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劉皇国戦記  作者: リューク
第四部 山西攻略戦
61/78

勝敗

3日連続、多分また隔日~3日に一回に戻ると思います。


 負傷者などを乗せた荷車を見送った俺と関勝は、残った兵およそ1万を連れて山西の民が住んでいるであろう地点を目指して進軍を開始した。

 もちろん交渉に行くので、軍の先頭や両翼に白旗の三角旗を掲げている。

 これで攻撃されたら和平交渉も何も無くなってしまうので、こちらとしては平穏無事にたどり着ける事を祈るしかない。

 

 「ところで、山西の民の集落ってどの辺にあるんだ?」

 

 俺は隣を歩く捕虜に質問すると、「どこに居るかわからない」のだそうだ。

 詳しく聞いてみると、山西の民は天幕で移動を続ける民族らしく、一定の居住地を持っていない。

 なので捕虜になった時点で自分の村?がどこにあるのかわからなくなってしまうそうだ。

 

「なんとも不便な村だな・・・。まぁそれが君たちの生活にあっているならこれ以上言わないけど」


「我々も不便だと思っているが、こうしないと我らは山で暮らしていけない。山では食料を追って移動しないとすぐに食料が野生動物に食べられてしまう。それに動物の皮も貴重なお金の獲得方法なんだ」


俺の隣を歩いている捕虜はえらく親切に自分たちの境遇を話してくれている。

ちなみに彼らが山東に度々襲い掛かっているのは、貴重な野菜を獲得する為らしい。

ここまで聞くと、こちらの交渉テーブルに乗せられるものがそれなりにある事がわかって来た。


「殿、彼らとどの様な交渉をなさるのですか?」


「そうだね、とりあえず山の麓の農地を彼らに貸し与えて野菜を得られる様にする事と、捕虜の返還をだしにした和平交渉かな?後は、農地を貸すにあたって農業技術の伝達なんかも交渉の材料になるね」


「なるほど、確かに彼らの話からすると野菜を獲得する方法を欲してますしね」


「まぁ農業やりたくないって言うなら、林業してもらって木と野菜の物々交換って手もあるし、交渉の方は少しの譲歩でこっちにもあっちにも利益の出る関係を作れると思う」


そんな事を関勝と2人で話し合っていると、偵察と折衝に出していた兵が村を発見して戻って来た。



そこからは山道だけが憚っていたが、山を登り切ると彼らの村が見えた。

彼らの家は外から見ると立派な天幕だが、中を見ると木の骨組みだけの簡素なもので蛇腹に折りたためるゲルの様な構造のテントだ。

テントの中に入ると、長老らしき白髪のお婆さんが中心に座っていた。


「わたしゃが山西の民の長老のギリです。お見知りおきを」


そう言ってギリは流暢な遼国語を話してきた。

異国の地でこれだけ流暢に話せるのは余程の教養が無いと難しく、これだけでこの目の前の老婆が賢い事がわかる。

そんな老婆に俺は一礼してから自己紹介をした。


「はじめまして、私が劉宗谷です。今回はあなたたちと交渉に来させていただきました。建設的な話し合い、交渉が出来る事を望みます」


そんな前口上を言いながら交渉は始まった。

まずは今回の戦闘での勝敗について話し、どちらが優位かわかってもらわなければならない。


「さて、こたびの戦争で我が軍と貴軍は戦い、我々が圧勝しました。ここまでは宜しいですか?」


「あぁ?馬鹿言っちゃいけないよ。確かにそちらに負けはしたが、良くて辛勝だろうに約3万の軍が2万以下になったんだろ?わたしゃの耳を侮ってもらっちゃ困るよ」


「辛勝とは中々辛口ですな。しかしそちらは2万の兵の内1万6千が死に今なお我が軍に2千の捕虜が居ます。これはどう見ても我が軍の圧勝ではないですか?」


「ふん、何を抜け抜けと我が軍はまだ里の中に1万の兵が居る。そちらと大して被害は変わらんよ」


「ほう、これは異な事を、ギリさんは女子供に武器を持たせて戦われるおつもりか?そんな事をすれば山西の民は根絶やしになってしまいますぞ」


「・・・ふぅ、確かにその通りだよ。だが、我々が戦闘民族だと言う事を忘れちゃいないかね?こっちとら女子供も根絶やしにされても戦い続ける事ができるんじゃよ?」


「「・・・」」


ここを譲っては後々の交渉が不利になるのはわかり切っているので、暫くの間お互いに睨みあいを続けるが、このままでは埒が明かないので一旦こちらの条件を伝える事にした。


「・・・。このまま睨みあっても何にもなりますまい。こちらの条件をまずお伝えします」


そう言って俺が紙に書かせた条件をギリに見せた。

その条件は以下の通りである。

一、無期限の和平条約に応じる事。

二、山西の民はこれ以後山東を襲撃せず、劉宗谷の軍に力を貸す事。

三、山西の民はこれ以後木を切り倒し、劉宗谷の国に卸す事。

四、山西の民は必要以上の武装をせず、劉宗谷に従う事。

五、和平条約締結後、互いに保持している捕虜を交換する事。その際捕虜滞在時にかかった費用を払う事。(物品での建て替えは可能とする)

以上だ。


「・・・馬鹿言っちゃなんねぇな。1と3は応相談だが、他がダメだ。特に4の武装解除なんて以ての外だよ」


そこからギリはこちらの条件を修正して提案してきた。

その内容は、1と3は同じだったが、2が3年の期限を設ける事。4は完全削除、5は捕虜滞在時の金銭は半額にする事だった。

こちらとしては、正直言って飲めない条件では無かった。

4の完全削除は当たり前として、2に期限をつけてきた事と5の半額は払うと言うのは正直もっとごねられると考えていたのだ。


「ふむ、4はこちらも無理難題を言っているのでわかりますが、5は頂けませんね。せめて全額の内、4分の3は払って頂きたい」


俺がそう言うと、ギリは少し考える様な表情をしてすぐに俺に向き直り頷いてきた。


「まぁ良かろう。その辺が落としどころじゃな」


「ではその内容で締結文を用意するので少し待っていてほしい。それと、これは条件外の提案なのだが・・・」


俺はギリにここに来るまでに関勝に話していた内地に農地を提供する話をした。


「それは、誠か?わたしゃらに土地をくれるんかえ?」


「あぁ、土地だけじゃなくて初年度の種と農業技術の提供もしようと考えている。技術指導者を何人か寄越すから、そっちも平地に定住したい者を何人か選んでほしい。その者たちに農業を教え、君たちの食生活の改善に繋げて欲しいんだ」


「願ってもない申し出じゃ!すぐにでも送る者を選別して遣わせる。それで、土地はどのくらい貰えるのじゃ?」


「土地は畑で約1町半程の土地になる。そこに水田や麦、野菜の畑を作って食糧難を改善してほしい。人数は、約10人~20人の間くらいかな?」


そこから俺とギリは条約文の清書が終わるまで、他の条件を詰めていくのだった。


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