第1話 先輩と俺と引きこもり
「メェェェェェェェエーーーーーン!!!」
早朝の静かな広い道場に力強い声が響き渡る。
この声の持ち主は俺、大和屋 タケル。お、なんかちょっと韻を踏んでラップっぽい。
この間中学校を卒業してピチピチの高校一年生になるはずだったのだが、色々訳あって家の道場に引きこもって剣に汗しているわけだ。
俺と一緒に汗をかいて?くれてるのは木人くん7号こと、木で出来た打ち込み人形だ。
(いやぁ、お前の打ち込みもなかなかのもんだな!)
と、まぁ、心に響いてくる一言が聞こえてくるくらいの相棒なのよ。
「引きこもりの癖に朝から精が出るわね。」
振り向かなくてもわかるぜ。この貶している感じを照れ隠しに使って俺を誉めるのは、一つ歳上の聖光寺 セーラ先輩だ。
高身長、ハーフで整った顔立ち、スタイルも抜群と学校でもファンクラブがあるとか無いとか、まぁ美女!すっげぇ美女!
「ま、俺から剣を取ったらなんも残んないっすからね。このひと振りひと振りが今日の俺、明日の俺を作っていくわけですよ!」
と、幕末志士みたいな台詞を吐くわけは、中1~中3で剣道全中三連覇と偉業を成し遂げ、心はもー武士ってる所から来てたり。
「んじゃ、今日こそはお姉さんとそのつまんない情熱ごと学校にいこーか。」
いい匂いをさせつつ、ディスりながら近づいてくるセーラ先輩。
俺は一定の間合いを取りつつ、
「流石にあんな騒ぎを起こして、もー学校にいけないっすよ!退学レベルですよ?みんなの白い目が見える!!見える!!中に赤い目、青い目、しゃ、写輪眼までも!?」
と、逃げの1手。
ガラガラ。
「ヤマタケー!バスに乗り遅れたからバイク貸してくれー!ヘルメット2つな?手つなぎでは味わえない何かが待ってるかもしれねーからよ!」
登校という絶望の最中に差し込む光明!ってか、馴染みのコンビニ感覚でバイクを借りようとしてんじゃねえよ。このチャラい長髪に金髪の男は、俺の親友の那須田 与一。
「イッチーたすけてー」
最高の1手を打ってくれるんじゃないかと、期待して助けを求めてみたが。
「セーラ先輩じゃないっすか!!そうか、もうヘルメットを使う時が来たか。先輩!俺の後ろ空いてますよ。いや、俺が後ろってのもアリだな。」
奇跡的に何かが噛み合ってる!俺助かりそう!
「免許持ってたら、前でも後ろでも乗ってあげるわよぉ。フフフ」
俺への対応と全然違う、何だかとっても大人な台詞、なんでだよぉぉ!ディスれよぉぉぉ!クサイとかキモいとかあるじゃん!
「いや、順序が、まだそんな深い中じゃないのですし、いや、セーラ先輩がその気なら、いや、その前に免許をどうしよう!?百均にあるかな!?」
与一の奴もメロメロになって、訳の分からない発想を。
さすが先輩だぜと思いつつも、竹刀を持ったまま、ソローリソローリと、道場を抜け出してマイルームに逃げ出す俺。
カチャッ
鍵をかけてっと、
ドンドンドンドンドン!
あっという間に俺の部屋の前にたどり着いただと!?鍵かけて二秒も経ってなかったはずなのに…
「この部屋はただいま使われてオリマセン。御用の方は…」
「明日こそは連れていくから!アキラメナイカラ!」
なんか、カタコトになりながら先輩は登校していった。なんで、俺なんかに…
やっと竹刀を壁に立てかけて、一息つこうとした所に。
「ヤマタケ!マジバイク借りるな?」
「僕のバイクで良かったら使ってね、与一君。」
「お!ヨワタケの方か、話がはえーぜ!サンキュー!」
キュルキュルキュル…ドォルゥン!ドッドッドッ。
素早く登校していく与一君の姿を眺める僕なのでした。
そう、僕は竹刀とかの武器的なものを持たないと、性格が弱気になってしまうのです。
高校入学早々に、学校に行かなくなったのは、この内気な性格をみて絡んできた不良グループに対して、たまたま近くにあった野球部のバットを触ってしまい、気が付いたら。
「「いでぇぇぇえええええええ!」」
ベコベコに折れ曲がった金属バットと、血まみれになって倒れた不良グループ総勢13名各々の叫び声が。
「やりすぎじゃね?」
「マジやべえ!殺したんじゃね?」
校舎の窓からは、全校生徒の目撃者の白い目が…
それ以来学校に行けず、引きこもっているわけなのです。
「さて、修羅の〇でも見て、次は何を見よーかなー?」
引きこもりが捗りながら1日が過ぎていくのだった。




