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劉皇国戦記  作者: リューク
幕間 昌の内政事情
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孤児院

 実験農場の視察が終わり、結果が良好な事がわかると俺は、次の指示を出していた。

 

 「今回実験農場で結果が良好だった事を受け、各農村から1人研修生を派遣させるように通達してくれ。派遣される実習生は、文字の読み書きができる事、覚えた事を村全体で共有する事ができる者に限ってくれ。恐らくそれで豪農等の地域の有力者の息子などが派遣されるだろう」

 

 「それは、よろしいのですか?情報が漏れる恐れもございますよ?この成果を遼国や宋沢に知られれば敵を利する事になるのではないでしょうか?」

 

 「それは、考えたが構わない。これは考え方なので、どうやっても漏れてしまう可能性が高い。それならいっそのこと、放置してしまって、農民の生活が豊かになる事に期待しても良いと思うんだ。特に宋沢はその辺りの調整力はあるだろうから、有効に使ってくれるさ」

 俺は、宋沢の力を過信も過小もしていない。

 奴の才能は、軍事だ。

 人を纏め、武略をもって敵を倒し、自身の武術も一級の達人だ。

 半面、どうしても外交などの交渉ごとに弱い所があると考えている。

 それは、僕らとの同盟もそうだ。

 あの条件を飲んでしまうと、彼らの軍事行動はかなり狭まる。

 特に、西に進めなくなってしまった時点で、彼らは南か北かを選ばなければならなかったのに、同盟で南を捨ててしまったのだ。

 それも、情報収集のお粗末さでそれを結ばざるお得なくなってしまったのは、彼の経験の無さと言って良いだろう。

 

 現在、北の狼賊の一部の部族と結んでいる同盟は、我らとの反省を踏まえて自由度を保った同盟を組んでいる。

 失敗から学ぶ事ができるという事が、俺が彼なら正しく使えると言った理由だ。

 

 「それよりも、孤児院の設立は出来たんだろう?各分野の老師は集められたのか?」

 俺が話題を変えると、傍に控えていた文官が現状について報告書を提出してきた。

 

 「これが現在の状況です。昌、凌、摂南、江中始め、海賊領改め西陵地方の主要都市にも建設しております。老師については、算術が足りておりませんが、算術の名家である陳家と朱家が賛同して下さり、近々講義がスタートできます」

 

 「他にはどうだ?自然を見ている者、天文学者や生物学者、法律の専門家などは手に入ったのか?」

 

 「残念ながら、自然を見ている者は数が少なく、また偏屈な者が多いため今回の孤児院設立には間に合いません。その他の法律家や武術家などは集まっておりますので、準備は出来ております」

 

 「では、天文学者等で来てくれているもので、多少詳しい者に無理を言って頼むか……」

 俺が話し合っているのは、孤児院という名の寄宿舎学校の設立の話である。

 これは、高峰の知識なのだが、高峰の居た世界の中で「教育学者」という教育の方法などを研究する者が居るのだが、その中の「新島襄」という人物が言って言葉がある。

 

 「一国を維持するは、決して二,三英雄の力に非ず。実に一国を組織する教育あり、智識あり、品行ある人民の力に拠らざる可からず、是等の人民ハ一国の良心とも謂ふ可き人々なり、而して吾人ハ即ち此の一国の良心とも謂ふ可き人々を養成せんと欲す」

 この言葉は現在の我が国を表していると言っても過言では無い言葉で、俺という人間が居るから保っている状態は、国として健全とは言えない。

 なので、教育改革を行おうと決心したのだが、ここで問題が発生した。

 現在の状況では、教育は金持ちの子息しか受ける事の出来ない物なのだ。

 これは、やがて軍閥などの派閥政治に繋がる問題であって、俺が死んだら一気に顕在化するだろう。

 そうなっては、遼帝国と同じ道を辿ると言っても過言では無い。

 そこで、少しでも長く健全な国家体制を作るべく、派閥にならない者を教育しようとしたのだ。

 それが、孤児への教育だ。

 今の昌、凌等の都市部には、合わせて100万人以上の人口が暮らしている。

 この中で孤児の割合は、少なく見積もっても5千人、正確に算出した場合は1万人近く居る可能性がある。

 

 なぜこんなにあやふやな状態なのかと言うと、人口流入が多すぎて戸籍情報の収集が追いつていないのだ。

 普通に入ってくる分だけでも月単位で1万人近く居る。

 これに不正規での流入者は恐らく5千人近く居り、とてもでは無いが手が回っていないのが現状だ。

 

 そこで、孤児を一か所に集めて教育し、見どころのある奴は全員まとめて文武の官僚として、雇用して、派閥を作りにくくしようとしているのだ。

 まぁ、多分百年単位で時が経過すれば、孤児院の子達が集まって派閥を形成しそうなので、それはそれで困るが、その辺は当事者が解決すれば良い話なので、放って置いている。

 

 次に教師だが、この国では「老師」と言う。

 なので、老師だから老いている訳では無く、若い者も老師と言われるのだ。

 

 ちなみに算術の老師は、30そこそこだし、天文学の老師に至っては20代なのだから驚きだ。

 まぁ大抵の若い人は、中央で認められず燻っていた学者たちなので、出世欲や知識伝達欲は人よりも数倍高い人材が揃っている。

 しかも彼らの講義を個人で受けようと思うと、半年でそこそこの広さの家一軒分の値段がする。

 それを俺たちは国庫を開き、無償で行っていこうと考えている。

 もちろん、無償で教育などという事に怒っている者も少なからず居る。

 特に怒りをあらわにしているのが、名士たちだ。

 彼らのアイデンティティは家柄と教養である。

 そのアイデンティティが侵されようとしているのだから怒るのも無理はない。

 

 「また、地元の名士が徒党を組んで来ましたが、如何いたしますか?」

 尹魁が俺に対応を訪ねてきた。

 流石に名士を相手にする場合は、どんな対応をするかわかっていても俺の意向を確認する事にしている。

 まぁ俺の気が変わってしまったら対応が変わるから、煩わしくとも返事をしなければならない。

 

 「どうせ、孤児院の事だろ?頭の固い奴らは捨て置け。兵力も無いから謀反も起こせんよ」

 俺は改革の一環として、個人に対しての過剰な兵力の保持を禁止している。

 これによって、地元の名士や豪族は、規定以上の兵力を我が軍に差し出さなければならない決まりになっており、反乱の抑止と兵力の増強という2つの取り組みを一気に解決している。

 ちなみに、各家には査察を入れている。

 もちろん、事前通告も無しに強制捜査に近い形で武器や防具の増減、兵数の状況を調べている。

 これのおかげで、当初あった不穏な動きが、今では全くと言って良い程無くなってきた。

 

 そんな事を考えながら孤児院以外の政策についての報告や今後の運用を考えていると、慌てて俺の執務室に入ってくるものが居た。


評価、感想、ブックマークよろしくお願いします。

後2話で幕間が終わります。

今後も変わらぬご後援をよろしくお願いします。

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