第十二話『休日らしい休日』
今回はそれなりに早く出せたんではないでしょうか?
それでは第十二話、楽しんで読んでください。
急遽バイトのシフトが入れ替わり、俺の今日の予定は全てなくなり暇を持て余すことになった。
「賢斗も勇も今日は忙しいってか、普段俺が忙しい時に絡んでくるくせになぁ」
まだ朝の九時、休みなら寝てるのにシフト変わるならもっと早く連絡してほしいものだ。
気だるく立ち上がりコーヒーでもいれる。
寝ている貞子とメリーを起こさないように小さい音量でテレビをつけてなんとなく見ていたらリニューアルオープンされた水族館の特集をしていた。
水族館なんて随分行ってないな。
「あれ? 翔さん、バイトはどうしたんですか?」
テレビを見てると貞子が起きてきた。いつも綺麗にとかされている長い髪も少しボサボサしている。
「今日急に休みになったんだ」
「そうですか……」
眠そうな目を擦りながら俺の横に座ってくる。近いな。
「起こしちまったか?」
「いえ、いつもこのくらいには起きてますから」
そういや家にいる時に俺が貞子より早く起きるてこと今まで無かったな。意外と朝には弱いのか。
「コーヒー入れてやるよ。甘いめだろ?」
「ありがとうございます……」
部屋の電気が眩しいのか目を閉じたままウトウトと二度寝しそうになっている。今にも机に顔面を強打しそうだ。
「ほらよ、まだ眠いなら寝てきてもいいぞ?」
「ありがとうございます。あと三分くらいで目は覚めますから」
ホントかどうか疑わしいが湯気が出ているコーヒー、それもミルクとたっぷり入った甘いものを満足げに飲む。
「テレビは今何を特集してるんですか?」
「水族館だってよ。近くの水族館がリニューアルオープンしたらしい」
水族館ですかぁ、と懐かしむように貞子は呟く。
「最後に行ったのは何歳ぐらいでしたか?」
「俺は覚えてないや、貞子は?」
「私は確かにメリーくらいの歳でした。師匠にわがまま言って連れて行ってもらいましたよ」
貞子の師匠か、一体どんな人なんだろうな。人を殺せる霊力を持っているって言ってたな。
俺の使える除霊なんかじゃ逆効果になりそうなイメージがあるが、幽霊とか嫌いだった俺が随分と幽霊って呼ばれる存在に囲まれるようになったな。
そんなことをなんとなくしみじみと感じているといつの間にか貞子の目はいつも通りパッチリと開きテレビを見ている。
「おはよ〜……」
貞子が完璧に起きたと思えば今度は眠そうなメリーが現れる。
「何見てるの?」
しかし、貞子と違いすぐにテレビに食いつく、
「水族館ですよ」
「水族館……魚がいっぱいいる」
ものすごく珍しいものを見ているようにメリーは声を漏らす。
「メリーは水族館行ったことないのか?」
「うん、行ったことない」
俺は少し迷ったあと、どうせ今日は暇だからという結論をつける。
「よし、じゃあ今日行こうか」
「え? 今日ですか?」
「ホント!?」
同時に驚く貞子と喜ぶメリー。
「うん、暇だし。じゃあ適当に準備するか」
俺はせかすように着替えを始めるとそれに反応してメリーと貞子も準備を始める。
メリーは学校に行くから出かけの服を着てもあまり違和感を感じ無いが貞子の出かけの服はかなり久しぶりに見た気がする。
普段はあの白装束みたいなのだからな、ショーパンにシャツにカーディガンとキャスケットか春っぽいな。
水族館は最寄りの駅から五駅と徒歩十分程でつく距離だが今朝のテレビを見た人が多いのか子供連れの親子が多く乗ってる気がする。
「かなり立派な水族館だな」
「はい、出来立ての建築物って感じです」
早く早くとメリーに急かされて入場券を買う列に並ぶ、俺達が並ぶと同時くらいにどんどんと長蛇の列となっていく。
「あと数分遅かったら入れなかったかも知れませんね」
「ああ、ギリギリだったな」
ほっと一息つくと受付のお姉さんが「次の方どうぞー」と手際よく長蛇の列をさばいていく。
「お客様、ただいま奥様と旦那様とお子様で来られた方はお一人様につき三割引しているのですが」
「え?! い、いえ私たちは」
「あ、じゃあそれでお願いします」
少し顔が赤くなっている貞子がわざわざ訂正しようとするのを防ぎチケットを三割引で購入した。
「ったく、こっちの方が得なんだから黙ってこっちにしとけばいいんだよ」
「で、ですが……」
俯いたままごにょごにょと何か言っているがメリーに手を引っ張られ距離ができたせいで聞き取れなかったが聞き直すほどのことでもないだろうからいいか。
まずはデカい水槽の中を大量のイワシがぐるぐると回り続けている。
「わぁ、すごい!」
メリーの目がキラキラと輝いている。
これは連れてきて正解だったな、と貞子に言おうとしたら貞子の目もキラキラしている。
これは、来て大正解だったな。
「しょう! イルカショーやるんだって!」
次に次にとメリーの後を追うような形になりながら色々な水槽を見ていると大きくアピールされたポスターが貼られている。
「あと三十分か、少し急がないと席がなくなりそうだな」
「そうですね、急ぎましょう」
お前も随分楽しそうだな。
イルカショーの会場へ行くと既にそれなりの人が席を埋めていた。
俺達は最前列から三つ後ろの列に座った。
「なんで一番前が空いてるのに座らないの?」
「ん? まぁそのうち分かるさ」
俺の言葉に貞子とメリーは顔を合わせてから、同時に首を傾げる。
「おい、始まったぞ」
辺を歓声が包む。
二匹のイルカがヒレのみを見せて、ぶつかりそうな距離で同時に弧を描くようにジャンプする。
最前列の客に水がかかる。
「「おお!」」
「最前列じゃなくてよかっただろ?」
貞子とメリーはイルカに釘付けで俺の言葉なんて聞いてすらいなかった。
そこから更に動きは激しくなっていきイルカ同士でビーチボールをパスしあったり、輪っかをくぐったり、お姉さんを二匹が背中に乗せ猛スピードで水槽を回ったりと休む間もなく次々と技が繰り出される。
イルカから降りたお姉さんはマイクをつけ直す。
「それでは、今から頑張ってくれイルカさん達にご褒美をあげたいと思いますが! ご飯あげたいよー! って子は手を挙げてねぇー!」
ハキハキと話すお姉さんから目を離しメリーに手をあげれば、と言おうと思ったら、ビシィッ!っと既にあげられていた。
「んーっと。じゃあそこの! 銀髪の可愛い外人さん! ステージに上がってきてください!」
メリーの容姿はやはり目に留まるのだろうほかの従業員の人がきてメリーをステージの上に連れていく。
「じゃあ、お嬢ちゃんはなんてお名前なのかな? あ、英語じゃないとだめかな……」
メリーは従業員から別のマイクを渡される
「に、日本語話せます。え、えっと……御船 メリーです」
「御船ってことはハーフなのかな? 今日はパパとママと来たの?」
この質問にメリーは少し困った表情をしたあと、俺と貞子をチラッと見て、
「は、はい。パパとママと来ました」
高らかに宣言した。
「そっか! じゃあパパとママに手を振ってみよっか! おーい!」
「お、おーい!」
お姉さんにつられてメリーもパタパタと手を振る。
周囲の視線が一気に俺と貞子に集まる。周りからは小さな声で、若いのにしかっりしてる親御さんねぇ、とか、兄弟じゃないんだな、とか聞こえてくる。
一応、手は振り返しておこう。
「じゃあメリーちゃん、このお魚をイルカさんに向かってポーイって投げてごらん」
メリーの投げた魚は少し明後日の方向に飛んでいったがイルカはそれを水に落とすことなく空中でキャッチ。
そこからはイルカを撫でたり、指示を出して輪っかをくぐらせてみたりとめちゃくちゃ楽しんで帰ってきた。
「すごく楽しかった!」
「そうか、そりゃ良かった」
俺達はイルカショーを見終わり、昼食をとったあと再び館内の魚を見て回った。
「なぁ、貞子」
「はい? なんですか?」
「俺今日ずっと言うの我慢してたんだけど言うな?」
「な、なんですか? 改まって」
最初のイワシの群れからずっと言いたかったが言えなかったこと。
「今日の晩飯、魚がいい」
魚を見てると美味しそうと思ってしまう。実際、メリーもたまに「美味しそう……」と呟いてる。
「アハハ、分かりました。魚料理にしますね」
俺達が全ての魚を見終わった頃にちょうど館内のアナウンスで閉館の知らせがされた。
「いやぁ、かなり楽しかったな」
「うん!」
「そうですね」
もうだいぶ日も暮れ、それは綺麗にオレンジ色になっている。
「魚見てたら海にも行きたくなるな。夏になったらみんなで行くか?」
「海も行きたい」
メリーは嬉しそうに賛成する。
「そう、ですね。みんなで行きましょう」
少し遅れてされた返事。その時の表情は夕焼けのせいなのか、少し寂しそうに見えた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
受験生はそろそろ受験が終わり卒業することでしょうか、中学生はまだ中期選抜が残っているんでしたっけ?
気がつけばもう3月、バレンタインのお返しを考えないといけない頃合ですね。もらう相手もあげる相手もいない自分ですがホワイトデーは3倍?返しってなんて男性的には等価交換になってないんだ!って思ってないのかな?なんて思いながら次の話を考える。
それでは今回はここらで終わらせていただきます。
次の話も楽しみに待っていただけたら幸いです。