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Feマン  作者: 馬宮茂
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第4話 「Vs TI(タリウム) 金属人間」

若干過激な描写があります。ご注意ください。



5月の夜に湿った寒々しい風が部屋の中に吹き込んでくる。

テツはベッドから跳ね起きると、真っ黒なロングコートに身を包んだその男の目を見た。

透き通った緑色の瞳が怪しく輝いている。

ともかくも、テツは目の前の訪問者に質問した。


「Feマン?」

「お前のことだろ?そう聞いてるぜ」


言いながら窓枠から腰を上げて、男は部屋の中に土足で踏み込んできた。


「まだ生まれて一日だってな。まぁ決断のときというのはいつだって唐突だし、思い切って今決めてみる!…のも悪くないと思うぜ」

「何の話だ」


テツの警戒心を感じ取ったのか、男はふんと鼻を鳴らした。


「俺達の仲間にならないか?」







Feマン 第4話 「Vs TIタリウム 金属人間」








言葉の端々に高圧的な態度を感じながら、テツはあくまでも冷静だった。


「俺は原子番号81、TIタリウム)。それが『金属人間』の証だ」

「…『金属人間』」

「俺やお前のような存在さ。ま、もっともお前は少し俺たちとは違っているがな…」

「……」

「お前は最も効率の悪い方法で作られた。成功率の低い、分の悪い…だが、その人間を材料にする方法は全ての金属人間の基本と言える」


タリウムの言葉の一部でも、テツの頭に届いているのだろうか。彼にしてみればあまりに突拍子の無い言葉だといえる。


「俺達は全世界に、お前のような金属人間を作りたいと考えている」

「…俺達、ということはあなた以外にそういうことを考える人がいると?」

「そういうことだ。ま、俺はそこの歯車のひとつ、みたいなもんだがね」

「何故…その金属人間とやらを増やしたい?」

「その前にお前、自分の力がどれぐらいあるか知ってるか?そうだな、100キロの鉄材なんか軽々と持ち上げられるぜ」

「……」

「つまり動くブルドーザーと考えていい。人間の社会を手助けするために、金属人間は必要だ。そうだな、『成長増進剤』と言い換えてもいいかもな」

「なるほど」

「わかってもらえりゃ何よりだ。で、金属人間を増やすためにはお前が要るんだよ」

「俺が?」

「さっきも言ったろ?基本なんだよ。基本が無ければ応用はあり得ない。図面がなきゃ機械は組み上げられない。理論が無ければ実践は無い」


タリウムと名乗ったこの男が発言した内容をテツが噛み砕いている。


「全ての金属人間の指標だ。それがお前の役目だ」

「……」

「で、どうだ?」

「…基本といったが。あなた達は俺をどうする気だ?」

「痛いことはねぇよ。お前は大事な見本だからな」

「嘘だな」


テツの言葉ににやついていたタリウムの口元が引き締まる。


「…何?」

「何故嘘を吐く?」

「嘘、なわけねえじゃねえか。そんな必要なんて」

「嘘、なんだな」


「あなたは嘘を指摘されると悟られまいとして真顔に戻る。1回目だけではわからなかったが、2回も続くとはっきりする」

「…何が言いたいんだ?」

「心臓の音だ。嘘というのはわかりやすいものだな」


テツはタリウムの胸を指差した。


「心音が平常のものと少し違ってきた。その後すぐに元に戻ったが。何故嘘を吐く?つまり、俺に害が及ぶということだな」

「…お前は表情が変わらないな」


「不安に思ったりだ、そんなことねえのかよ」

「あったとしても、今ではない」


「俺は『核』を取りに来ただけだ!平穏にいきゃあそれはそれでよかったんだ……もとからてめえを生かすつもりも無いんだ。生きて連れ帰ろうが殺して連れ帰ろうが、核さえ無事ならそれでいいってんだよ!」

「本性を見せたな」


右手が街灯の光を受けて輝き、テツが視線をタリウムの右手に向けた。裾から銀白色の金属が素手にまとわりついて、鋭利な槍のようなものを形どった。


「お前の体にある核を奪えばそれでいい。死んでもらうぜ…!力の使い方もわからないお前に、勝ち目は無い」

「……」


事実、タリウムは簡単に、僅かなうちにテツの命を奪うことができると確信していた。

それ故にこれから、タリウムの行動は読み易い。


タリウムが右手を引いた動きに合わせるテツ。一歩、踏み込みざま肩をかすめたタリウムの一撃をはっしと掴み取る。金属の摩擦音が響く中、テツは掴んだタリウムの腕をいなして懐にもぐりこんだ。


その一瞬、テツの右拳が右から正確にタリウムの顎を捉えた。

金属同士のぶつかる鈍く高い音が響く。


崩れ落ちたようにタリウムが倒れたのを、テツは直立不動のまま眺めていた。


だが捉えただけだった。その場に崩れ落ちたかに見えたタリウムは膝を立てて起き上がってきたのだ。


(…こ、こいつ…もう力を使えるのか…馬鹿な、そんなことが…)


タリウムの顎はテツの拳に従って右側に歪んでいた。そこは銀白色に輝き、人の体のものではなくなっていた。

テツの一撃で、冷静な思考力とここまでの余裕を奪われてしまったタリウムは狼狽していた。

反して、テツの体に大きな異変は見られない。硬く握り締めた拳は肌色を保ったまま、それにタリウム金属の欠片が僅かにこびりついている。



『予測不可能な事態に陥っても慌ててはいけない。それは最悪だ』



タリウムの脳裏を過ぎるのは、彼の憧れの人の言葉。

狼狽していたタリウムの顔つきが変貌していく。


「侮ってはいけない…理解したぜ。侮っては…」

「……」


タリウムまでもう2歩の距離。テツが一歩を踏み出したとき、タリウムの親指が何かの小物体を弾いた。

それは一直線にテツの顔、特に口元へ―――そのつぶてをテツは手で払った。テツの手のひらに残る確かな手応え…。

タリウムの口元がにぃと吊り上る。テツは手のひらを眺めた。タリウムが弾いた礫がめり込み、だんだん皮膚の奥へと進行していく。


「これは…」


その隙をタリウムは見逃さず、礫を幾重にも放った。

計5発、3発までテツは手で防いで見せたが一つは頬に、一つは素足の甲に張り付いた。

そしてそれぞれ、テツが弾いた手の物も全てテツの体にめり込み始めた。鋭い痛みがじわじわとやってくる。


「それはタリウムの欠片。毒の欠片さ」

「毒」

「毒は血管に到達すればあっという間だ。循環し、臓器に染み渡るまで1分も無い。そうなると視力障害、知覚麻痺、痙攣、呼吸麻痺…」

「……」

「致死量は1g。耐えて見せるか?」


タリウムが掲げて見せたその欠片はあまりに小さく、致死量とされた1gを超えてテツの体内にめり込み始めている。

だがタリウムが優位に立てたのはここまでだった。

全ての弾痕の場所で異変が生じ始めた。めり込んだタリウムの破片が少しずつテツの体から外に押し出されている。


「おお」

「なっ、何故…」


これにはテツも意外そうな声を上げた。


(通常の金属人間は金属を操る意思が必要だ…その意思と実現の間には、修練経験が関係ある…熟練した者ほど金属の操作が容易になるはず!)


タリウムの思考は急場に即時判断を下せるほど滑らかではない。


「……」


もちろんタリウム金属の礫が一定のところで潜り込むのをやめていたのは、理由がある。

弾痕のところ、鈍色の輝きが見える。全てだ。


「こいつ、最初から…!」

「要は。お前を先に殺せば良いだけの話だ。1gを受ける前に」


テツの体はまさに、鉄の塊と言っていい。

通常皮膚から染み込むはずのタリウム毒が全身金属であるテツにはまるで効き目が無いのだ。

毛細血管の細部に至るまで『鉄製』の、まさにテツは金属人間である。


(と…すれば!全身同じような状態であることは間違いない。後は、目、鼻、口…そうだ。それしかない!息継ぎの時、必ず呼吸器は顔を出す。その一拍を見切る!口に放り込めば、勝ちだ…!口に…!)


タリウムの思考がそこに行き着いたとたん、テツが足を進めた。

まさに鉄の塊といえる拳を握り、タリウムに向かって一直線に歩もうとした。

その出鼻をくじくようにタリウムの指先から礫が放たれる。


テツが弾いた出先の一発を弾いた瞬間、二つの礫がテツの、思わず閉じた目蓋に張り付いた。そしてめり込み始める。しかしこの攻撃がテツに通じないことは確認済みである。

タリウムの狙いは別にある。


(しまった、何も見えない…)


目蓋から奥層を目指そうとする礫にテツの目蓋が固定され、視界が奪われていた。

タリウムは暗闇に囚われたテツの首元を掴み、床に倒した。

右手を全てタリウムに変え、テツの呼吸を圧迫する。そしてテツが口を開いた瞬間、口を手のひらで覆うとタリウムの手のひらから大量の金属片が染み出し、口中に流し込まれた。


「勝った!」


思わず叫んだタリウムの腕を弾き飛ばして、両足を揃えてタリウムの腹を蹴った。

強かに壁にたたきつけられたタリウムはずるずると床に腰を下ろした。

テツは機敏に立ち上がると、口中の欠片を吐き出した。だがタリウムに入れられた欠片とその吐き出した欠片は明らかに少なくなっていた。


「あ、ははは、はははははは」

「覚悟は良いな」


そうテツがつぶやいたとたん、テツが一つ咳き込むと今度は確かにタリウムが注ぎ込んだ欠片全てが吐き出された。

タリウムの眼が驚愕に開かれる。


(何故だ!?致死量の何倍ものタリウムを飲み込んでおきながら、こいつ…!)


瞬間、タリウムは信じられないものを見た。

テツの口中が窓から飛び込んできた街灯の明かりを受けて鈍く光っていた。


「き、貴様…食道を鉄で塞いだのか!」

「…飲み込めなかったんだ」


これは無意識の行動だった。テツの体がタリウムを毒物として認識していたため、自己防衛本能によるタリウム摂取を体が拒んだのだ。


(通常の金属人間では、あり得ない…!)


人間が体内において金属を操る力というのは本能で操れるものではない。そんな人間は存在しないからだ。

テツは一度、大量の鉄と混ざり合っているために金属が本能の一部となってしまっている。


「随分と表情が変わるな。愉快なものだ」


感情の色の無い真っ白な声がタリウムの足を一歩、後ずさらせる。

テツの口元は鉄のように硬く、淡い緑色の瞳がきゅうと小さくなった。

凍りついたままの顔でテツは言い放った。


「俺はお前に用は無いが、お前に危害を与えられた以上、殺すことにする」


そして再び、拳という鉄の塊を作り出す。

TIの体から一斉に血の気が引き上げていく。テツの瞳を直視したTIの瞳が眼の中に溶けていく。


「ま、待て…!」


TIが動揺からなのか、壁に強かに背中を打ちつけた。

微弱な揺れがしばらく、漣家を振動させる。

しかしそんなことに構わず、テツは足を進める。


「入るよ、いい?」


扉の向こうで響いた声がテツの目線をタリウムから外す。

まもなく、部屋の扉をがらがらと開けて一人の少女、カガクが眼をこすりながら入ってきた。


「うるさい、何よ、今の音……っ!?」

「いいタイミングだぁっ!!!」


「むぐ…」

「手を出せばこいつの命はねえぞぉっ!!!」

「…好きにしろ」


驚愕に眼を見開いたTIに羽交い絞めにされたカガクは、状況が未だ飲み込めず、しかし見知らぬ男に拘束されている事実に、動転しようとする気に必死だった。


(こ、これ、何…?誰、なに…!?)


「これ、どういうこと…」

「その男は俺に殺されないためにあなたを人質に取った」


テツの一拍も置かない答えは動転したカガクの感情をぶんぶんと振り回すものだった。

得体の知れない恐怖がカガクの全身を覆い、顔面から血の気を奪い、唇を震わせる。


「た、助けてっ!!!」


金切り声がタリウムの頬を吊り上げたが、テツは僅か少し眼を見開いたのみだった。


「あなたを助けて、俺に何がある」

「なっ…」


その言葉が再びタリウムの顔を絶望まで突き落とす。

カガクの顔も、また。


「何かあるのならあなたを助けるが」

「正気か、こいつ…!」

「……」

「無いのか。有るのか」


そう問いかけるテツの眼差しは人間のそれではなく、限りなく機械に近いものであった。


「無い、か」


ミシッ


握り締められた拳から空気の潰れる音が聞こえる。

カガクには死刑宣告にも取れそうだ。


「く、来るな!本当にこの娘を…!」

「どなた…?」


テツの威圧感に圧倒されていたTIの背後から、陽子が声をかけた。気が動転していたTIが振り返ると、陽子が持っていた懐中電灯のスイッチを押した。

暗闇を照らし出す懐中電灯の明かりが男の視界を一瞬奪い去った。

その奪われた視界が完全に蘇ることは無かった。瞬時に反応したテツの体が跳ね、正確にタリウムの頭蓋骨を砕いた。


「ぐわっ」


鈍器で殴ったような音が響く。それだけで男の思考は完全に止まっていたが、テツは止まらず、カガクを男から引き離した。


「きゃっ」


カガクの体が壁に、荷物みたいに投げつけられる。

テツはそれに聊かも構わず、TIの首を掴んで壁に叩きつけ、その身体に全力の拳を突き入れる。


ドンッ

グチャアッ


テツの拳は胸板を拳型に陥没させた。口からごぽりと黒々と赤い血液が流れ、テツの拳に絡み付いてから、床を濡らす。

突き入れた腕を抜くと、タリウムの体は力なく壁にもたれかかったまま腰を下ろした。

血に濡れた拳を払い、テツは深く息を吐いた。


「カガク、カガク」


あくまで冷静に、陽子はカガクを助け起こしていた。先ほどのテツに振りほどかれ壁に叩きつけられた所為で、カガクは気を失っていた。


「陽子」


突然のテツの鋭い声に陽子が向くと、彼は階段のほうに目線を向けていた。


「どうしたの、テツ君…」

「そのままで」


テツは陽子に振り向いた。


「どうやら同じのがもう一人居るようだ」

「えっ、それって…」

「ここに居て。狙いは俺か、あなた達か」


予断を許さぬ声に、陽子はそれを真実として受け取ったようだ。


「助けてくれるの?」

「…あなたは」


それはテツが陽子のことを好意的に思っているということである。

だが陽子は固執して自分のみを守るタイプではなかった。


「……カガクは、助けてくれる…?いえ、もし、カガクだけでも」


陽子にとっての第一は娘、カガクなのだ。

しかしそれに対するテツの答えは、


「カガクが俺にとって何らかのメリットがあるのなら」

「……」


冷たいものだった。

陽子は少し、言葉に困ったようだったが、しかし力強く言葉を継いだ。


「テツ君、お願い。カガクを助けて」

「……あなたは自分の身が心配ではないのか?」

「それ以上に、カガクのことが心配よ。人間にはそんな損得勘定だけで動けないこともあるの。テツ君」

「……」


テツは視線を階段の方に向けた。


「階段から一人来る。逃げられるか」

「ベランダから、カガクの部屋に」

「わかった。引き付ける」


テツは床を数回、軽く叩いた。気配の主を誘き寄せるためである。


「テツ君」

「……」

「気をつけてね」



ベランダからカガクを背負った陽子が出て行くのを横目で見送って、階段を踏み鳴らす音が近づいていることに気づき、テツは階段の暗闇に目を向けた。


研ぎ澄まされた空気の中、足音の主は2階に到着しようとしていた。



4話目です。Feマンに接触したタリウムはいったい何者だったのか?次もなるべく早く書きたいと思います。

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