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劉皇国戦記  作者: リューク
第四部 山西攻略戦
53/78

狭隘


 接敵してからの4日間は出口付近での攻防に終始していた。

 敵は何とか我々を引っ張り出そうと、罵詈雑言、虚偽の撤退行動による誘引作戦などそれこそありとあらゆる手を尽くしてきた。

 先頭に陣取っていた関勝は何度か引っかかりそうになっていたが、それは俺が横で必死になって止めていた。

 まぁこちらも全く反応しないと、狙いに気づかれてしまうので、何度かは引っかかったフリをして前進したが、敵が反転すると同時にこちらも元の場所に戻るを繰り返している。

 

 そんな事を繰り返していると敵が痺れを切らしてきたのか、5日目の今日はやけに出入り口に殺到してきている。

 数で言えばこちらは3万(現在は別動隊が居るので2万だが)、敵は多く見積もって2万で突っ込めば向うは正直ただでは済まないだろう。

 それなのに、敵は突っ込んできているのだ。明らかに何かがおかしい。

 

 俺はその違和感を探る為、周囲を見回していた。

 特に気を使ったのは、崖の上からの奇襲だ。

 こちらが考えているという事は、相手も考えている可能性が高い。

 

 そんな嫌な予感を感じていると、近くの崖の上からガサガサと音がし始めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「崔慶様、敵に動きがありました」

 崔慶の元に報告が入ったのは、敵の奇襲を警戒して威力偵察部隊を出してから1日後の事だった。

 威力偵察部隊には、敵の奇襲部隊の発見と殲滅もしくは遅滞行為をする事を目標としていた。そして、敵部隊が居なかった場合は、そのまま劉宗谷への奇襲部隊として活動する様に指示したのだ。

 

 「という事は、偵察隊は見事に敵を混乱させたのですね?」

 そう崔慶と言われた男が問うと、報告に来た兵は黙って頷いた。

 

 「やっと、やっとここから解放される。敵が後退を始めたらこちらも追撃します。敵に悟られない様に部隊を集結させておくように指示を出してください」

 崔慶から命令を受けた兵は、「御意!」と返事をするのと同時に走り去って行った。

 その様子を後ろから見送りながら崔慶はフーっとため息を吐いて椅子に座った。

 

 「流石の劉宗谷もこの様に細い道では策も弄せないでしょう。常勝無敗の劉宗谷を撃退させたとなれば、私の株も中央でうなぎ上りに上り、こんな辺鄙な場所からもおさらば出来るというものです」

 

 「後は、敵をできるだけ削って撤退して頂きましょう。あまり損害があっても面倒ですからね。となると、突入させる兵の規模は5~8千程で……」

 それから崔慶は、準備完了の報告が来るまでの間に敵が後退し始めた後の展開を地図上で1人考え始めたのだった。


 崔慶が、展開を考え終えてから1時間後、準備が整ったのと、敵が後退を始めた報告が同時に彼の元に届いた。

 

 「これは良い頃合いで来ましたね。追撃隊全軍に通達!敵を削れるだけ削りに行ってこい!です」

 

 崔慶の命令を受けた追撃隊は、自分たちの武器、防具以外全て放り出して壊走を始めた劉宗谷の軍に向かって走り始めた。

 

 追撃隊の任務は、奇襲部隊と連携して敵を徹底的に追い回し、削り今後の作戦行動に支障をきたす様にする事だった。

 その命令を受けた部隊長は、まず敵に追いつく事を念頭に動いていた。

 

 「報告します!敵部隊、よほど慌てていたのか、食料などもそのままに逃げ出しております。追撃いたしますか?」


 「うむ、こんな好機二度とないかもしれん、敵を徹底的に叩きのめすぞ!全軍続け!」

 偵察に行っていた兵からの報告を受けた隊長は、この時、崔慶からの命令内容を考え、敵を追う事を選択した。

 理由としては、敵部隊がかなり混乱して逃げている可能性が高かったからだ。

 食料は無くてはならない物、特に道が開いたと言えど険しい山道は1日2日で走破できる場所では無い。

 そうなると敵は次第に弱ってくる可能性が高くなる。

 そう考えた部隊長は、まずは徹底的に追い回し、敵が疲れを見せ始めた段階で掃討を始め、自分たちの被害をできる限り少なくしようと考えていた。

 

 それからの2時間は入り口に殺到する山東軍と追いかけ回され、逃げ惑う劉宗谷軍という図式で進んでいた。

 しかし、2時間を超えたあたりで、背後から叫び声が聞こえたのだ。

 流石に背後で叫び声が聞こえたので、追撃をしている全山東軍が停止し、何が起こったのかの確認が始まったが、それはすぐに目に見える形で判明する事となった。

 彼らが自分たちの後ろから見たのは、天に昇る勢いで燃え盛る炎と黒い煙が見えたのだ。

 そこに、物見に行っていた兵が部隊長の所まで戻ってきた。

 

 「隊長!敵が我らの後背を木で封鎖し、火矢を射掛けてきました。とてもではありませんが、後ろには下がれません!」

 この報告を聞いた部隊長は、顔面蒼白となって全軍に前方に居る部隊を殲滅する様に指示を出したが、時すでに遅かった。

 劉宗谷軍の本体が引き返しており、敵が逃げようとする方向を塞いできたのだ。

 しかもそれだけでは無く、今まで味方が居ると思っていた崖の両側から敵部隊が出てきて、矢を射掛けてきたのだ。

 

 「隊長!我々は敵に囲まれています!指示を!」

 部隊の副隊長たちからの悲鳴のような声を聴きながら隊長はどうする事もできず、ただただ防御陣を敷く事だけに集中していた。

 そんな中、前方の敵部隊から一際荘厳な鎧を着た細長い男が最後通告をしてきた。

 

 「私は劉宗谷である!敵全軍に告ぐ!今すぐ武器を捨て降伏せよ!武器を捨て降伏する者は捕虜として扱うことを約束しよう!」

 彼が言った言葉は、今まで矢を射掛けていた崖の上の兵からも唱和され、全軍に伝わった。

 それと同時に、鎧兜を脱ぎ、手に持っていた槍、剣を地面に放り出して兵達が投降を始めたのだった。

 流石にこうなってはどうしようにもないと、部隊長達も同じように武器、防具を捨て肌着のみで投降する事になった。

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