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職業幽霊の同居人  作者: 方角ノ辰巳
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第十九話『私はあなたであなたは私』

今回も読みに来ていただいてありがとうございます。

今回の話も楽しんでいただけたらと思います。


 ななしは水中の中にいるような不思議な浮遊感を感じながら目を覚ます。まわりは暗くて何も見えない。

 

 「ここは……?」

 

 次の瞬間、周りが白い光に包まれる。

 突然の強い光で目が少し痛くなったが目は少しづつ光に慣れ、あたりを見渡してみると自分がいるのは誰かの家の中らしい。

 

 「テレビつけっぱなしですね。それにここは誰の家なんでしょう」

 

 井戸が真ん中にぽつんとある森の映像が延々と流れているが停止しているのか全く映像が動いていない。

 

 「変な映像ですね」

 

 ほかのところを見ようと振り返った時、扉が開き中から上半身裸の翔が頭をゴシゴシ拭きながら出てきた。

 

 「わっ! しょ、翔さん!? 服着てくださいよ」

 

 そんなななしの言葉など聞こえてない様子でどんどん近づいてくる。

 ななしは自分でもなにを言ってるか分からないような声を発しながらブンブンと手を前に出して振り回す。

 ななしの手が触れるくらいの距離まで翔が近くに来て、手が触れそうになった時にスカッと翔の体をすり抜ける。

 

 「え……?」

 

 翔はななしの存在に気づいてないらしく独り言を話している。厳密には声は聞こえないが口が少し動いている。

 

 「いったいどうなってるんですか……?」

 

 戸惑いながらあたりを見るとカレンダーが目に入った。そのカレンダーの日付は三年前の十一月二十日となっている。

 

 「三年前……」

 

 翔をみると確かにななしの知っている翔より少しばかり幼く見えるがその翔の顔が恐怖で引きつっている。

 翔の目線と同じ方をみるとテレビの中から女の人が飛び出してきていた。それもビチョビチョに濡れた髪を絨毯に付けながら。

 

 「あ、翔さんなんか怒ってますね。タオルを渡してお風呂へ行かせて、次は電話ですか」

 

 そこからテレビから出てきた女の人と話している。何かもめているような感じに見えたがその様子をななしは何故か少し懐かしいように感じた。

 

 「この人……私に似てる?」

 

 そう呟いた途端に風景が早送りのようになって進んでいき、家に銀髪の小さな女の子が座って話している。

 

 「この女の子メリーに似てますね」

 

 翔さんも女の人もとても優し顔で話しかけている。

 そこから更に風景は流れていく。


 クリスマスに女の人と翔さんが少し大変なことになりそうになったり、次の日にクリスマスプレゼントでいい感じになったり、お正月にみんなで楽しく羽子板をして楽しんだりしている。

 バレンタインに翔さんに頑張って作ったマカロンをプレゼントして赤くなったりしている。

 この女の人はきっと翔さんのことが好きなんだ、そうななしは思った。


 まだまだ流れていく風景。

 女の人がソファで寝ている翔を悲しそうな顔で見ている。口が少し動き何かを言うと玄関に行き家を出ていこうとする。


 女の子が泣きながら女の人に何か言っている。

 

 「この人は出ていこうとしているんですか?」

 

 風景は流れていく。


 日が沈んだ森の中、暗闇の中で翔と女の人が二人で話している。それも随分楽しそうに。

 満月の明かりで翔と女の人の所だけが幻想的に輝いているように見える。

 

 「楽しそう、ですね……」

 

 ななしは女の人が時折見せる悲しげな表情が気がかりで仕方なかった。すると突然音が聞こえ始めた。


 翔さんと女の人の会話が聞こえてくる。

 

 「帰ってきたら、返事をくれ。俺は……」

 「しょ、翔さん……!?」

 「貞子、俺はお前のことがす……」

 

 翔が貞子と呼ばれる女の人の方を見る前に女の人は優しく悲しげに微笑んでぱっと消えた。

 

 「最後まで言わせろよ……」

 

 その言葉が聞こえた瞬間に再び真っ暗な空間に戻る。しかし最初と違って自分の姿ははっきりと見れる。

 

 「あれは一体なんだったんでしょう」

 

 理解に追いつけないななし。

 

 「私の記憶ですよ。そしてあなたの記憶でもあります」

 

 突然聞こえた声は聞き飽きるほど聞いたことのある自分の声だった。

 

 「あ、あなたはさっきの……!」

 

 現れたのは貞子だった。

 

 「さっき見せたのはあなたの記憶の片隅にある私の記憶です」

 「貞子さんですよね? あなたの記憶ってどういうことですか?」

 

 貞子はななしを手招いて横に座らせる。

 

 「さっき見たように私は消えたのでも何故か記憶の一部はあなたが持ってるんです。理由は分かりませんが私とななしは多分同じ存在」

 

 貞子が言ってることは全く理解出来なかった。

 

 「つまり、私の消えた記憶ってことですか?」

 「そうと言っても過言ではありません。なのでななしに私からお願いがあるんです」

 

 貞子はななしを真っ直ぐな瞳で見つめる。

 

 「翔さんを幸せにしてあげてください」

 「え……でも、貞子さんは翔さんのことが」

 「同じですよ。あなたが起きれば記憶は全部戻って、ななしとしての記憶と私の記憶を持つことになるんですから」

 

 貞子は微笑みそしてすっと消えていく。

 

 「貞子さん!」

 「ななしに私の名前をあげます。翔さんとメリーをお願いします」

 

 貞子が見せた最後の微笑みはさっきまでの悲しげなのとは違い嬉しそうな微笑みだった。


 貞子に見せられた記憶、たくさんの友達と楽しそうに笑う翔とメリー。そして貞子にもらった名前、さっきまで客観的だった記憶が主観的に変わる。貞子としての記憶とななしとしての記憶、二人分の記憶があるにそれに違和感なんてものはなかった。


 眠るななしをメリーは心配そうに眺めていた。


 「ななし、起きるかな?」

 「分からん。多分起きる」

 

 メリーと俺は何とかななしを家まで運んでベッドの上に寝かせたが一向に目を覚ます気配がない。

 眠っているななしを見ると貞子がいなくなった時のことを思い出してしまう。

 

 「ん……うぅ……」

 

 俺が顔を覗きこんだ時にななしが寝苦しそうな声を出したと思えばそのままむくりと起きた。

 

 「あ、翔さんにメリー」

 

 そこからななしは眠っているあいだに起きたことを全て俺とメリーに話した。信用しにくいところはいくつかあったが嘘をついているようにも見えなかったし、俺は貞子のことをななしには話していない。

 

 「そんなことがあったのか」

 「貞子って呼ぶのは無理しなくてもいいですよ」

 

 俺に気を使ってくれているのか俺の表情を確認しながら言ってくれた。

 

 「そうだな……」

 「そうです、よね」

 

 俺は少し迷った。


 ななしは貞子で今までの記憶は全てあるんだから。貞子って呼んだって問題は無いんだよな。

 ようやく俺の中で迷いが吹っ切れたような気がした。

 

 「これからもよろしくな。貞子」

 「翔、さん?」

 

 貞子は一瞬困惑したが、すぐに俺のよく知る笑顔になる。メリーも嬉しそうにしている。

 

 「はい! よろしくお願いします!」

 

 こうして俺に最高の同居人が帰ってきた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回の話は総集編とは違いますが近い形の話になったような気がします。楽しんで読んでいただけてたら嬉しい限りです。

話を変えますが、まだまだ先のゴールデンウィークの予定は考えいますか?自分は暖かかったらキャンプに行きたいななんて思っています。

それでは今回はこれくらいで次回も楽しみに待っていただけたらなと思います。

ありがとうございました。

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