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劉皇国戦記  作者: リューク
第三部海賊平定戦
43/78

南陵の戦い

 

 中央では、林冲が国忠と一進一退の攻防を続けていた。

 国忠は、自分が築いた柵を使った野戦陣地でどうにか相手の攻め気を挫き、陣形を完成させない様に妨害をし続けた。

 

 「国忠様!敵がまた密集体形を取ろうとしています!」

 

 「すぐさま矢を射掛けろ!敵の陣形を完成させるな!」

 報告と同時に国忠は指示を飛ばしていた。

 とにかく中央は耐え、右翼か左翼が敵を撃退するのを待つしかないのだ。

 そんな国忠の思いとは裏腹に、戦況は徐々に悪くなっていった。

 

 「伝令!右翼部隊が陣地に追い詰められています!どうにか抵抗しておりますが、援軍を要請しています!」

 

 「右翼はそのまま耐える様に指示を出せ!こっちも正面の敵で手一杯だ」

 右翼の不利が伝えられたが、現状では援軍を出せる状況では無かった。

 ここは、左翼が敵を追い返すのを待つしかないのだが、国忠にとって悪夢の様な伝令が飛び込んできた。

 

 「伝令!左翼が、左翼が突破されました!」

 

 「なに!?左翼は敵を伏兵で倒すと言っていたではないか!どうしてそうなった!?」

 

 「逃げてきた兵の話では、敵が伏兵を的確に各個撃破し始めたので、指揮官が慌てて全軍を招集したようです。ただ、全軍集まる前に、敵に強襲され、指揮官死亡、他将官多数が死傷したことで崩壊したとの事です!」

 

 「くぅ!こうなったら、全軍打って出るぞ!敵を蹴散らすのだ!」

 国忠が命令を発した時、新たな伝令が続け様に入ってきた。

 

 「「「伝令!」」」

 

 「順番に話せ!」

 伝令は一瞬お互い顔を見合わせた後、左から順に話し始めた。

 

 「左翼敵後退しました!」

 

 「同じく中央敵後退しました!」

 

 「右翼も同じく後退を始めました!」

 この報告を聞いた国忠は一瞬、敵の罠ではないかと躊躇ってしまった。

 しかし、好機ではあるので、すぐにでも反転攻勢を行う為、右翼にも出撃命令を出し、追撃を始めた。

 

 敵が急に後退したことに一抹の不安があったものの、勝機と見た国忠は必死に追い立てたが、突如として周囲が炎で赤く染まったのだ。

 

 「火攻めだと!?奴ら正気か!自分たちまで燃えるぞ!」

 国忠は宗谷の神経を疑ったが、そうならなかった。

 それは、風向きが西風から東風に変化していた事、自陣の周囲の草をしっかりと刈っており、延焼の可能性を極力無くしたことが要因といえる。

 

 「国忠様!火が、火が何故か我が軍の方に迫ってきます!このままでは全軍火に飲まれてしまいます!」

 

 「くそ!仕方が無い!全軍に撤退命令を出せ!燃えない場所まで逃げるのだ!」

 国忠がそう指示を出すや否や、突然敵から矢の雨が降らされてきたのである。

 しかもただの矢ではない、先に油のしみ込んだ布を燃やした火矢が、兵を攻撃するのではなく、兵を飛び越えて、兵の脇に落ちて行くのだ。

 もちろんそこには、冬を前にカラカラに乾燥した草花が大量にあり、一気に燃え広がり始めた。

 

 「た、退路が全て炎に包まれてしまいました!」

 報告からの悲痛な叫びに流石に国忠も焦っていた。

 

 「とにかく、敵陣に向かって突破しろ!そうすれば炎は来ない!」

 国忠のこの指示は的を射ていた。確かに熱いが、風の向きなどから敵方に出る方が炎と接している時間は短い。

 だが、炎とは不思議な物で、慣れた人間でも周囲を全て囲まれてしまうと足が竦んで動けなくなってしまうのだ。

 

「えぇい!ままよ!突っ込め!……ぎゃ!槍が、槍が構えられているぞ!」

勇気を振り絞って突入したものの、敵方の槍に阻まれてしまったのだ。

 しかも出口と思って彼らは、自分から勢いよく槍に突っ込んで行ったことで、多くの者が深手を負うことになった。

 

 最初に突入した兵の末期の叫びを聞いた先頭の兵は、もちろん飛び込むことを躊躇してしまった。

 しかし、後ろからは唯一の出口に突っ込もうと兵達が押し合い圧し合いの状態になっており、徐々に前に押し出される形になってしまったのだ。

 こうなってくると、国忠軍は全く動けなくなってしまい、混乱に拍車がかかってきた。

 混乱は、秩序の崩壊を意味している。

 もはや国忠軍で彼の指示に従う者は無く、銘々無秩序な行動をとり始めた。

 ある者は、敵中に、またある者は、火中に、それ以外の者は動けなくなっていた。

 

 周囲が熱波と煙で覆われ、徐々に息苦しくなってきたのも動けなくなった者が増えた原因だ。

 人は酸素が薄くなれば意識を保つことが難しくなる。

 国忠の周囲は全て炎と化しており、とてもでは無いが、息ができる状況ではなくなってきている。

 加えて熱だ。

 熱は肺を焼く。

 焼かれた肺は上手く呼吸ができなくなり、酸素が不足する。

 酸素が不足すれば……先程述べた様な状態になるという訳だ。

 

 もはや自分でも何をして良いのかわからなくなった国忠は無我夢中で逃げ出した。

 とにかく生き残る事を、ただそれだけを願って走り続けた。

 そして、それを支えてくれる馬が居た事が、彼にとっての幸運だったといえよう。

 馬が必死になって炎から逃れようと逃げた先は、関勝が展開していた左翼部分であり、そこは、湖の近くだった。

 炎の中を突っ切った彼と、彼の馬は、火だるまになりながら無我夢中で湖に飛び込んだのだった。

 これによって、南陵原野での戦いは幕を下ろす事になった。

 国忠軍3万のうち生き残ったのは、1万に満たなかった。

 残りの2万は、討ち死に3千、焼死、窒息死が1万8千近くに上っていたが、死体が折り重なり、熱でくっついてしまっており、正確な数はわかっていない。

 対して宗谷軍は、2万5千のうち生き残ったのは2万2千で約3千の被害だったという。

 

 この戦いは、後に「南陵の火攻め」と言われる事になる戦いだった。

 


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