山東城の戦い
山東城 城内
城内の頂上にある城主の執務室で崔慶は劉宗谷の軍勢を眺めながら一人呟いていた。
「流石にこの城を落とす事は不可能でしょう。難攻不落と言われた城です。城壁を越えてもその後には入り組んだ迷路のような道に各所に設置されている罠、どうやっても落ちるはずがありません・・・」
実際にその通りで、この城の周囲を囲っている城壁は幅15メートル、高さ10メートルの超弩級と言って差し支えない城壁と周囲を水堀で囲い、城の中の道は城の中の人間でも偶に迷ってしまうくらいに入り組んでいる。手動ではあるものの各所に開閉式の狭間が作られていて矢を浴びせるなどして、簡単には進軍できない様になっているのだ。
「こんな事なら最初からここに引き籠って敵をやり過ごすべきでした。丁伯などのいう事を聞くんじゃなかった・・・。ところで、敵軍どうしていますか?」
「敵は現在100mほど離れた場所で陣を作ってこちらの城を取り囲んでおります。恐らくですが、そこまで分厚い包囲では無いので、破れる可能性がありますが、如何しますか?」
崔慶の問いに近くに居た武官が応えた。
「それは最悪の場合に備えておきましょう。と言うよりも、包囲が薄いのですか?敵軍は少なくとも3万以上居たのではないですか?」
「はい、物見の報告でも恐らく3万程と報告が来ていたので、合っていると思うのですが・・・」
そこまで言うと武官は、これ以上はわからないと言葉を濁していた。
そこまで聞いた崔慶は、敵の狙いを必死になって探そうとしたが、行きつく答えは、「兵糧攻め」ぐらいで他には全く思いつかなかったのだ。
「そう言えば今の山東城の住民はどれくらい居ましたか?」
「住民ですか?住民だけでしたら約5万です。兵を合わせれば6万程になるかと思いますが」
「・・・特に増えてないですね。となるとこちらの備蓄量を見誤った?・・・いや、噂に名高い劉宗谷がそんな初歩的なミスをするとは思えない。となると、我々の知らない兵器がある?」
「我々の知らない兵器ですか?」
崔慶の独り言に先程の武官が反応したが、彼は無視して自分の頭の中で敵の次の一手を考えていた。
『兵器だとするとなんだ?敵はこちらに攻めてきてはいるが、今の所攻城兵器を持ってきたなんて話も作っているなんて話も聞いていない。新兵器があると言う話も無かった。・・・一体何が目的なんだ?なぜ攻めてこないんだ?まさか・・・』
崔慶が可能性の低いと思っていた方法に辿り着こうとした瞬間、一人の兵士が突然執務室に駆け込んできた。
「崔慶様!敵が攻めてきました。敵の狙いは西門と東門です!」
「何!?西と東?北では無いのか?」
崔慶は、劉宗谷が狙ってくるのであれば恐らく北から流れる川を利用すると考えたのだ。
その為には敵は北側と南側に兵力を集中させ、工作部隊を侵入しやすくすると考えた。だが、敵は北と南ではなく、西と東を攻めて来たのだ。
この事で崔慶は自分の目論見が外れ、余計に敵の狙いが全く分からなくなってしまったのだ。
「兎に角、西と東に兵を集めろ!北と南には必要最低限の兵で守備するのだ!」
それから数日は、昼夜を問わず守備兵が壁にへばりつきっ放しになってしまっていた。
昼はある程度攻め寄せてきては、退きを繰り返してきて、夜になると東西南北の区別なく銅鑼と太鼓の音がけたたましく響き、鬨の声を上げてくるのだ。
しかも日毎に規則性なく鳴ってくるので、守備兵を一か所に固めていられないのだ。
そんな日が何日も続いたある日、流石に音にも慣れてきたが、疲れが頂点に達しつつある状況で事は起こった。
なんと、城内から火の手が上がったのだ。
「報告します!敵が街に侵入しました!火の手が上がっております!」
そう報告を受けて飛び起きた崔慶は、急いで窓から街の方を見ると、あちこちで火の手が上がって、赤い炎と黒い煙が立ち込めているのを目にするのだった。
「敵の数は!?・・・いや城外の敵はどうしている!?この事態に敵が攻めてこないはずがない!守備隊全兵を起こして防御に当たらせろ!侵入してきた敵兵は1千の部隊でどうにか足止めするんだ!」
そう崔慶が叫んだのとほぼ同時に、彼が寝泊まりしている部屋の扉が乱暴に開かれた。
「残念ながらその必要はもうない。降伏してもらおうか、崔慶殿」
そう言って迫ってきた男は、燃えるような赤い髪と赤い目をした大男、そう関勝である。
彼の姿を見た崔慶は、自分が負けた事を悟り、静かに武器を床に置いて両手を挙げて降参したのだった。
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1夜明けて、山東城に入った俺たちは、山東城城主の崔慶と顔を合わせていた。
「負けました。どうやってこの城に侵入したのですか?川水が出入りする場所は鉄製の柵を作っていたはずですが?」
「鉄製の柵?あぁ、あれなら関勝がこじ開けてしまったぞ。今度から作るなら獅子を入れる檻の柵と同じくらいの物を用意しないと、こいつが怪力で開けてしまうさ」
崔慶の問いに俺が関勝を指さしながら答えると、彼はうなだれて1人ブツブツと言い始めた。
「まさか関帝症の人間が軍に在籍しているなんて聞いてませんよ。それではあんなのでは意味ないじゃないですか、彼が言う様にもっと頑丈なのにしていれば・・・」
そこから先は声が小さくなったので聞き取れなかったが、まぁ解ってくれたならそれでいい。
「ところで、崔慶。お前は俺に使える気があるか?もし使える気があるなら歓迎しよう。それなりのポストも用意するぞ?飽和状態の遼帝国よりもうちの方が出世はしやすいと思うがどうだ?」
俺が〝出世″という一言を発すると、さっきまでぶつくさ言ってたのを一瞬止めて俺の方を見たかと思うと、またブツブツ言いだした。
聞こえた限りでは、心が揺れている様な感じだが決めかねている様だ。
「まぁ気が向いたら教えてくれ。別に遼帝国に戻りたければ構わない。こちらとしては何もしてやれないが、命と服と少しの食料はやるから逃げるが良い。返事が決まるまで牢屋で考えてて・・・」
「待ってください!なります。家臣になります。末席でも良いので加えてください」
またえらく素早い変わり身だな。こいつを誘ったのは間違いではないだろうかと一瞬不安に思ったが、既に言ってしまった後だし、彼自身が乗り気になっているので、ここは家臣として仕えてもらう事にした。
これで山東地方の攻略は完了したが、まだ山西が残っている。
山西は謂わば蛮族の地だ。
山岳民族が残っており、彼らの歩兵は強力でかなり厄介な存在だ。
この山東を支配したと言うには、彼ら山西の民を下してからでないと安心して東進できないので、次の狙いは後顧の憂いを無くすべく、山西の民に決定した。
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