中央平原の戦い③
そろそろ終わりが近づいてきました。
玉砕覚悟の突撃に出た遼帝国軍に対して俺は後方の軍を前に押し出すようにして厚い壁を作った。
だが、その壁となっていたはずの兵達が宙を舞っているのだ。
恐らく呂延とぶつかった場所だろう。
「敵!止まりません!呂延がこちらに向かって突っ込んで来ます!」
「慌てるな!敵に対して剣で対応しろ、槍は少し後ろから騎乗している呂延を狙って突け!」
必死の防戦をしているのだが、呂延の進む速さは一向に衰える事無くこちらに向かってきている。
流石にこのままでは危ないと感じた俺は指示を変えた。
「狙いを呂延から奴の馬に切り替えろ!一発で無理でも何発も当てれば何時かは倒れるはずだ!」
「だ、駄目です!倒れません!血を流しながらも猛然とこちらに迫ってきます!」
俺の所からも奴の姿が見えたと思ったら物凄い速さで俺目掛けて突っ込んできている。
そして、ついに声が聞こえ出した。
「そこに見えるは、劉宗谷だな!その首頂戴いたす!」
関勝か林冲が間に合わなければ俺は死んでしまう。
だからと言ってここで逃げては恐らく二度と兵が着いてこなくなってしまう。
ここは・・・。
「我こそは劉宗谷なり!この首取れるものなら取ってみよ!」
俺はカッと目を見開き、最後の抵抗とばかりに剣を構え、呂延に相対した。
そして、ついに彼の槍が届く範囲に着た瞬間、呂延の横合いから1人の男が突っ込んできた。
「や、ら、せ、るかぁー!」
流石の呂延も俺を打ち取ろうと振り上げた所を横合いから突かれたので、対応が遅れ、脇に槍を突き刺されてしまった。
「ぐふぅ!しかし、総大将さえ仕留めれば!」
そう叫びながら再び槍を俺に突き出したその瞬間、俺の目の前に飛び込む影があった。
「ふん!」
それは林冲だった。
彼は俺と呂延の目の前に立ちふさがると、彼の繰り出した槍を肩で受け止めたのだ。
「林冲!」
「大丈夫です!これくらいかすり傷ですぞ!」
思わず叫んだ俺に林冲はわずかにこちらを向いて、笑いかけてきた。
「お、の、れ、届かな、かった、か・・・」
最後の一撃だったのだろう。
呂延は槍が防がれたのを見て崩れ落ちてしまった。
「関勝!良くやった!呂延を槍先に縛って敵軍に見える様に掲げてやれ」
「はっ!」
「林冲!お前が居なければ俺の命は亡かっただろう。ありがとう。お前は命の恩人だ!すぐに後方に下がって傷の手当てをしてくれ」
「勿体なきお言葉です」
林冲は近侍の者に連れられて後方へと下がっていった。
俺が林冲の後姿を見送って前に向き直ると、関勝が呂延を縛り付け終わった所だった。
「全軍!勝鬨を挙げよ!呂延を討ち取ったぞ!」
「「「「おぉーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」」」」
俺達の挙げた勝鬨と同時に関勝が呂延を持ち上げ、敵軍にも見える様にした。
それを見た敵兵は、それまでの勢いが嘘の様に立ち止まり、膝を落とした。
だが、彼の副官と思しき男だけは最後まで抵抗し、兵達によって針鼠の様にされてしまった。
「とりあえず、勝つことができた・・・」
ほんの二日の戦いだったが、正直どの戦よりも疲れたと言って良いだろう。
「殿、呂延の処遇は如何いたしましょうか?」
「とりあえず、鉄鎖で手足を縛ってから腹部の傷の手当てをしてやれ。目が覚めたら俺が話す」
「はっ!」
そう言うと関勝は呂延を担いで軍医の所へと向かって行った。
後の戦いは楽なものだった。
捕虜を盾に開城を迫り、皇帝である遼寧を捕らえ、奸臣李鐸とその一派を悉く捕らえ、地下牢に繋げた。
それから数日が経った。
ここ数日は荒れた帝都の政治を修復し、地震で被災した人たちの復興を勧め、捕虜とした兵達を武装解除したのちに開放した。
江中と帝都の間の関門は最初開門を拒否していたが、遼寧を連れて行くと、あっさりと開いてくれた。
こうして、俺達は帝都を、遼帝国を滅ぼす事ができたのだが、ここで問題が出てきた。
そう、宋沢である。
彼がまた兵を集めて国境付近に侵入してきたと言うのだ。
その数2万。
現在の俺の指揮下にある兵数は約3万だが、1万を関門や帝都の警備に残り1万を地震の復興作業に従事させているので、手持ちが1万しか居ないのだ。
こうなると、東部との国境にある城に立て籠もりたいのだが、彼らは未だに降伏しておらず、しかも「新帝国」を名乗り始めたのだ。
「さて、国境付近には敵だらけだな。しかも北からは狼賊の4氏族が虎視眈々と狙っているという。どうしたものか・・・」
「殿、ここは張児、王信の両将軍に攻めあがらせては如何ですか?」
張児は現在宋沢との国境の摂南城に駐留している。
兵数も1万8千とかなり大規模化しているし、同じように王信の元にも約2万近くの兵が居るので、確かに攻めさせるには丁度良い。
「そうだな、よし!誰ぞ張児と王信に使いを出せ!宋沢の牙城を一気に食いつぶせと!」
こうして、張児、王信の2人に率いられた総勢約4万の兵は一路宋沢の支配する東部地域へと向かって行くのだった。
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