中央平原の戦い①
帝国暦270年5月、俺たちは遼帝国将軍呂延の率いる約4万の軍勢と相対していた。
ただ、敵は先日戦った宋沢との傷が癒えておらず満身創痍という状態だった。
「注意すべきは呂延ただ一人だ。彼をどうにか軍から引きはがしてしまいたい。そこで、関勝、林冲の2人には呂延と戦いながら奴の行動を誘導してほしい」
「誘導、ですか?」
関勝があまり意味を理解できてない様子で聞き返してきた。
「うむ、呂延を2人で協力しながら徐々に南に向かわせてほしいんだ。俺は軍勢を指揮して敵軍を北に誘導する。そうやって徐々に奴らを分断していきたい」
そこまで説明すると、狼廉が質問をしてきた。
「あの、俺はどうすればいいのですか?」
「騎馬隊は遊軍として動いてもらう。敵を呂延に近づけさせない為にも側面を攻撃しながら本体が打ち漏らした敵を掃討してほしい」
そこまで説明すると、狼廉は頷いてきた。
「この作戦は関勝、林冲の武力と狼廉の判断力にかかっている。それぞれがやれることをやれば呂延と言えどかなうまい」
説明を終えて全員を見回すと、皆力強く頷き返してくれた。
「よし!それでは本日の軍議を終わりにする。明日は本格的な会戦になる。気を引き締めてかかってくれ」
「「「おう!」」」
翌日、俺たちは帝都の眼前に広がる中央平原に布陣した。
それに対して呂延は城を背にして陣を構えていた。
遠目から見ても列が乱れている場所があるのがわかる。
恐らく予備役か新たに徴兵した新兵を編入したのだろう。
会戦は両軍が布陣して間もなく始まった。
銅鑼の音が鳴るのと同時に両軍一斉に突っ走りだし、正面からぶつかり合った。
「我こそは関勝なり!敵将呂延はどこだ!」
そう叫びながら関勝が敵兵を右に左に鉄棒で叩き付けながら走っていくと、華美な装飾の施された鎧に身を包んだ武将を見つけた。
「そこに居るは、呂将軍とお見受けする。我と尋常に勝負せよ!」
「関勝?聞かぬ名だ。出直して来い!」
関勝が振り下ろした鉄棒を呂延は槍で軽々と受けると、弾き飛ばすや否や連続で突きを繰り出してきた。
その繰り出された突きを関勝も鉄棒で防ぐと、呂延は驚いた様な表情を見せた。
「ほぅ、俺の突きを防ぐとは名乗りを挙げるだけの実力はあると言う事か」
そう言うと、呂延は先程よりも早い突きを一息に5発打ち出した。
流石にこの連続攻撃には関勝も驚き、防ぎきれなかったのか、頬を掠って血が流れ出ていた。
「痛ぅ!流石は呂延!見事な突きだな、ではこちらもお返しだ!」
今度は関勝が一息に5発の突きを繰り出した。
呂延もこれには驚いたが、しっかりと防いできた。
その後、数十合打ち合っていると、関勝の後ろから騎馬が一騎駆けてきた。
「関勝!代われ!我こそは林冲!呂将軍いざ勝負!」
駆けた勢いをそのままに林冲は槍の連続突きを呂延に見舞った。
「ぐぅ!何だこの軍は!なぜこうも強い奴が揃っている!」
呂延が林冲と打ち合っていると、関勝が徐々に後ろに回り込もうとしている気配がしたのか、必死になって呂延は動き始めた。
「くそ!一人でも厄介だと言うのに二人も居るとは」
そう悪態を吐きながら二人の連携によって呂延は自分が望まない方向に徐々に追いやられているのを感じた。
「貴様ら!俺を軍から引き離す気か!」
「そんな事を気にせず我らと戦おうぞ!儂は今楽しくて仕方が無いのだ!」
そう言ってのける林冲の表情は本当に楽しそうだった。
日陰者として何十年も生き、やっと巡ってきた檜舞台なのだ。
これが楽しくないなどと言ったら罰が当たると言わんばかりに彼は楽しんでいた。
「林冲殿!交代だ!次は私の相手をして頂こう!」
「ぐぅ!このままでは、このままでは・・・」
流石の呂延も関勝と林冲という怪物と達人に囲まれてはなす術がないのか、軍から引き離され続けていた。
一方、俺が率いる4万の軍勢は、遼帝国軍4万を相手に圧していた。
特に徴兵されたばかりの兵が集団の足を引っ張っている遼帝国軍は、素早い動きが出来ず、側面からの騎馬攻撃に対抗できないでいた。
「よし!そのまま南北に分断して敵を撃破するぞ!狼廉!敵の右翼に回ってかき乱して来い!」
「御意!」
命令を受けると狼廉は騎馬を巧みに操り、敵右翼に対して攻勢を仕掛けていった。
「伝令!右翼が敵騎馬隊に・・・」
「伝令!左翼からも敵が!」
「伝令!徐々に北に移動しています!呂延将軍と引き離されています!」
次々にやって来る報告を前に遼帝国軍の副官達は右往左往していた。
呂延が信頼する者たちなので決して愚かではないが、呂延と引き離された事で兵が動揺を始めた事、呂延と合流する事を第一目標としてしまった事で、選択できる戦略の幅が一気に狭まってしまったのだ。
この選択を狭めてしまったところを宗谷が追撃してより選択肢を狭め、身動きができない様にしたのだ。
そんな敵の様子を宗谷は軍の中央から眺めていた。
「さて、敵さんどう出るかな?というかどうしようにも無いだろうなこの状況」
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