第十五話『待っといてやる』
最近はちゃんと投稿できてるような気が自分ではしてますが、どうなんでしょうか?
それでは楽しんで読んでください
服だけ着替えて携帯すら持たず家を飛び出したのはいいが、あいつは一体どこに行ったんだ。
貞子が考えそうな場所には手当り次第向かった。しかし、どこにもいなかった。
「くそ……時間が……」
貞子の体のことはなんとなく分かっていた。
俺が昔じいちゃんの家で読んだ本に乗っていた霊力を持つ者がごく稀にかかる病。霊力消失症、それは霊力がなくなり死亡、又は肉体の消滅。
この病にかかったものは霊力の量にも異なるが一年はどんなに頑張っても持たない。そして本人は自分の霊力残量で死ぬ日がわかる
だからあいつは黙って出ていったんだ。
「何で黙ってたんだよ……って話せる訳ないよな」
もう日は沈みタイムリミットは迫っている。霊力消失症患者の命日は二十四時きっかりだ。
「あと六時間……」
この数字が多いのか少ないのかは分からないがまだ見つけれる。
「見つけてどうすんだよ」
走り回っていた足が止まる。
「救ってやれないのにあいつの決心を踏みにじるのか……」
歩きながら自問自答を繰り返す、そんな時神社の鳥居が目に入った。
気がつけば見たこともない場所に来ていた、辺りを見渡しても家もあまりない。
「この場所って……」
俺は道路標識に書かれた地名を見て驚いた。
「この場所はあいつのディスクに写ってた場所……つまりこの神社の奥にあいつの井戸がある」
随分前に貞子が自分の井戸はある神社にあって、場所はだいたい今俺がいる場所あたりと適当に説明されたことがある。
「最後を迎えるにはもってこいかもな」
鳥居をくぐり、長い階段を登り本殿を目の前にする。その本殿は手入れもされてなく、蜘蛛の巣がかかりところどころシロアリに食われいつ崩れてもおかしくなさそうだった。
「薄気味悪い場所だ」
携帯を持ってくるのを忘れ月明かりだけを頼りにどんどん奥へ進むが木の影となり月明かりなんて入ってこない。
「あれ? 戻ってきた?」
本殿の奥にある森を進んでたはずが本殿の目の前に出てきた。何度奥に進んでも同じく本殿の前に出てくる。
「なんか結界でも張ってるのか? いや、そんな霊力残ってないか」
この場所じゃないのかと諦めかけていた時、土のぬかるみに足を取られ転げ落ちた。
「いてて……」
俺が転げ落ちだであろう経路を眺める。暗闇にも目がなれ今ではほとんど見える。
「この坂を登るのは骨が折れそうだ。このまま下りに沿って歩くか」
ほんの少しの月明かりで腕時計を照らして時間を見ると残り時間はたったの1時間。
「くそ……別れの言葉くらい言わせろよ」
とぼとぼと山を降っていく。
降っている途中、ある場所だけ木が全く生えず月明かりに照らされている場所があった。
円形に木が生えず、そしてその真ん中に蓋がされた井戸がぽつんとありその上には白装束のような服を着た髪の長い少女が1人座っている。
「貞子……」
幻想的なんて言葉を使っていい状況じゃないのは十分承知しているんだが俺は貞子の姿に見とれていた。
「誰かいるんですか?」
貞子が振り向き、俺はとっさに木の陰に隠れてしまった。隠れてどうする、貞子に会いに来たんだろが。
「よ、よお……」
「翔さん……! なんでここに?!」
貞子は驚きのあまりかオロオロとあたりを見る。
「お前を探してた。隣座っていいか?」
「は、はい……どうぞ」
貞子は少し横にずれ俺が座れるスペースを作ってくれた。
この場所は本当に月明かりがよくあたり貞子の表情が良くわかる。その貞子の表情は不安と焦りが入り混じったような感じだ。
「なんでここが分かったんですか?」
「偶然だ。お前を探して走り回って、神社見つけて、神社の奥の山に入って、どっかから転げ落ちて気がつけばここに来れた」
俺のあまりの強運に貞子は力なく笑う。
「ここにいるってことは私の体のこと知ってるんですよね?」
「ああ、推測だったけど確信に変わったよ」
かないませんね、と貞子は悲しそうな声でつぶやく。貞子にとっては隠し通したかった真実、それを俺は自分の身勝手で知ってしまっている。
「ほんとに、翔さんなんかと出会わなければ良かったです」
「ハハ、酷い言いようだな」
貞子は頬を伝う涙を拭きながら、だってだって、と繰り返す。
「翔さんと会ったせいで死ぬのが怖くて、辛くて、寂しくなったじゃないですか。前までずっと一人だったのに短い間に大切なものが出来すぎました……!」
俺が貞子にしてやれる事がないか頭の中で色んなことを思い浮かべるが何一つ思い浮かばない、何か少しでも希望になるものはないのか。
「本当に消えちまうのか?」
「はい……今死にそうになってない時点で私は消滅する方ですね」
すいません、と貞子は無理やり作った笑顔を俺に見せてくる。そんな笑顔みたくない、俺はお前が心の底から笑ってる顔が見たい。
「待っといてやる」
「え? 待つって何を?」
「お前をだ」
貞子は俺の言っていることが理解出来ず困惑した表情を浮かべる。
「霊力は思いの強さってじいちゃんが言ってた。お前が消えたあとも俺たちと一緒にいたいってもっともっと強く思えば帰って来れるかもしれない。だから俺はお前を待ってる」
「翔さん……ダメですよ。そんな賭けで翔さんの人生を壊せません。それにそんなことが起こる確率なんて……」
涙目だが強い意志を持った目で俺に訴えかけてくる。
そんなこと知ったことか。俺が今ここにいるのは貞子に会いたいと強く願ったから、それが俺の中にある微量な霊力が及ぼしたのかはわからない。
だが、今俺がここにいる奇跡があるのだから貞子が帰ってくる奇跡だって起きるはずだ。
「だったら、お前が絶対帰ってこないといけないようにしてやる」
「何を言ってるんですか、そんなこと……」
俺は一度大きく深呼吸をする。
「帰ってきて、返事をくれ。俺は……」
「しょ、翔さん……!?」
俺がこの先何を言うか予測がついたのだろう、貞子の顔は火が出そうなほど真っ赤になる。
「俺はお前のことがす……」
貞子の目を見て言おうとしたが、俺が見る方にはただ真っ暗な森が広がっているだけだった。
時計を見ると秒針が十二の数字をすぎ、長針と短針が重なって十二をさしていた。
「最後まで言わせろよ……そうじゃねぇと意味が無いだろ……」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もう春休みの時期でしょうか?あ、大学生はだいぶ前から春休みですね。
春は別れと新しい出会いを繰り返す季節ですね。自分は今のところ出会いの予定も別れの予定もないんですがね。出会いかぁ、今回の話は思いっきり別れでしたね。
それでは今回はこれくらいで終わりましょうか。
次回の話も楽しみに待っていただけたらなと思います。




