関勝②
俺が生まれたのは、昌の街から西に5キロほど離れた農村だった。
俺は生まれた時から赤毛、赤眼だったので、親兄弟から忌み嫌われていた。
そんな俺を唯一愛してくれたのが他でもない母だった。
母は体が弱く俺を産むのも苦労したそうだった。
特に俺は、関帝病という厄介な加護を受けた赤子だったから余計に母の体力を奪っていたらしい。
産まれた俺を見た父は、何度も母に殺すように言ったらしい。けど、母は絶対に殺さないと何度も断ったそうだ。
それから俺は、母に守られながら生きてこれた。ただ、それも4年間だけだった。
俺が4歳になる時、母が流行り病に罹ってしまい帰らぬ人になってしまった。
母が死んでしまってからは本当に酷い目にあった。実の父に何度も暴力を振るわれ、兄弟からは蔑まれながら生きていた。
俺が5つになる時だった。ついに父が刃物を持ち出して俺を殺そうとしてきたのだ。
俺はどうにか家を飛び出し命からがら走って逃げた。
走って、走って、走って、逃げて、逃げて、逃げてやっとの事でこの昌までやって来ることができた。
それからは、物乞い、盗み、ゴミ漁りなんでもやって来た。
生きる事、それが唯一俺にできる父や兄弟への復讐だからだ。
そんな日々を4年だ、4年耐えてきた。
もちろんその間にも俺の関帝病の事を知っている奴は俺を忌み嫌い、遠くからゴミや石を投げてきた。
俺は、どこに行っても一人で、生きる価値のない厄介者なのかと思っていた時に旦那様に拾われた。
旦那様は俺をみてこう仰ったんだ。
「お前はいつか英雄になれる。その力を養うために私の元に来ないか?」
そんな風に言われるなんて、そんな風に見てくれるなんて思いもよらなかった。
俺は嬉しくて嬉しくてたまらず、「はい!」と即答してしまったよ。
それからは、お前も知っての通り俺は皆に馴染めるように頑張ったんだけど、前と変わらない白い目だけだ。
それでも俺は、旦那様の為にここで学び、ここで鍛え、いつか英雄になる事が恩返しだと信じている。
関勝はそこまで話すと俺の顔を見て驚いていた。
「……な、なんでお前が泣いてるんだよ!」
「……え?あ、本当だ、涙が、出てる、や……」
悲しい、家族に捨てられ、殺されかけ、それでも生きる事を諦めずに頑張っているこいつの話を聞いていて涙が出てしまったようだ。
そんな俺の様子を見て関勝は、ため息を一つ吐くと俺の方を向いた。
「そんな反応したのはお前が初めてだよ。その、ありがとう、な……」
そういうと、彼は照れくさそうに下を向いた。
俺は、そんな関勝を見て、これからこいつが生きていて楽しいと思える時を一緒に作っていけたら良いなと思えた。
そう思いながら、俺は、ただただ涙を流すだけだった。
それからというもの、関勝の態度が以前よりは柔らかくなってきた。
何よりも自分から皆に関わろうとしているのが一番良かったと言える。
そんな関勝の様子を微笑ましそうに見ている人がもう一人居た。
誰あろう楊旦那である。
彼も自分が連れ帰った関勝が皆に歩み寄っているのを見て安心しているのだろう。
この楊旦那も正直つかみどころのない人である。
俺を働かせてくれる理由も顔見知りの親父に頼まれたからというだけだったし、関勝に至っては、「関帝病」を知ってなお雇っている。
普通の商家なら従業員の関係が悪くならないように入れないようにするか、自分の護衛として育てるかのどちらかである。
けど、楊旦那はどちらもせず見習いとして働かせている。
そして何よりも不思議なのが、見習いから手代になるまで教育を施しているという点だ。
前にも触れたが、この時代は学が無いのが当たり前で、学がある奴は「郷挙里選」という官吏試験を受けるのが普通である。
一般の商家で必要なのは、文字の読み書きと多少の計算力で十分だが、ここでは違う。
見習いまではみんな一律で文字と計算の練習だが、そこで才能のなかった奴は、武術訓練をしてくれるのだ。
それも、そこそこ名の売れた武芸者を雇って教えてくれるというのだからかなり変わっている。
武芸を仕込まれた手代は、遠隔地での交渉や商品を野盗から守る護衛として活躍することになる。
しかも、希望者には旦那様が持っている兵法書を読ませて頂けるというんだから一体何がしたいのかわからない。
少なくとも商家を切り盛りするだけにしては、過剰な教育体制を取っている。
ある時、俺はこの過剰な教育体制について質問をしたことがある。
その時の旦那様の答えはこうだった。
「別に軍隊を作ろうとかそんな事は考えていないよ。君たちに教育を施すことで私が店で楽をする事ができる。私が楽をできれば次の商売を考えられる。次の商売が上手くいけば皆に儲けを返すことができるからね」
そして付け加える様にこうも言われた。
「学が付いてうちを出て官吏になりたい人はなればいい。それがまた私にとってのコネになる。そのコネを使ってより稼ぎ、また別の子を幸せにできるからね。できる限り多くの人に笑ってもらいたいんだよ。私は」
そういう旦那様の顔は照れ臭そうに笑っていた。
俺はその顔を見た時、「あぁ、この人は本気なんだろうな」と思ってしまった。
そんなこんなで学習をさせている理由もわかってきたある日、俺は不思議な少女と出会うのだった。
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