第14話母親と能力と愛情
「か、母さんなのか?」
「タケル、あなたは覚えてないと思うから、初めましてが正しいわね。こんなに大きくなって…嬉しいわ。強くなったわね。聞いて、あなたは、あなたの中に力を持っているの。刀を持つと性格が変わるわよね。あれは、刀が持つ性格にあなたが引っ張られてるの。あなたは物を作った人、歴史、持ち主の声を聴くことができるの。心を澄まして聞いてごらんなさい。」
「だから、俺はこんなにコロコロ強気になったり、弱気になったりするのか。わかった!母さんやってみるよ!!俺!!」
「あと、あなたのポケットに入っていたスマートフォンは、源三が集めた武器を呼び出すことができるポータルになっているの。横にスワイプしてリストから選びなさい。あなたの助けになると思うわ。ただ、強い武器ばかりなので、武器側に引っ張られすぎないように強い心を持つのよ。」
包んでいる光が弱くなってきた。俺は急いでスマホを取り出し、スワイプし武器を選択し、顔を上げ、写真の時のままの母親の顔を見つめる。
「もう、時を止める限界みたい。友達を必ず助けなさい!そして、大変かもしれないけど世界を救って。勝手なのはわかってる。お願い。。。。。。。」
涙を流しながら薄れていく母親を見ていた。
「お前独りだゾ!どうしタ?もうおしまいカ?ワハハハハハハ!!!」
目の前にミノタウロスが光に包まれる前の状態で立っている。
俺は持っていた二本の刀を鞘に戻し、スマホをタップし、右手を前に差し出した。
「どうしタ?涙を流して降参カ?ハハハハハハハハ!!望みどおりにしてやルルルルルルル!!」
俺の右手に選び出した刀、村雨丸が現れ握られる。
「なんだト?なんだそれハ?」
村雨丸は、江戸時代後期の読本『南総里見八犬伝』に登場する犬塚信乃(八犬士の一人)が用いる宝刀で、鞘から抜くと刀身に露が浮かぶ奇瑞があり、架空の刀とされていたが、イッチ―の爺はしっかりと集めていたみたいだ。
俺は心を静め、武器と対話する。村雨丸が俺に語りかけてくる。
「おまえが我を欲さんとする主か。おもしろい。氷の刃が使いこなせるか?」
刀と俺が一つになる。
「黙ってばっかりで、拍子抜けダ!こちらからいくゾォォォォォォオオオオ!」
物凄い勢いでミノタウロスが駆けてくる。そして斧での力強い一撃が俺に向けて放たれる。
対する俺は静かに滑るように前にすすみ、斧の横を水のようにすり抜け、ミノタウロス腹を薙ぐように抜刀した。
「…玉散る氷の刃」
「今のをよけたカ!まぐれにしては、上出来だナ!」
もう一撃を繰り出そうと、ミノタウロスは振り向こうとするが、振り向けない。
腹から上が綺麗に両断され、地面に滑り落ちる。
「なんダ!?何が起きてル!?グァァアアアアアア!!体ガ!?冷たイ!」
体の切れ目がどちらとも凍り付いていた。
俺は冷たい目をしながら、ミノタウロスに近づき、頭に刀を振り下ろす。
ミノタウロスが砕け散り、煙となった。
大量の銀貨が散らばり、革袋、角、様々なものがドロップする。
俺は静かにスマホをタップし、村雨丸を屋敷に戻す。
手から刀が消えた瞬間、物凄い脱力が俺を襲う。
「くぁぁぁあああああ!た、倒したのか、お、俺が!そ、そうだ!みんな大丈夫か!!」
ゆっくりみんなのもとに向かう。
「ヤマタケ、大丈夫だぜ、俺は。両手が動かないくらいだ。」
イッチーは、両腕に矢が刺さり壁にもたれていた。
「タケル、倒したのね、凄いわ…ウッ!!肩が。」
先輩は大きな石の衝撃により、鎖骨あたりが折れてそうだ。かなりの重症かもしれない。
亮子は、弱く息を吐きながら、俯いている。
エイ君は多少回復し、起き上がれるくらいにはなっていた。
問題はプラチナである。意識がない。
「沙弥、起きてくれ頼む。お前がいなくなったら、誰が仲間を明るくしてくれるんだ、誰が、俺の刀を鍛えてくれるんだ。」
目から涙が零れる。俺は、沙弥が鍛えてくれた刀を握る。
刀が語りかけてくる。沙弥の気持ちが流れてくる。沙弥の俺に対する熱い気持ち。愛情が流れ込んでくる。そして、体が光り輝く。
戦いで出来た傷がふさがっていく。俺はそのまま、何も考えず沙弥の頬に触れた。
沙弥の顔に赤みがさし、パチっと目が開く。
「タケル君、なんで泣いてるの?超可愛い。」
「「プラチナっ!!」」
いつもの元気な輝いている沙弥、プラチナがそこにいた。
俺は気が付いたら、沙弥を抱きしめていた。
「良かった。本当に良かった。」
「ちょ、ちょっとタケル君!ほわわわわわ。」
真っ赤になるプラチナ。見る見る血色がよくなっていく。
「タケル。私も抱きしめなさい。命令よ。」
「セーラ先輩、こ、こんな時になにいってるんですか!?」
「つっ!早くしなさい!冗談じゃないのよ、私の考えが正しければ、説明は後よ!」
俺は、恥ずかしいがそっと先輩を抱きしめた。
先輩は満足そうな顔をして、立ち上がる。
「やはりね。ほら、みんなを抱きしめなさい!!効果が切れる前に!」
「え、ええ!?先輩は鎖骨折れてませんでした?大丈夫なんですか?」
「あなたが治したのよ。フフフ。早くみんなを抱きしめて治しなさい。」
命令された通り、イッチーは矢を抜いた後、抱きしめ、エイ君、亮子と抱きしめていった。
「親友っていいな。なんか目覚めそうだぜ!」
「タケルさんを守れて本当に良かったです。」
「…恥ずかしいけど、心地よい…」
みんな血色の良い顔になっていったが、プラチナだけ不機嫌な顔になっていく。
刀からプラチナの気持ちを知ってしまったから、その不機嫌な理由はわかる。
ただ、本人もしらないところで急に気持ちを知ってしまったので、答えようもないし、俺もどうしていいかわからないのだ。すまん許せプラチナ。
みんな元気になったところで、ドロップ品を集め、俺達は部屋の奥にある、装飾の施された扉のまえに立ち、いつもの通りエイ君が扉を開いた。




