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劉皇国戦記  作者: リューク
第四部 山西攻略戦
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山西の要害②


 それからの戦いは正直言って消耗戦としか言えなかった。

 正面から史明が、右翼や左翼から俺が突撃を同時にかけて敵を分断しようと試みたり、敵の対応の遅れを突こうと時間差攻撃を仕掛けたりと色々試したのだが、残念ながら崩れてくれなかった。

 お陰でこちらの兵は減る一方だ。

 最初2万の軍勢を指揮していたのだが、ここ4日程の戦いで少なくとも5千の兵が死傷している。

 そのうち2千の兵は死者もしくは再起不能となっている。

 1万5千で攻勢を仕掛け続けるのはそろそろ限界と言って良い。

 

 なぜ限界なのか、まだ1万5千もあるじゃないかと言われそうだが、こう言った原始的な戦いの場では、損害が3割を越えたら軍は瓦解すると言われている。

その計算から考えると、我が軍は後1千人程の死傷者を出せば瓦解する可能性が高いのだ。

その証拠に陣内では今もあちこちから帰還を望む声が聞こえている。


「史明、そちらの陣内の様子はどうなっている?」


「あまり変わりはありません、帰還を望む兵が増えております。後1戦が限界でしょう」


「となると、明日関勝が敵陣に奇襲をかけてくれなければ我々の負け、と言う事か・・・」


「・・・残念ながらそう、なりますね」


「・・・しかし、敵も面倒な場所に陣を構えてくれたものだ。両翼が崖と谷になっているなんてありかよ・・・」


そう言って俺は地図に目を落とした。

この4日間ただ攻めているだけでは芸が無いので、軍内で一番若い兵から10人程を選抜して敵陣の左右の地形を確認させに行っていたのだが、敵は右は崖、左は深い谷という厄介な場所に陣を構えていたのだ。

そして、関勝が出てこれるのは〝崖″の方だ。


「それにしてもあいつはとことん崖に縁のある男だな」


俺は摂南の攻城戦を思い出しながら呟いていると、史明が提案をしてきた。


「いっそ我々の隊を分けて崖を登りますか?」


「いや、無理だろう。登っている途中で射落とされて被害甚大で壊滅が落ちだ。そちらは関勝に任せよう」


「では、明日が最後ですね。これで関勝殿が来なかった場合は明日夕方に狼煙を上げて夜間に撤退するという方向で宜しいですか?」


「あぁ、仕方が無いがそれで行こう。」


「それでは、今日は休みましょう。明日の朝一番に兵達に最後の突撃を命じましょう」


「そうだな、ではご苦労だった。史明もゆっくり休んでくれ」


「はっ!では、失礼します」


そう言って史明が出て行くと、俺は1人どうにか突破できないか考え続けるのだった。




翌朝、朝日が昇るのと同時に俺の麾下にある兵達に最後の突撃を命じた。

もちろん今日が最後などと言っていない。

そんな事を言えば、兵は命を惜しむ。

そうなったらすぐに軍は崩壊するだろう。

今日も兵達は急こう配の坂道を登り、敵陣を目指していたが、いかんせん足が重く、かなり遅い。

敵も疲れが目立ってきているのか、矢が飛んできたり、石が飛んでくる量が初日よりは明らかに減っている。

減っているのだが、状況はあまり変わっていない。盾で防いではいるものの、疲れで手が上がらなくなった兵から次々と倒れ、また死体を重ねる事になっていっている。

 ただ、それでも徐々に押しており、敵の柵前にまでは昨日から到達できるようになってきているのだが、いかんせん数が拮抗し過ぎている。

敵に対して3倍の兵力差が攻城をする上での適正兵力差だとするならば、要塞化されたこの土地での作戦もそれと同じと言って良いだろう。

そういった戦略的な欠点もあり決め手に欠いているのが現状だと言って良いだろう。


「敵陣前に到着しましたが、敵からの反撃にあってそれ以上奥に進むことができていません、被害も徐々に増えてきております。いかがいたしましょうか?」


伝令兵が暗に撤退を進言してきたが、今日だけは無視しなければならない。

恐らくこれが最後の攻勢になる。

関勝を待つにしてもここが最後の踏ん張りどころとなるのは明白だ。


「いや、このまま攻勢を続けろ。もう少しで援軍が来るはずだ」


「しかし・・・いえ、わかりました。前線には踏ん張るよう伝えてまいります」


伝令兵が俺の表情から何か感じたのか、言いかけた言葉を飲み込んで前線に指令を伝えに行ってくれた。


「関勝、早く来てくれ――」




前線


「撤退命令はまだか!既に使者が百を超えたぞ!」


前衛では敵の柵を壊そうと何度も木槌を持って突撃を繰り返しているものの、全くと言って良い程壊す事ができていない。

それもそのはずである、敵は木の柵を水で濡らしているのだ。

水にぬれた木は火矢での延焼を防ぎ、木槌の衝撃を横に反らして逃がす事で折れにくくなっているのだ。


「殿は何を考えておられるのだ!これ以上の被害は壊滅と同義だぞ!」


敵の柵に近づきながら前線の隊長は吼えたが、状況が好転するわけもなく敵が柵の間から繰り出す槍撃を盾で受け止めながらなんとか、柵の間近くまで破城兵を運んだものの、またしても敵からの槍撃で何人かの負傷者が出てしまった。

ただ、今回の突撃で柵の間に少しづつだが穴が広がり始め、後数回でどうにか柵が壊せそうな所まできた事もまた事実だった。


しかし、このあと少しが大変厄介なものだった。

あと少しで壊れるかもしれない、あと少しで突破できるかもしれないという一縷の望みを目の前にすると、先程までの文句を取り消してまた頑張ってしまうのだ。

もちろん相手もその穴をそのままにしておく様な馬鹿な真似はしない。

後ろからは次々と土嚢が運ばれ、穴の空いた場所に積み上げられて簡単には入れない様にされるのだ。

それをこちらは剣と槍で妨害し、相手もそれを妨害してくるので余計に被害が増えていく。


そんな事を朝から何度も繰り返し、昼を過ぎようとした頃に敵陣から動きが出始めるのだった。


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