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Feマン  作者: 馬宮茂
7/9

第7話 「決意表明」

金の金属人間スローネとの戦いで、テツは漣博士の目的を知る。それは金属人間の絶滅だった。テツは漣博士と話をするため研究所を目指す。


今日訪れる予定のFeマン、テツの訪れを待つ漣博士の研究室内には4人の金属人間。それに漣博士を加えた5人が居た。


「ま、いわばオリエンテーションだよな。これ」

「そうだな」


そのうち2人の金属人間、短髪の、ルーズなズボンと半袖のTシャツの青年須見 直人と、ボサボサ頭で白衣の星野 真男の二人が木組みの椅子に腰掛けていた。


「そういや星野さん、そのほっぺどうしたんだよ」

「これか?いや、話したくないけど…嫁にやられたんだ」


情けない顔で説明する星野を須見は笑い飛ばす。


「はは、相変わらず仲良いな」

「お前、今の話の中にそんな要素は一つも無いぞ」

「わかんだよ、俺ぐらいになると。あっはっは」

「そうかい、そりゃあいいや」


書類をまとめる紙の音でその会話は断ち切られた。


「博士、今月の自己人体実験結果です」

「ご苦労」

「なんだ、上乃木。まぁだそれやってんのかよ」

「須見、これは職務上の義務だ」

「何がわかるってもんでもなし、そんなこと無理にしなくてもいいんじゃねえの?」


へらへらと笑う須見の顔を睨みながら、礼儀正しい印象を与える上下灰色のスーツを着ている上乃木と呼ばれた須見と同い年ほどの男性は博士の机の傍に本棚を背にして立った。


「須見、確かにお前の態度は悪すぎる。きちんとやるべきことはやれ」

「へぇーへぇー、わかったよ博士。気が向いたら持ってくる」


須見のこの礼節をわきまえない態度に上乃木はいつも不満を持っているようだ。


「ゴルド、あなたもだ」


上乃木がドアの近く、壁を背に向けて腕を組みひたすらに目を瞑る金髪の容姿端麗な女性に声を飛ばしてきた。淡い黄色のタイトなドレスに身を包んだ彼女はうっすらと目を開けると、髪の毛より濃い金色の瞳で上乃木の顔を見つめていた。


「提出回数は須見と同レベルだ。非常に悪い」

「…私にその義務は無い。何度も言わせないで」

「それでも博士の研究に貢献しようとは思わないのか?」

「私はこの組織に、あなた達の情報を搾取するつもりで身を置いているに過ぎない。意味も無く餌を強くする馬鹿はこの世に存在しない。いつあなた達と反目することになるか、分かった話じゃない」

「何だと」

「おい、スローネ」


諌める須見の声も無視し、不穏な空気が部屋の中を席巻している。


「カガク、こっちだ」

「待ってよ、速い」


そこになんとも緊張感の無い喋り方の二人組が、博士の部屋の前にやってきたようだ。


「ここなの?」

「ああ、間違いない」

「……そもそもなんでこんな地下にあるのよ。結構お金かかってるのかな」

「確かに、意欲的に漣家にあまり還元しているようには見えないな」

「でしょ!?…って、あんたにあれこれ言われたくない」

「そうか。難しいな」

「入って来い」


すぐに扉を押し開いて現れたテツはチェックの薄手のパーカーに深い青色のジーンズを履いていた。

その後ろ、股下までの淡い青色のワンピースに黒色のタイトな膝上までのズボンを履いたカガクが恐る恐る部屋の中へ足を踏み入れる。

そのいきなりに、漣博士が威厳ある声で説明を開始した。


「私は最低限必要な生活費を渡している。これは私と陽子の間で行われた話し合いによって決められたものだ。疑いがあるなら後で陽子に確認してみるといい」

「う……」


顔を赤くするカガクを横目で眺めた後、テツは博士の机の前まで足を進めた。


「なぜお前が着いて来た?」


出鼻をくじかれたようだが、博士の言葉に一歩も引くまいとするようにテツの横に立ち、両拳を握ったカガクはきっぱりとした声で言った。


「私が頼んだ」

「何故」

「これ以上、あんた達に何も知らされないまま危険な目に会うのは絶対に嫌だから」


その話を聞いていたらしいスローネが珍しく口を挟んだ。


「へぇ、もっと落ち込んでるかと思ったけど」

「……」

「おい、あんまりいじめてやんなよ」

「直人…さん」

「よっ、久々。昨日気づいて欲しかったけどさ」


片手を振った意地悪な笑顔の須見に、つられてカガクも笑ってしまう。

それに力を貰ったのかどうかは知らないが、カガクは再び博士に告げた。


「もう蚊帳の外なんかごめんよ」

「…わかった。テツ、これを」


博士は机の上に置いてあった厚い書類をテツに手渡した。

書類には細かな文字がたくさん記されていて、テツにはおろかカガクにも上手く理解できないものばかりであった。


「え〜っと……」

「……」

「二人とも、小難しく考えなくていいよ。とりあえず一通り目を通してみて」


星野が出した助け舟に、眉根を寄せていた二人は素直に従ったようだ。


「大まかに重要な案件は3つ。

一つ、如何なる時の召集命令にも応じること。

二つ、本人を含めた従業員の作戦内での怪我、また死亡についての抗議は認めない。

三つ、従業員が求める衣食住の経費は提出される請求書を通して漣博士側が全額負担する。

以上だ」


博士がまとめた答えを受けて、カガクは横の星野に疑問をぶつけてきた。


「三つ目は本当に、全部負担…?」

「上限はある。一人につき3億円だ」

「さんおく!?」


あまりの数字にぽかんとしてしまうカガクの隣、何も分かっていないのが一人。


「それは凄い額なのか?」

「凄いに決まってるじゃない!3億って言えば…えっと、どのくらいかな」


一高校生であるカガクにも馴染みの無い数字に、彼女の頭も迅速な理解に至らない。


「それほど多くないと思うけど?」

「お嬢様はこれだからなぁ」

「自分の命を懸けるのよ?もっと高くたっていいぐらい」


スローネはそんな考えを持っているらしい。

スローネの言葉に釈然としないのか、二人の会話にカガクが口を挟む。


「命を…賭ける?そんなに危ないことをするんですか?」

「……私たちを見ていて、何も感じないなら大物ね」

「契約書にもあるだろ?死んでも文句言えないきつい仕事なんだ。金属人間絶滅ってのはな」

「金属人間絶滅…」


なー、と須見は向こうのスローネに同意を求めるが、彼女はただテツの方をじっと見ている。


「あなたはわかっているんでしょう?」

「あなたには殺されかけた」

「あなたが無断で人の家に入らなければ。そんなことはしなかった」

「わかっている。そこの責任は俺とカガクにある。俺はタリウムを殺し、あなたに殺されかけた。理解はしている」

「…あのなー、どうでもいいだろそんなこと。とりあえずその契約書の中身は理解してくれたか?」

「仮に俺が死んだ場合、その3億円はどうなる?」


尋ねたテツの質問に答えたのは、カガクのどこか呆然とした顔だった。


「あんた、何…言って」

「その場合、事前にお前が決めた人間一人に生前用いた金額を差し引いた全額支給することが可能だ。それでいいなら一番最初のページに苗字と名前を記せ」

「安心した。ペンをくれ」


博士は引き出しからボールペンを取り出すと、テツに放り投げた。

それを苦も無く捕まえると、テツはボールペンをしっかりと握りなおした。


「応じるな?」

「ああ。承諾した」


すると、突然テツの指が止まる。


「……」

「お、どうした」


須見の問いかけにも微動だにしないテツの顔をカガクが覗きこむ。


「…博士」

「どうした」

「俺には苗字が無い。どうしよう」


須見がああ、と相槌を打てばスローネは開けていた薄目を閉じ、カガクは何やら憮然とした顔つきになった。

博士はふと考え、


「そうだな。しばらくは漣、でいい」


そんな答えをテツに渡した。


「ちょっと、何でそんな!」

「お前は口を出すな」


口を挟もうとしたカガクを一言で押さえつけ、博士はテツが書類へのサインを終えるのを確認した。

テツが差し出した書類には、ひらがなでさざなみ てつと記されていた。


「…後々、色々な話がお前の下に舞い込むことになるはずだ。陽子やそこの須見にでも相談して、必要なものと不必要なものの判断をしっかりとしろ。いいな」


テツは大きく頷いた。


「よくわかった」

「今日はもういい。カガクを連れて家に戻れ」


すぐさま踵を返したテツに慌てて追いすがったカガクは須見たちに軽く会釈をした後、部屋を出て行った。


「…須見。そろそろアルミが到着する頃だ」

「わぁーったよ。にしても、いいのか?テツを頼んで」

「大丈夫だ。最悪の結果になるならテツを捨て駒にしたほうがいい。行き詰っていたところだ」

「けっ」


須見も部屋を出ようと、椅子から立ち上がった。


「須見、博士にその態度は何だ!」


やはり須見の態度が気に食わない上乃木が須見の肩を捕まえようとしたが。


「お前が口出すことじゃねえよ、上乃木」


きゅうと引き絞られた瞳から全てを喰らい尽くすほどの殺気が上乃木の足を下がらせた。


「あいつは俺が死なせねえ」


憎悪の表情のまま、須見は博士に背を向けた。

部屋を出た須見の後を追うように、スローネも部屋を出た。






長い廊下の途中、先を行く須見の背中に追随するスローネが声を飛ばす。


「随分彼の肩を持つのね」


須見は足を止め、振り返った。溢れ出る殺気の矛先はスローネとて例外ではない。


「悪いかよ」

「……」


スローネは押し黙ったまま視線を下げた。いつもの冷徹な無表情ではなく、喉元に何かを詰め込んだような苦しそうな顔だった。


「…黙るなよ」


須見は険しい表情を溶かし、スローネの前まで近づくと、いきなり彼女の頭を軽くポンポンと撫でた。


「心配してくれてんのか?ありがとな」


明るい苦笑いを浮かべた須見の手を、スローネの手から伸びた金色の布が弾く。


「誤解しないで。馴れ馴れしい」


須見は剣のように尖る彼女の態度の中に、言いようの無い温かなものを感じていた。

すぐさま踵を返した彼女の背中を視線だけが追って、須見はくすくすと笑った。


「可愛いなー、あれは」


その笑いも一度だけ振り返ったスローネの絶対零度の瞳に停止させられた。







時刻はすでに午後2時を回っていた頃になる。テツとカガクは帰路に着いていた。

思ったような会話の出来なかったカガクは悔しそうに歩き、テツは平然としていた。


「何よあいつ、偉そうに…聞きたいことも全然聞けてないし」

「しかし何も言い返さなかったな」

「……うるさい……でも、あんたさ、いいの?あんな危ないところに」


カガクの言葉に一つうなずいたテツは、


「どの道、戦うことになるなら情報が気軽に手に入るほうがいい」


きっぱりと言った。


「え?」

「俺はあなたと陽子を守るために戦いたい」

「……はぁ?」


真っ直ぐきっぱり言い切るテツの言葉が、カガクにはよく理解できないようだ。


「あなた達には味方が居ないと思うんだ」


怪訝な顔つきが一変、表情が不満に溢れたものになる。テツは無表情のままそれを眺めていた。


「…大きなお世話。それに、あんたみたいな奴に守ってもらわなくても直人さんがいるなら大丈夫だから」

「須見?」


テツには須見とカガクの接点がよく分からない。お互いに知ってはいるようだが。

さらにテツは心の中で思う。彼女の母親、陽子もまた須見のことを知っていた。現時点で金銭的な繋がり以外に漣家と博士との接点がほとんど無いことを考えると、過去に博士が陽子たちと一緒に暮らしていた、または須見自身が陽子たちと暮らしていたことになる。


(カガク達と須見を繋ぐのは当然組織絡みであるはずだ。そうでなければ陽子さんが金属人間のことを詳しいわけが無い)


そんな推理をしていたテツは、しばらくカガクの声が頭に入ってこなかったようだ。


「…ねぇ、聞いてる?」

「すまない。聞いていない」

「この……直人さんのほうがずっと頼りになるし、安心できるって言ってんのよ」

「そうか」

「まあ、あんたみたいに得体の知れない奴よりずっとましよね」

「……」


カガクは皮肉めいた言葉を吐いたが、前の視線の先の一点を凝視するテツから返答は無い。


「な、なによ。黙り込んで…言いたいことあるなら言えばいいじゃない」


自ら突き出した槍を引けないカガクが慌てたようにテツに不平を飛ばしてきたとき。


「あそこ、金属人間が居る」

「えっ」


テツの指が向く先、漣家の前に立って携帯電話を操るのは、くすんだ赤色のさらさらの腰ほどまである長髪を後頭部で2つに分けて三つ編みにしている、カガクと同い年ぐらいの可憐な少女だった。華奢な体つきで、半ズボンから覗く足は健康的である。パッチリとした大きな目の中に銀白色の瞳が動き、二人の姿を捉えたかと思うと、表情には満面の笑顔が浮き出た。


「おかえり!待ってたんだ」


俊敏に、10メートルほどの距離をたった一歩でテツの眼前に近づくと、


「あー!あなたがFeマン?わー綺麗!」


きゃあきゃあと黄色い声でテツの周りをぴょんぴょん飛び跳ねるこの少女は、テツの腕に絡み付いた。


「誰だ?」

「私?あなたと同じ、金属人間!アルミ・リリー、よろしくね!」

「俺は漣 テツ。よろしく」


テツの言葉に表情が渋るカガクだが、テツは気がつかない。


「…テツ、騒ぐならどこか別のところで騒いで。邪魔」

「俺は騒いでいない」

「で、誰?この陰険そうな子」

「なっ」

「漣 カガク。漣博士の孫だ」

「ああ、あのおじいちゃんなんか大っ嫌い〜っていうあれ?」


嘲る様な少女の言い様に、カガクの眼が鋭く、敵意をむき出しにする。

その無言の圧力に少女は慌ててテツの背後に隠れてしまった。


「こ、怖い」

「いい?さっさと何処かに行って」

「わかった」


リリーの腕を引っ張って、テツは近所の公園を目指すつもりで外へ出た。

彼の後ろで呟くようなリリーの声が聞こえる。


「…いい気なもんよね。何も知らないって」

「?」


訝しがるテツの腕に絡み付いて、リリーはさらに尋ねた。


「ね、ね。漣で苗字が同じってことは、養子なの?それともあの子と結婚?」

「漣博士がこれでいいといった」

「へぇー、あ、そうそう。君の初仕事、私が担当になったから。よろしくね?」

「初仕事?」

「そう。でもとっても簡単な仕事だからすぐ終わるよ。明日、朝8時!起きて準備しててね?」


指先を胸元に押し当てられ、多少の息苦しさを覚えたテツは心に不満を覚えた。


「そこまで身体を密着する必要があるのか?」

「え?…ふーん、鈍いんだ」

「?」

「よぉ、会えたみたいだな」

「須見」


そのとき、ふらりと現れた須見がテツ達二人に手を振った。


「あー、須見!」


右腕でテツの左腕を捕まえたまま、左手の指がびしりと須見の顔を指した。

須見は大きなため息を吐くと、実に面倒くさそうな表情を顔ににじませた。


「…相変わらずうるせえなぁ、リリー」

「須見、知っているか?これを」


腕にすがりつくリリーを指差すテツ。


「これって…ひ、酷い」

「ああ、これはな」

「これって言うなぁ!」

「アルミ・リリー。アルミニウムの金属人間だ」


むきになって膨れ上がった顔が一転、にっこりと笑ってみせた。


「よろしくね、テツ!」

「アルミニウム…」

「金属の一種。一円玉の材料だ」


テツは須見の顔を見た。


「仲間か?」

「そういうこった。ま、見ての通り人材不足でね」

「これでも須見よりか金属人間歴は長いんだから」


鼻高々に威張ってみせるリリーの顔に若干の違和感を覚え、テツは再び須見の顔を見た。

須見は肩をすくめて、うなずいた。


「そういうこったよ、先輩なんだこれで」

「これでか」

「だからこれって言うなぁ!」







外で聞こえていた騒ぎ声も遠くに行ってしまった。

リビングに入ってきた陽子はソファーにだらしなく寝転んで雑誌を広げる娘の姿に嘆息して、


「カガク、帰ってきたならただいまぐらい言いなさい。びっくりしたじゃない」

「はい、ただいま」

「まぁ、態度悪い」


カガクの頭に雑誌の内容はまるで頭に入ってこなかった。



『金属人間の絶滅』


漣博士が目指すものはそれなのだろう。しかしそれを研究しているのもまた博士自身だ。


(どういうつもりなの!?あいつがテツみたいな金属人間を作ったんじゃ…ない?テツが言ってた、レアメタルのこと?)


考えるだけでも頭がこんがらがりそうになるこの問題よりさらにカガクの頭を圧迫するものは。


『仮に俺が死んだ場合』


頭に反芻するその言葉。カガクは雑誌を机の上に放り投げると、両手を頭の後ろに持っていき仰向けに天井を眺めた。


(…バカじゃないの。何死んだ後のことなんか考えてんのよ)



カガクは知らない。

テツがこれからさらに深みへと踏み込もうとするその世界は、命の価値などたいしたことは無いということを。




Feマン 第7話 「決意表明」



あまり進展しませんが、Feマン7話目です。

リリーはキーマンになるはず…なるはず。須見も過去に何やらあったらしい。この辺も早く説明したいです。

そろそろ辿子のことも書きたいなぁ、と思うところでまた次回。テツとリリーの凸凹コンビにご期待ください。

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