玉麗
その少女と出会ったのは、俺が関勝と打ち解けて暫くしたころだった。
少しずつ日も暖かくなり、草花が芽吹く頃に彼女と出会った。
俺が、一日の汚れを井戸水で拭いていると、後ろに人の気配がしたのだ。
慌てて振り返ると、そこには月明かりに照らし出された亜麻色の髪の美少女が立っていた。少女の顔立ちは目が大きく、口の小さいほっそりとした顔立ちで、美しいというよりも可憐と表現するのがぴったりなあどけなさの残る印象だった。
ただ、俺は可憐と感じたが、この国の美人ではないとはっきり言える顔だった。
この国は、目が細くて、顔立ちが丸く、黒く長い髪を持っていることが、美人の条件だった。
その美人像から考えると、ほぼ正反対の顔立ちで、アジア美人というよりも西洋美人になりそうな感じを受けた。
あまりの美しさに見惚れていると、少女が口を開いた。
「そんなに私が醜いか?」
開口一番そう言って、少女は目に涙を浮かべていた。
どうやら俺が何も言わなかったことで悪い方に予想をしたようだ。
恐らくこれまでも同じような反応をされたか、陰口を聞いてしまったのだろう。
俺は、できる限り優しい声で正直に少女の問いに答えた。
「いいえ、あまりに美しい顔立ちをされていたので見惚れてしまっていました」
「う、嘘を言うな!私の顔は美人の条件など一つもない!」
少女は一瞬驚いたような表情をしてすぐに言い返してきた。
「確かにこの国の美人ではないですね」
「やっぱり!嘘をついた……」
彼女が今度は怒りで顔を真っ赤にして叫ぼうとしたのを制して俺は続けた。
「しかし、西域美人ではあります」
「な!?西域?どうして西域だと美人なのよ?」
彼女は興味深そうに聞いてきた。
「西域では、目が大きく、ほっそりとした顔立ちの女性が好まれます。そして、髪は様々な色の髪の女性が居るのであまり気にされません」
「……そ、そうなのか?なんでお前は西域の美人の条件を知っているんだ?」
「昔、村に居た頃に西域美人を連れた商人が訪れた事があったのです。その時に少し話を聞かせて頂いたのと、その連れていた西域の女性を覚えていたからです」
「……やっぱり、占いの通りだ。この人が……」
「……?」
彼女は少し俯いてボソボソと独り言を言うと、俺の方をまっすぐ見つめて尋ねてきた。
「えっと、貴方の名前は劉宗谷よね?」
「え?えぇ、そうです。すみませんが貴女の名前を教えて頂けませんか?」
「楊玉麗、ここの娘です」
旦那様に娘が居るという事は聞いていたが、全く似ていなかったのもあり、俺は内心驚いていた。
「そうでしたか、お嬢様でしたか、先ほどは失礼いたしました」
俺がそういうと彼女は不思議そうな顔をしていた。
なんともコロコロ表情の変わる女性だ。見ていて本当に微笑ましい気持ちにさせてくれる。
「べ、別に気にして居ません。ただ、その、あ、明日も来ます」
そういって彼女は自分の部屋へと戻っていった。
次の日の朝、何故か昨夜の事が一部始終旦那様に伝わっていて、「娘が欲しければ私を倒してからにしろ!」と本気なのか冗談なのかわからない事を言われてしまった。
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