第13話無力と絶望と光
階段を降りると3メートルを超える金属製の重厚な扉があった。
「ゴージャスな扉じゃん。お金持ちが、よくぞ来たな的なお出迎えをしてくれるんじゃねーの?」
「…意味不明」
「こんな地下にしかも、モンスターが溢れてるところに住む金持ちなんていないでしょう?与一君なら住めるのかしら?フフフ」
「エイ君。頼む。」
「ハイッ!おりゃああああああああ!!!」
ギィィィィイ。重厚なドアを力強くこじ空ける。
カビ臭い匂いが鼻に入ってくる。扉の先は真っ暗で何も見えない。
ランタンの明かりを手に先に進もうとすると、ボッ!ボッ!ボボボボボッ!!
両サイドの松明に火が灯り、
ギィィィィイ。
扉が急に閉じた。
「何年ぶりだ?ここに人が来るのは。楽しませてくれヨォォオオオオオオ!!」
奥から凄い音圧が俺たちを襲う。鼓膜がビリビリする。圧倒的な恐怖が俺たちを包む。
「…緊褌一番!」
「気合入れろ!みんな!!」
暗闇から徐々に姿が現れる。頭が牛、身体は人間のミノタウルスである。
手には巨大な両刃の斧を持ち、身の丈は3メートルを超えていた。
「「で、デカい!」」
ヒュン!
躊躇無くイッチーが矢を打つ。
目に向かってグングン伸びていったが、寸前で腕でガードし、腕には刺さったが、あんまり効いてない模様だ。
「エイ君行くぞ!!みんなバックアップ頼む!」
「はいっ!!」
間髪入れず、俺とエイ君が飛び出す。
「喰らエ!!グゥォオオオオオオオ!!!!」
すごい勢いで斧が近づいてくるのをエイ君が巨大な盾で受け止める!
その隙に俺が切り込んでいく。
「セヤッ!!グッ!!」
刀が通らない!?なんて固さだ。
「…躍歩頂肘!」
亮子が凄い離れた距離から、一気に距離を詰めて肘打ちを右足に打ち込んだ。
「オオオオン!!」
ミノタウロスが苦しんでいる!いつの間にか先輩も同時に左足のアキレス腱にバックスタブを入れていた。
俺とエイ君がスネを打つ。
「グァォアアア!!」
ミノタウロスが、前屈みになる。
「…連環腿」
亮子が、右脚、左足の2連脚をミノタウロスの顎にヒットさせる!これはいっただろ!!もらった!!
「決まったと思っただろ?冒険者達よ!」
亮子の蹴り上げた脚を掴み、そのまま壁に投げつけた。
「…あぐっ!!」
「亮子!!大丈夫か!?」
思わず、吹っ飛んで行った亮子の方を見る。
「人の事を心配してる場合か?」
ミノタウロスが斧でものすごい打撃を繰り出す。
エイ君が盾で防ぐが、威力が高すぎで吹っ飛ばされる!!
俺もその勢いで吹っ飛ばされた。
「これでも喰らえ!!」
ヒュン!
イッチーの矢ドンパッチ付きバージョンがミノタウロスに飛んでいくが、左手1本で掴まれてしまった!!
「ウィンド!ファイア!!」
プラチナが放った炎の風がミノタウロスに届き、左手に掴まれたドンパッチに引火し、爆発を起こす!!
ドゴーーン!!
二人共ナイス連携だ!!
先輩が亮子を助け、後方に運んでいく。
「亮子!しっかりしなさい!!返事をして!!」
「…せ、先輩…」
意識はあるみたいだ。ホッとする。
「なかなかやるじゃなイカ!そうでなくてはナァ!!」
ミノタウロスの左手はほぼない状態に。しかし、なんだ、この強気の発言は!
ブゥゥンン!!
強烈な打撃がエイ君を襲う!大きな盾を構え、斧を受け止めようとするが、
メキィィイイ!!ドゴォォォオン!!
た、盾がへし折れエイ君も壁にぶっ飛ばされ、背中を壁に打ち付けられる。
「ガハッ!!」
前のめりにエイ君が倒れる。
「「エイ君!!」」
「くっ!!腕が!俺が盾になって守らないと!!う、動けよぉぉぉぉお!!もう仲間を失いたくねぇぇぇ!!」
「えーちゃんまでも!!許さねぇぇぇええええ!!オラオラオラオラ!!!」
イッチーが闇雲に矢を打ち続ける。
「ハハハハハ!!なんダ?この無駄矢ハッ!効かぬワ!!」
ミノタウロスの右手から胴体に向かって一列に連なるように矢が刺さる。
「プラチナァァァ!!今だ!!」
イッチーがプラチナに合図を送る。
「ウィンド!!ファイアァァァ!!あぁぁ…」
ゴォォォォォォォオ!!キィィィィン!
ものすごい勢いで炎が飛び出した途端、杖の魔法石が砕け散った。プラチナも倒れ込む。
ミノタウロスに向かって炎が伸び、一列に刺さった矢の一つに付けていたドンパッチに引火する。
「矢の中に混じってやりおったなァァァ!!」
ドゴォォォォォォォオオオオオン!!
ミノタウロスが吹っ飛んでいく。
「闇雲に大事な矢を浪費するわけないだろ!やったか!?」
イッチーが勝利を確信している中、俺はプラチナに駆け寄る。
抱き上げたが、反応がない。
「プラチナ!!大丈夫かぁぁああ!!おい!!返事をしろよ!!プラチナァァァァァアア!!」
「タケル!揺すってはダメよ!!落ち着きなさい!!」
先輩が俺の行動を止めるが、砕け散った魔法石の不吉な現象も相まって、不安な俺はプラチナの返事が欲しいが故に揺すり続ける。
「プラチナ!!プラチナァァア!!沙弥ぁぁぁあ!!」
「タケル!止めなさい!!」
パシッ!!
先輩が俺を平手打ちする。
「リーダーでしょ!!男の子でしょ!!しっかりしなさい!!みんなを連れて帰るのカハッ!!」
先輩が急に吹き飛ばされた。近くに大きな石が転がった。
「ま、まさか効いてないのか!?」
「お返しダ!」
ヒュン!ヒュン!ドスドス!!
「ぐぁああ!!こ、これは!?俺の矢ぁぁぁぁああ!?」
ミノタウロスの右手から放たれた矢がイッチーの両腕を貫いていた。
みんなが倒れていく。みんなが、タオレテイク。オレハ ナニヲ シテイル。
「お前独りだゾ!どうしタ?もうおしまいカ?ワハハハハハハ!!!」
タスケタイ、ミンナヲ タスケタイ。チカラガ ホシイ。チカラガ。
全身を光が包む。
「タケル、やっと私の声を聞いてくれましたね。」
「め、女神様、俺に力をくれたんじゃないのか!?俺はなんの力もない!!仲間すら助けれない!!この世界なんて到底助けられない!!!」
「力はあなたの中にあります。仲間達も同様に持っています。集中して光を感じなさい。全ての未来はあなたと共にあります。諦めては駄目です。」
「無理だ!!俺には誰も救えやしないんだよォ!!」
「救えますよ。私の息子なんですもの。」
にっこりと微笑んだ女神、物心つく前に死に別れた、写真でしか見たことのない母親がいた。




