ」

 「メリー、こっちに来な」

 「なに?」

 

 パジャマに着替え、頭を拭きながら俺のそばに座った。

 

 「これはお前の師匠からのプレゼントだ」

 

 俺はラッピングされた箱をメリーに渡す。

 

 「ししょうから?」

 

 渡された箱を嬉しそうに開ける。

 中に入っているのはもちろんランドセル。

 

 「わぁ……」

 

 キラキラと目を輝かせながらランドセルを持ち上げる。

 

 「明日から学校だ」

 「翔……ありがとう」

 

 嬉しそうに笑ながら礼を言ってくる。

 

 「ああ、明日は忙しくなるからもう寝な」

 「うん、おやすみ」

 

 俺も貞子と軽く談笑したあと布団に入り眠った。

 次の日、メリーのランドセル姿に凄まじい破壊力を感じた。

 

 「行ってきます……」

 

 昨日まであんなに楽しそうだったがやはり不安がないわけではなさそうだな。

 

 「おう、行ってらっしゃい」

 

 貞子に送迎をさせたが、やはり不安は残る。

 

 

 「メリーのやつ大丈夫かな……」

 

 容姿はとにかくいいメリーだ、妬んだ女子から陰湿ないじめとかされないだろうな。髪の毛の色で差別とかされてないだろうな。

 考えても仕方が無いのだが、なんとなく、ぼんやりとそんなことを考えてしまう。

 

 「どーしたんだよー!浮かない顔してー!」

 

 後ろから唐突に話しかけてきたやけにテンションの高い男。

 

 「朝からうるさいぞ、賢斗」

 「そう硬いこと言うなよ」

 

 これもいつものノリだ。

 

 「そういやお前最近バイトのシフト減ったよな」

 「え? ああ、それはいい節約術を見つけてな。それでもまた増やさないと行けなくなったけどな」

 「へぇー、そうなんだ。だったら今度その節約術っての教えてくれよ」

 「お、おう……機会があればな……」

 

 そうこうしているうちに、いつの間にか学校の前だ。

 自分の教室に入り、いつも通りの何気ない学校生活。俺の家の方が学校よりも幽霊が出る状態になっているなんてな。涙が出てくるよ。

 その頃、メリーは自己紹介をしていた。

 

 「御船メリーです。一週間ほど前から日本に引っ越してきました。よろしくお願いします」

 

 もちろんこれは翔が考えたテキトーな設定だ。

 その後、メリーには転校生あるあるの質問ラッシュ。そんな時、一人の女の子がメリーの真正面に立った。

 

 「こんにちは、御船さん。私は小坂(こさか)(りん)よ、せっかくだから私が仲良くしてあげるわ」

 

 お嬢様ですと言わんばかりの仕草をしながらメリーに言ってくる。

 男子はこそこそと「たま小坂のが始まったよ」「ほんとほんと」と話し出した。

 

 「そこ! うるさい!」

 「うわっ! 小坂がキレたぞ! 逃げろ逃げろー!」

 

 ぴゃーっと2,3人の男子が廊下へ走り出した。

 

 「ったく……それで、御船さん? 私とお友達にならない?」

 

 メリーは唐突のアプローチに一瞬戸惑ってしまったが、

 

 「うん!よろしくね!」

 

 満面の笑みで答えた。

 

 「はうっ!」

 

 凛は顔を真っ赤にして悶える。

 こうしてメリーに初めての友達ができた、少し変わった。

 今日一日、学校は何一つ問題なく終わったのだが本当の問題は家に帰ってきてからだった。

 俺の携帯の着信音が鳴り響いた。

 

 「もしもし?」

 『もしもし? 翔は今家にいるのか?』

 「え?あ、ああ……いるけど?」

 『分かったー』

 

 急に俺が家にいるか確認なんかしてどうするんだろう。そういやあいつが家に来るのはいつも唐突だったな。いや、まさかな。今日に限ってそんなこと起きるはずがないよな。

 

 「ただいまぁ!」

 「おーう、おかえりー。貞子は?」

 「帰りに見たよ。お買い物してから帰るって。あと、電話に翔って言ってる人がいたよ」

 「そっかぁ」

 

 そこまでぼんやり考えていたがハッとした。

 やっぱり最悪の想像通りだよちくしょう!


 「そいつってどんな見た目だった?」

 「日焼けしてた…?」

 

 そうメリーが言った瞬間、扉ががちゃりと開いた。

 

 「不味い!」


 貞子やメリーみたいな女の子と同居なんてしているとバレたらどんな仕打ちを受けることになるか


 「しょーう!邪魔するぞー!」

 

 最悪だ。知られたら不味い訳じゃないがこいつだけにはなんでか分からんがバレたくねぇ。

 しかし、そんな俺の思いは無残に散った。

 

 「翔? お前の部屋に小さい女の子が入ってくのが見えたけ、ど……」

 

 賢斗の目線は確実にメリーだった。

 そしてゆっくりと俺に近づいてきて肩に手を置いて優しく微笑みながら、

 

 「自首してくれ」

 

 言ってきやがった。

 

 「お前マジで殺してやろうか?」

 「じゃあこの子は誰だよ」

 「えっとぉ……妹だ」

 

 苦しすぎる言い訳だった。

 

 「似てなさ過ぎだろ」

 「……」

 

 言い訳は苦しいが俺は必死に言い訳をした。

 親が海外でこの子を孤児院から引き取り、一人暮らしの俺に押し付けてきたとか言ってなんとか頑張っていたがそんな俺にさらに追い打ちをかけてくる。

 

 「今帰りましたー」

 「え……?」

 

 納得し始めた賢斗の顔が再び疑いの顔に戻った。最悪、もう嫌だ。

 

 「翔さん? お客さんですか?」

 

 賢斗は買い物袋をぶら下げた貞子を見て、俺を見て、メリーを見た。

 そしてこいつには前に貞子がシャワーに入っている時の音を聞かれている。ここから考え出される答えは一つだろう。

 

 「翔、色々大変だろうけど頑張れよ。子供とか育てるの金とかも必要だろ? なんかあったら俺も頼ってくれよ」

 「おい待て、お前は馬鹿なのか?」

 

 神妙な顔つきで言ってくる賢斗にはかなりイラッとする。

 

 「名前はなんというんですか?」

 「え? あ、貞子です」

 「貞子さん、こいつの事をよろしくお願いします」

 「は、はい……」

 

 なんでお前も返事しちまうんだよ。おかしいって思えよ。

 

 「じゃあ、俺はこれで帰ります。じゃあな翔」

 「お、おう……じゃ、じゃあなぁ……」

 

 俺は力なく答える。

 

 「翔さん、あの人は?」

 「俺の友達、賢斗って言うんだ」

 「そうですか。それで、賢斗さんはいったい何の事を話してたんですか?」

 

 貞子の言葉に俺はさらに力なくため息をつく。お前が分かってたら俺はこんな脱力感に苛まれていない。

 

 「もう……ちょっと話しかけないでくれ。もうなんか悲しくなってきた」

 

 そして俺はふて寝した。


 メリーと貞子は顔を見合わせて訳が分からないと首を傾げた。

 上手くいくことばかり出ない同居生活。俺は親友にありえない誤解をさせてしまった、というより、されている。

 まだまだ続く同居生活、どうやって賢斗の誤解を解こうかと迷わされる。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回でメリーが小学校に通い始めましたが親友に誤解をされたりとてんやわんわでしたね。

日常系と言いますか、今回みたいなほんわかした感じの話は書くのが難しいです。

次回もどんな話になるのか楽しみに待ってていただければ嬉しいです。

ありがとうございました。

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