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職業幽霊の同居人  作者: 方角ノ辰巳
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第十三話『サヨナラは伝えない』

読みに来ていただきありがとうございます。

今回の話も楽しんで読んでいただけたらなと思います。それでは楽しんでください。


 あの日の貞子の寂しそうな表情が俺にとってはずっと気がかりだった。

 本当に夕焼けのせいでそういう風に見えたのならいいのだが、あれはきっと夕焼けのせいじゃない。

 

 「翔って! おい! 翔!」

 

 俺の目の前に美少女が、それもめちゃくちゃ近い。いや、やっぱり訂正する。目の前にいるのは男だ。

 

 「うお! なんだ勇か……脅かすなよ」

 「なんか考え事か? ああ、貞子のことか」

 「は?! そんなこと言ってないだろ!」

 「お前がぼーっと何か考えてる時はだいたい貞子のことだろ?」

 

 図星すぎて俺は顔を逸らす事しかできなかった。

 

 「で? 何かあったのか? 喧嘩か?」

 「いや、貞子がそろそろ俺の家から出ていくんじゃないのかってな」

 「そんな話になったのか?」

 

 いつになく神妙そうな顔で俺の話を聞く勇のおかげで俺は少しだけ気持ちが楽になった気がした。

 

 「いいや、夏に海にでもみんなで行くか? って言ったらなんか寂しそうな顔したから」

 「なるほどな……」

 

 勇はそれっきり黙ってしまう。

 それもそうだこんな話は他人にして解決策が出る訳でもないし、「大丈夫だって」なんて言葉も気休めにもならない。

 

 「仮に貞子がいなくなったらお前はどう思う?」

 

 勇の質問には少し驚いた。

 

 「いなくなったらか……美味い飯が食えなくなるのが嫌だな」

 「え? それだけ?」

 「それだけ? とは?」

 

 勇の疑問の意味が俺にはよくわからなかった。

 

 「いやいや、寂しいとか……もっとこう、あるだろ」

 

 多少動揺しているのか語彙力がものすごく落ちている。

 寂しいか、貞子がいなくなったら俺は寂しいと思うのだろうか。この同居生活も嫌々ながらに始まったものだからもしかしたらスッキリするかもしれない。

 

 「んー、分かんね」

 

 最終的に出た答えを俺は笑いながら答える。

 

 「おいおい、それはあんまりじゃないのか?」

 

 勇は俺の答えに失笑している。

 

 「今のところ貞子がいない生活がイメージ出来ないんだよ。半年くらいになるのかな? 基本一緒にいたからな」

 

 居て当たり前になっている人が急にいなくなるのは想像しずらい。

 嫌々ながらに始まっていたとしても今はそんなに嫌じゃない。のかもしれない。

 

 「翔は親が海外で働いててほとんど会うことないんだよな? それは寂しくないのか?」

 「そういやそんな事考えた事ないな。連絡も月に一回あるくらいで会うのも1年に1回くらいだしな。でも別に寂しくないな」

 「親がいなくても寂しくなくても、貞子は分からないんだな」

 

 嬉しそうにニヤニヤと俺の顔を覗き込んでくる勇を見て俺は何となく勇の言いたいことを理解し赤面した。

 

 「いや、そういう訳じゃ!」

 「ん? 俺は別に深くは何も言ってないぞ?」

 

 またはめられた。

 

 「まぁ、とりあえず貞子に直接聞いてみたらどうだ?そうでもしないと解決しないだろ」

 「そうだな。帰ったらそうしてみるよ」


 翔が帰ってくる少し前。


 「あと3日ほどが限界ですね」

 

 貞子は自分の小刻みに痙攣する指先を眺める。

 

 「まさか本当に霊力消失症(れいりょくしょうしつしょう)になるなんて思っても見ませんでしたが、仕方ないですね」

 

 霊力消失症、それは霊力を持つ『幽霊』という職業を生業としている人間つまり、貞子やメリーや奈々夏のような人間がかかる病気であり、体内の霊力が何もしていなくてもどんどん無くなっていき最終的に衰弱死する。なかには肉体自体が消滅した事例もある。

 

 「翔さんには話せませんね。こんなこと」

 

 なんとかいい理由を作ってこの家を出ていかないと、と頭をひねる。

 

 「死にたくないな……」

 

 貞子の口からポロッと言葉が漏れた。堪えていたものが溢れ出す。

 

 「ただいまぁ」

 

 最悪のタイミングで帰ってきた。

 

 「貞子?どうしたんだ?」

 「翔、さん……」

 

 貞子は俺の顔を見るなりポロポロと泣き出してしまった。

 俺は理由もわからず、とりあえず貞子のそばによって事情を聞こうとするが首を横に振るばかり。

 

 「そうか、分かった。なら無理話さなくてもいい」

 

 俺は貞子をだき寄せる。

 

 「?!」

 「聞いてやれないなら俺にはこれくらいしかしてやれない」

 

 貞子を抱きしめる腕の力を少し強める。

 

 「翔さん……ありがとう、ございます」

 

 そのまま数十分、貞子は俺の腕の中で小さくうずくまっていると規則的な寝息を立て始めた。

 

 「ただいま」

 「しぃー」

 

 メリーが帰ってくるのを確認し、俺はジェスチャーで状況をなんとなく説明する。

 

 「貞子先輩どうしたの?」

 「色々あって疲れちまったらしい」

 

 俺は貞子を抱きかかえベッドの上に置き布団をかけてやる。

 

 「いつかお前の口から話してくれる時を待つよ」

 

 俺とメリーは簡単な食事をして今日を終わらせる準備を着々と進めていく。

 ここまででメリーは貞子について一切聞いてこなかった。貞子から口止めされているのかもどかしそうな顔をずっとしていた。

 

 「しまった。貞子を俺のベッドで寝かせてしまった……」

 

 俺は泣く泣くソファーの上に寝転ぶ。

 

 「今日はここで我慢するか」

 

 俺は基本的にどこでも寝れるからな。俺はものの数分で深い眠りに入った。

 

 「私、寝ちゃったんですね」

 

 外がほんの少し朝日に照らされる頃に貞子は目が覚め、起き上がる。ヒタヒタと素足でフローリングを歩く音が朝の静かな空間に響く。そして昨日の自分のした事を思い出し顔を真っ赤にする。


 ソファで眠る翔の顔を覗き込む。

 

 「お別れですね。翔さん今までありがとう、ございました……」

 

 溢れそうな涙をこらえ、貞子は眠る翔に微笑みかける。

 玄関の扉の前に貞子は立つ。この扉を出れば本当にお別れ。

 

 「さてと、余生をどこで過ごしましょうか……」

 「貞子先輩はそれでいいの?」

 

 パジャマ姿のメリーが後ろに立っていた。

 

 「はい、いいんです。これで」

 「しょう、きっと悲しむよ?」

 

 メリーの表情はとても寂しそうだ。

 

 「それでもなんです。私の事は翔さんに師匠の介護を頼まれそっちで暮らすことになったと伝えといてください」

 

 貞子はメリーの頭をそっと撫でる。

 

 「いやだよぉ……貞子先輩ともっと……ずっと一緒にいたいよ……」

 

 メリーの目から大粒の涙が溢れ出てくる。

 

 「仮にここに居ても私とはもうすぐ一緒にはいれなくなりますよ。それに、メリーまでそんな顔してたら翔さんが心配しますよ」

 

 貞子はメリーの頬に流れる涙を拭う。

 

 「それじゃあ、翔さんの事よろしくお願いしますね?」

 

 最後は優しい、いつもの笑顔でメリーに別れを告げる。

 メリーはその場にぺたりと座り込む。

 

 「そんなの……さびしいよ……」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

最近は暖かかっったり、寒かったり、こういう時期に風邪とか引いてしまうような気もします。

自分は花粉症がひどく毎日くしゃみが止まりません。

そう言えば中学生は受験が終わりましたね。あとは結果発表とドキドキしているではないでしょうか。そんな中学生の時の自分が感じていた受験のプレッシャーを思い出しながら次の話を書いてます。

それでは今日はこの辺で次回の話も楽しみに待って頂けたら幸いです

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