逆転
ちょっと短い目です。
「許厳か、右腕はどうした?」
呂延は先程までの上機嫌から一転し、底冷えのする様な声で許厳に語り掛けた。
そんな呂延の声を聴いても彼は臆することなく自らの武功を語り始めたのだった。
「いひひひ、実は先日劉宗谷の陣営に忍び込んだ際に護衛の者に切られましてな、流石の私も命からがら逃げてまいったのです。ただ、奴らの足を止める事には成功しましたぞ」
「そうか、それはご苦労だったな」
「さぁ報酬として陛下に会う為の書状をお書きくだされ」
呂延は皇帝である遼寧に会える様に取り計らう事を条件に劉宗谷の軍を止める様に許厳に依頼をしていた。
許厳としては一日でも早く遼寧に会い、成し遂げたい事があったのだ。
「そうか、まぁ約束だからな。そこの席に座るがよい。今紙と筆が来たら手紙をしたためよう」
そう言って呂延は、許厳に席を勧め、近侍の者に手紙を書く用意をする様に伝えた。
それを見た許厳は、ニタニタといやらしい笑いを顔にはりつけて椅子に座ると、急に天地がひっくり返ったのだった。
そして次の瞬間彼が見たのは、大量の血を噴き出す首から上の無い自分の体だった。
「呂延!貴様謀りおったな!良くも、良くも!末代まで呪ってくれようぞ!」
「ふん、呪えるものなら呪ってみろ。貴様が何か企んでいるのはお見通しだ。元より陛下の為の命、既に無いものと思っておるわ!」
そのまま許厳は醜悪な顔を歪ませたまま息絶えるのであった。
その様子を見た近侍は呂延におずおずと良かったのかと尋ねると、呂延はフンと鼻を鳴らして答えた。
「あ奴が陛下を誑かそうとしているのは分かっておった。今回の斬首の件は、我が命を成し遂げられなかった故の死罪だと記録しておけ」
そう言われると、近侍は平伏して記録官の元へと走っていったのだった。
次の日からも両軍が激しくぶつかり合う乱戦を演じ、その真ん中では呂延と宋沢が一騎打ちを続けていた。
「ぐぅ!流石は宋沢!中々しぶとい!」
「それはこちらの台詞!天下に名高いだけはあるな!呂延!」
お互いに一進一退の攻防をかれこれ5日が経過していた。
まさに実力伯仲とはこの事かと言わんがばかりの展開だったが、6日目に変化が出始めた。
それは、遼帝国軍が押し返し始めたのだ。
数の上では優勢だった宋沢軍が連日の激戦での被害と疲労が蓄積し、ついには数的有利も覆ってしまったのだ。
「くそ!もっと指揮官が居ればどうにかなったものを・・・現状の兵力差はどれほどか?」
「はっ!我が軍4万に対して敵軍は5万となっています。日毎に約1万近くの兵が死傷して戦線を離脱しており、特にここ2日の被害は確実に増えております」
「1万の差か・・・馬鍾、お主に頼みがあるのだが」
「・・・頼み、ですか?」
「うむ、お主に3万の兵を指揮して戦ってもらいたい」
「な!某が、攻撃がからっきしなのをご存じだろう?なんの冗談で?」
馬鍾の問い返しに宋沢は首を振って答えた。
「なに、攻めるだけが戦ではあるまい、お主にはお主の戦い方で戦ってもらえば良い」
「・・・それは野戦で防衛をしろ。とおっしゃるのですか?」
「うむ、方法は其方に任せる。好きなようにしてくれ」
「・・・わかり申した。そこまで言われてはどうしようにもございません。全力を尽くさせて頂きます」
「よろしく頼んだ」
そう言うと、馬鍾は宋沢の天幕を出ていった。
「さて、明日こそ呂延を打ち取ってやる」
そして戦いは最終局面に至る。
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