第一話 『呪いのBD』
恋愛系の話をあまり読んだり、観たりした事がないので自分の妄想ばかりですが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです
世の中にはどんな仕事がるかと聞かれればいくつ答えれるだろうか。
警察官や消防士、学校の先生にサラリーマン、ゲームプログラマーだったり医者だったり。たくさんの種類がある。
そして最近変な職業の噂がある、その職業は『幽霊』だ。心霊番組やネットのホラー映像に出て稼いでる異能力者のような人らしい。
俺はこの話を友達から聞いたんだがいまいち信用出来ない。
芸能人が職業『幽霊』の人と結婚しているだの、実際は本当に幽霊だったりと根も葉もない噂ばかりだ。
「なぁ、翔はどう思う?」
「どう思うってなにが?」
ゲームセンターのシューティングゲームで次々と敵を倒していく俺に自動販売機のアイスを食べたながら話しかけてきた男は真山 賢斗。
こいつも俺と同じ高校生活を部活と恋愛で謳歌するのではなくアルバイトとゲームセンターに使っている人間の一人だ。
俺達はルックスはそんなに悪くないんだがな、何故かモテない。あ、こいつ彼女いたわ。
「何って、あれだよ。幽霊って職業だよ」
「ああ、あれか」
俺はこのゲームセンターのハイスコアを大きく塗り替え、銃型のコントローラーを片付けた。
「そんなの都市伝説だろ。化学の発展した今の時代にそんなオカルトな職業ある訳ないだろ」
「ま、お前はそう言うよな」
「どういうことだよ?」
ニヤニヤと嬉しそうに笑う顔。こいつがこういう顔をしている時は大体良いことは無い。
「これを見ろ」
賢斗が出したのは透明のケースに入ったタイトルの書かれていないブルーレイディスクだった。
嫌な予感しかしないな。
「これは呪いのブルーレイディスクだ」
それ一週間後くらいにテレビから女の人出てきて殺されるヤツじゃないのか。にしてもブルーレイディスクってハイテクだな。
「これ奈々夏と一緒に見たんだけどな。ずっと砂嵐で何も見れなかったんだ」
「ブルーレイディスクなのにか?」
「そう、だからお前にも見てほしいんだよ」
呪いって言われてんのに見るバカどこにいるんだよ。ああ、お前らバカップルか。
「それ見たらどうなるんだよ?」
「噂では一週間後くらいに死ぬらしい」
は?こいつまじで馬鹿じゃねぇの?
「でも、それも迷信だな。俺が見たの二週間前だし」
「じゃあなんで今更俺が見ないといけないんだよ」
「部屋掃除してたら出てきたから」
出てきたから、じゃ無いよマジで。
「まさかお前ビビってんのか?」
「は? んなわけねぇだろ! 貸してみろ見てやるよ」
あーあ、最悪だ。無駄に強がったちゃったよ、もう嫌。
「そうだよな、見るよな。じゃあ俺はバイトの時間だから」
そう言って賢斗はアイスのプラスチック棒をゴミ箱に捨てて走り去って行った。
俺も自動販売機でコーラを買って帰った。
「さて、今日は晩飯何にするかな」
俺はカバンを片付け、冷蔵庫の中身を確認する。
親は両方とも海外で仕事、日本に残る選択をした俺は親の毎月の仕送りとバイトで生活をしている。
基本的に金銭面も学校の成績面も困ってない俺が最大のピンチに陥っている。
「どうしようか……」
俺は昨日の残りの手作り角煮と野菜炒めを食べながら呟いた。
俺は苦手なんだ。幽霊とか宇宙人とか確証もない存在が、だからと言ってそんなもの存在しないと割り切ることも出来ない。
「とりあえず見るか……見てるところ写真撮って送れとか言ってきやがったからな」
俺は泣く泣くブルーレイデッキにディスクを入れる。流れる砂嵐の映像、それも白黒テレビのような画質だ。
とりあえず写真を撮って賢斗に送り、五分ほどテレビ画面を眺めていたがずっと砂嵐のままだ。
「ったく、何も無いじゃねぇかよ」
俺はリモコンを持ちディスク取り出しボタンを押そうとしたとき、映像が切り替わってしまった。
マジかよ、しかも森の中で映像の真ん中に井戸って。
俺は今にも泣きそうになりながら、必死にブルーレイデッキの電源を切るがいくら押しても消えない。
「最悪だよ……俺終わった……」
死因が呪いのビデオ、じゃくてブルーレイディスクって笑えるな。いや、むしろ笑えないか。
ヒタヒタとなにかに濡れたものが当たる音が聞こえる、この音はアレが上ってきてる音なんだろうな。
「マジで賢斗のやつ、俺があいつを呪い殺してやる……」
俺は力なく呟きながら画面を呆然と眺める。しかし、次の瞬間、
『あっ……!』
小さく短い声が聞こえたと思えば勢いよく水に飛び込む音が聞こえた。
「…………え?」
今落ちたのか?いや、まさかな。これってスムーズに上ってきてその後画面から出てくるもんだよな。
再びヒタヒタと上る音が聞こえる。今度は上っている手が若干見えた。
今度こそ終わったと俺は確信した。
だよな、さっきのはなにかの間違いなんだよな。
『わっ! 痛っ!!』
また落ちた。しかも今度は痛って言った。
『はぁー、もう疲れた』
なんか言ってるよ。こういう手作り動画なのか?
『また登るのかぁ。もう爪とか痛いんですが……』
めちゃくちゃ面倒くさそうだし、なんかボヤいてるよ。
「なんか、怖いの吹っ飛んだな。風呂入ってこよ」
俺は立ち上がり風呂に入った。
『え?! 嘘?! ちょちょっと待ってください!』
なんか聞こえたけど無視しよう、多分あれはそういう映像なんだ。そう、きっとあれはそういう映像なんだ。
俺は適当に風呂を済ませた。と言っても俺の風呂は長く二十分以上は入っていただろう。
上半身裸で頭をタオルでゴシゴシ吹いていると、
「あ……」
俺はテレビを見て気づいた。
井戸から出れてるじゃん、なんかでもあいつビチョビチョじゃないか?
てか近づいてくるよ、これ今度こそ本当に終わったんじゃね。
テレビ画面から半分以上体が出てきた。濡れた手が絨毯につき、髪から水が滴る。
「おい、お前。何絨毯濡らしんだよ」
「え?」
「いや、え? じゃなくて。何びしょびしょのまま絨毯の上にいるの? って聞いてるの。見てみろよめちゃくちゃ濡れてるじゃねぇかよ」
俺何言ってんだよ、怖すぎてもう訳わかんねぇ。
「え、あ……ご、ゴメンなさい」
謝っちゃったよ幽霊が。
「まぁ、分かればいいよ」
俺ほんと何言ってんだよ。
「へくしょん!」
「ったく、そんなビチョビチョのままだから体が冷えるんだろ。とりあえずこれで髪の毛拭いとけ、風呂沸かしといてやるから」
俺はタンスからタオルを出し幽霊に軽く投げ、自分のシャツも出してそれを着た。
顔は髪で隠れてよく見えないがとても小柄で身長は一五〇位だろうか。黒く長い髪を持っていて、地面につきそうなほどの丈の城のワンピース、俺の知っているアレの姿とよく似ている。
「あ、ありがとうございます」
俺は一度抜いた風呂の栓を締め直し、風呂に湯を溜める。
三分ほどで風呂が沸いた。
「おい、服も濡れてるだろ。これ貸してやるから着とけ」
俺はジャージの半ズボンとTシャツを渡した。
「何から何まですみません」
「いや、いいよ別に。大した事じゃないし」
普段俺しかいない部屋にシャワーの音が聞こえる。なんか、緊張するな。
俺が一人でそわそわしていると突然携帯が鳴り出した。相手は賢斗だった。
『どうだった?』
「どうって言われてもな」
こんな状況言えるわけがない、行ったとしても俺が変人扱いされるかこいつの無駄にテンション上がる。それだけはウザイから避けたい。
『ん? お前今シャワー浴びてるのか?』
「いや、浴びてないけど?」
『じゃあなんでシャワーみたいな音するんだ』
「あっ……! い、いや。これは」
『ははーん、お前にも彼女が出来たか、それはそれはじゃあお邪魔虫は退散するとしますかな』
「いや、ちがっ、おい、待て!」
あいつ、切りやがった。くそ、変な誤解が出来た。
「あの、お風呂と服とかありがとうございます」
さっきまで隠れていた顔が見え、俺は一瞬ドキッとしてしまった。
黒く綺麗な長い髪に黒く澄んだ瞳に整った顔立ちで可憐という言葉を体現したような少女だった。
「あ、ああ。とりあえずここに座れ」
俺は座布団を指さした。
「あ、はい」
「とりあえず、お前は人間か?」
「えっと、この世でテレビから出てこれる人が人間なら私は人間です。半人半霊くらいに思ってください」
つまり違うんだな、いちいち回りくどい言い方しやがって。
「俺は御船 翔。お前の名前と年齢は? あとお前に出くわした俺はどうなる?」
「貞子って言います、歳は十七です。あなたは本当なら私にビックリして気絶する予定でした」
十七ってことは俺と同い年か、それに貞子って俺の予想のまんまじゃないか。
だが、びっくりするだけってどういう事だ。
「俺を呪い殺すんじゃないのか?」
「まさか、そんな事したら警察に捕まりますよ。それに私はそこまでの霊力はありませんし」
おいおい、警察に捕まるとか急にリアリティ溢れ出てるな。
「俺の知ってる貞子は人を殺せたんだが?」
「それは先代です。あの頃は私達みたいな職業者を取り締まるすべがありませんでしたから」
「じゃあお前は最近噂の幽霊 って職業か?」
「そうですね」
恐る恐る聞く俺に対してサラリと答える自称貞子。
「その幽霊って職業について詳しく教えて貰ってもいいか?」
「それは出来ません。それでは帰らしてもらいます」
「は? おい」
貞子はテレビの中に入ろうとテレビの画面に手を触れるが全然入れず、テレビがただ動くだけだった。
「え? あれ?」
「何してんだよ」
「テレビの中に入れないんです……」
顔があからさまに焦っているあたり冗談では無さそうだが、なぜ急に入れなくなったんだ。
「待って、あなたの名前って、御船なんですよね?」
「ああ、そっか。そういやそうだな」
「ちょ! ちょっと待てくださいよ! 私これじゃ帰れないじゃないですか!」
ここまで忘れていたが俺の父親の御船の家系は昔霊媒師だったらしい、力はもうほとんど無く、今となっては霊媒師になろうなんて思うこともなく俺の父親は霊力は多少あるが一切扱えない。だが俺は幽霊が嫌すぎてじいちゃんから霊力の使い方を教えてもらっていた。
そういや、さっき風呂場でいつも通りの霊力操作の練習してたんだ。実際何回か除霊した事がある。
「まさかここまで効くなんて。てか待てよ、俺ごときがやっている霊力操作で貞子レベルの霊力を無くせるのか?」
「うぐっ!」
明らかに動揺しているな。
「お前ほんとに貞子なのか?」
「私だって……」
「え?」
この質問に貞子はごにょごにょ何か言っているから聞き返すとキッと俺の方へ涙目になりながら振り返る。
「私だって先代みたいにカッコよく人を脅かしたいですよ! でも私は霊力が先代よりもないんですよ! 先代の名前があるから人も脅かせて何とかお給料も貰えてやっていけてますけど! 今日だってテレビから出てきたのに! 出ててたらなんですかこれは! 霊媒師の血族とか!」
逆ギレかよ。でもなんか可哀相だなこいつ、先代が凄すぎるからかだよな。
「私にだって霊力がもっとあれば……」
その場にうなだれるように座り込む。
「ま、まぁそうしょげるなよ」
この言葉に対して貞子は俺を睨んでくる。
「そもそも何でこんな科学の進歩した時代に霊能力とかしてるんですか! バカなんですか!」
「おいおい、非科学的な奴がそれを言うか?」
「うるさいです!」
貞子は一度ため息をつき、落ち着いてから俺の方へ向き直る。
「とりあえず帰れないんでここに置いてもらえませんか?」
「え、いや」
「はやっ! もう少し迷ってくれてもいいじゃないですか!」
「嫌だよ。幽霊と一緒に住むとか」
あ、こいつ怒ってるな。おい、やめろそんなジト目で俺の睨むな、ルックスがいいだけあってちょっと困る。
「誰のせいでこうなったと思ってるんですか?」
「おい、それを言うか?」
「あなたしか頼れないんです、置いてくださいよ。ご飯作りますから、掃除もします……だから……」
おいおい、泣くなよ。
確かに俺がこいつの霊力奪ったのは事実だし、今は十月後半だし、こんな寒空の下にいくら半人半霊でも女の子を放り出すのも最低だよな。
俺は適当に自分に言い聞かせた。
「はぁ……分かった、家にいていいよ」
「ホントですか! ありがとうございます」
貞子は最高の笑顔を俺に向けてくる。
ドキッじゃねぇーよバカ、何若干ときめいてんだよ。
こうして俺に変わった同居人が出来た。
読んでいただき有難うございます。
これからいろんなキャラが出てきて二人の関係が発展したりしなかったりとむず痒い感じにしていけたらと思っています。
次の話も読んでいただけたら嬉しいです。