超弩級
時は少し遡って、敵襲があるのではと警戒していた頃に戻る。
俺たちが警戒を始めて少し経った頃、周囲で何人かの〝味方″の兵が出てきたのだ。
そいつらは両側にそれぞれ奇襲をかけるはずだった部隊の兵なのだが、敵の威力偵察部隊を発見し身動きが取れなくなったので、俺に指示を仰ぎに来たという事だった。
そこで俺は計画の変更をする事にした。変更点は奇襲から虚誘掩殺の計にした事だ。
まず、第一段階として敵威力偵察部隊の後背に出て封殺し、情報が漏れない様にする。こうする事で、敵は今現在この狭隘の地に何が起こっているかわからなくなる。
次に第二段階として、我が軍の偽退である。この時何もなく後退しては、敵は不振に思う可能性がある事から、敵から見えない場所で、味方同士で同士討ちを演じさせたのだ。
そして、後退していく我が軍を追撃してきたら第三段階だ。敵があらかた入ったら出入り口を封鎖する。封鎖方法は簡単だ。木を切り倒して、火を放つこれだけだ。
人がいくら火を扱えると言えど、燃え盛る火に突っ込む勇気のある奴はまず居ない。
最後の仕上げが降伏勧告だ。敵兵、敵将と言えど貴重な人的資源だ。できる事なら生かして捕らえて次回に繋げたい。そして何より戦闘は極力避けたいのだ。こちらも兵力は限られている。
そう言った事もあって、敵兵約6千を捕らえ、約3千を討つ事に成功した。
ちなみに討った敵兵の大半は威力偵察部隊の兵だ。およそ千名ずつで両脇に展開していた様だが、こちらの奇襲部隊に包囲されて全員討ち死にとなったそうだ。
「さて、これで敵兵は2万から約1万にまで減った。対して我が軍は一連の作戦で損害は5百人程か、まぁ作戦継続に支障はないな」
「殿、奇襲部隊は如何しますか?敵は恐らく今回の事で両脇からの奇襲にも警戒していると思いますが・・・」
そう言ってきたのは関勝だった。武術一辺倒だった奴がここ最近急に作戦に対して意見を出せる様になってきた。
恐らく毎夜潘夫人にしごかれているのだろう。
「まぁ、関勝の疑問ももっともだが、恐らく敵はもう居ないだろう。奇襲と追撃が失敗したのは煙でわかっているし、兵力差を考えて城まで後退したはずだ」
そう、敵はこれ以上野戦を継続する事は出来ないのだ。
1万近く兵を減らしてしまい、しかも敵の損害状況がわからないという不確定要素が盛りだくさんなのだ。どんな阿保でも城に引きこもって援軍を待つことになるだろう。
「報告します!奇襲部隊より敵が後退している指示を乞う、との事です」
「な、撤退しただろ?よし、奇襲部隊には敵追撃はせず、消火活動に当たる様に言え。あそこが燃えっぱなしでは何もできないからな」
消火自体はすぐに終わったが、敵ものんびりと撤退なんてしておらず、俺たちが盆地に出た時には撤退を完了していた。
同時に日暮れも迫ってきていたので、出入り口を背に野営を取って、明日から周辺の貴族領などを制圧してまわる予定だ。
6千人の捕虜の中にも貴族領出身の者や貴族も混じっていたので、さほど手間取る事は無いだろう。
それからの軍事行動はとても素早く、そして成果の大きなものになった。
山東城周辺には約30の貴族領が出来ており、そのうちの15の領地が俺たちに対して降伏していった。
もちろん降伏した領地からは、監察官立ち合いの元で限界まで食料、武器等を保証金代わりに提供してもらった。
これで少なくとも兵を起こす事は不可能で、後背を脅かそうとするなら遠慮なく叩き潰してこちらの官僚等に褒美として与えてしまえば良い。
「降伏していない貴族領から返事は来たか?」
「残念ながらまだ返事は着ておりません。様子見をしているのでしょうか?」
俺の問いに傍に控えていた文官が返答してきた。
どうも貴族様たちは俺たちが山東城を取れるのか疑問に思っているらしく、山東城以北の貴族領からは全く返事が無い。
実際俺の視線の先には異様に大きな城壁を持った城がそびえ立っている。
山東城、盆地にできた城の中ではかなり巨大な城で、周囲を囲む城壁は、幅およそ15メートル、高さおよそ10メートルの超弩級の城壁を備えている。
実際に商人時代に何度か訪れた経験があるが、この城の壁はなんと、若干の傾斜がある〝斜壁”なのだ。
幅、高さ、斜壁この事から考えてこの城を築いた人間は、十中八九転生もしくは、転移してきた人間だろう。
ただ、この時代でまず考えない城壁を設計しているのだが、不思議な事に鉄砲どころか火薬のかの字も見当たらないのだ。
設計者はただ守れる城を作りたかったのか、それとも火薬の作り方を知らなかったのか、今となってはわからないが、俺は恐らく前者だろうと想像している。
さて、そんな事を考える前に、この超弩級の城壁を持っている山東城をどうやって攻略するかだが、これについてはある程度見当がついているのだ。
それは、この城の立っている場所に問題があったのだ。
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