開戦前
初の大規模会戦です。
七颯が無血開城したことで、俺たちの軍は現在2万にまで膨れ上がった。
当然この2万を使って他の中立派を威圧して鞍替えさせていかなければならない。
国忠の軍は国境の警備などを根こそぎかき集めて3万程になると間者の報告が上がっていた。
実質国境を空にはできないので、2万5千が精一杯だと俺と王洪は踏んでおり、少しでも兵力差を無くす様に現在も努力している。
烏合の衆を集めてどうすると言われるかもしれないが、2万4千のうち、2万2千戦えれば残り2千が崩れてもこちらとしては、確実に勝利できる。
これが2万だけになると、少なくない被害を双方が受けることになり、簡単には勝負がつかなくなるだろう。
俺たちが何よりも恐れているのが、この膠着状態になる事だ。
俺としては、例の不気味な軍団が何時また江中に侵攻してくるかわからないので、ここらで海賊の領地を平定して戦力を上げておきたいのだ。
俺がそんな事を考えていると、王洪が天幕に入ってきた。
「宗谷殿、この先の中立派の小勢力は大半が我々に下り、兵を貸す事を了解してくれたぞ」
王洪の持ってきた降伏書と派兵する兵力の詳細を書いた紙を、受け取り目を通した。
この王洪の加入は予想以上にこの地域の平定に役立っている。
中立派としては最大の勢力であった王洪が鞍替えしたことで、自分たちを守ってくれる勢力を探さなければならなくなったのが大きい。
特に七颯から15キロ圏内の勢力が10あったが、そのうち8も下って来たのは驚きとしか言いようがない。
多分俺が1人でやっていた場合、この半分も無血で開城して、兵の拠出まで行ってくれるなんてところは出てこないだろう。
「やはり、王洪殿に入って頂いたのは大きいですな。お陰様で中立派の切り崩しが楽で良いです」
「いえいえ、それほどではありませんよ。ところで、未だにどっちつかずの勢力はどうされるのですか?」
「そうですね、どっちつかずの勢力を潰していっても仕方が無いので、無視しましょう。幸いなことに主要街道に近い勢力は全て降伏してくれているので、行軍に差し障りは無いでしょう」
「確かに、虱を一々潰していたのではきりがありませんからな。それくらいなら、戦後処理で一気に潰すという事ですな」
そう言って王洪がニヤリと笑うと、俺は肩をすくめて少し訂正した。
「あくまで〝反抗的な態度″を示した者だけですよ」
今度は俺がニヤリと笑うと、王洪が肩をすくめながら、「怖い、怖い」と呟きながら天幕を出て行った。
彼が出て行ったのを確認してから林冲が俺に顔を近づけて、囁いてきた。
「奴を自由にして良いのですか?失礼ながらあまり信用の出来る男では無いかと思いますが……」
「確かに信用はならないよ。ただ、利用価値は十分あるし、実力もある。今は適度に縛りながら使うのが一番だよ。裏切るようなら、その時は林冲にお願いするさ」
俺がそう言うと、林冲は軽く会釈をして俺の書類整理の手伝いを始めるのだった。
帝国暦268年も終わる頃、海賊の領地でも最大級の原野である、南陵原野にて両軍は睨みあっていた。
西からは潘国忠率いる3万の海賊軍、大して東からは劉宗谷率いる連合軍2万5千。
恐らく、海賊の歴史の中では最も大きな戦になるであろう戦いの火ぶたが切られるのを両軍ともに待っていた。
この様に両軍睨みあっての会戦になったのには訳がある。
それは、まず戦費の問題である。
ここ2ヶ月ほど両軍は軍事行動、政治行動を繰り返していた為、食料事情が火の車になり始めたのだ。
特に、国忠側は、穀倉地帯も少なく、森と川が広範囲を占めているので、3万の軍を動かすのは容易では無かった。
それを相手からの略奪し放題という条件によって無理矢理徴兵し、寄せ集めたのだ。
長期的な戦いよりも、会戦をもって一発で勝負を決めたかったのだ。
もう1つの理由は、国外事情である。
劉宗谷は遼国が国忠は虎賊が虎視眈々と領地を狙っており、あまり長期間開け続けるのは双方ともに宜しくない事情があった。
この様な事情があって、お互いにこれ以上長期化する前に終わらせたかったので、両者が共に会戦を申し込む使者を送ったのだった。
「さて、相手は意外や意外、ほぼ全力を投入してきたな」
「左様でございますな。恐らく虎族と裏で取引をしているのでしょう。それも期限付きで」
「なるほど、それで相手さんも会戦の使者を出してきたのか」
「ま、お互い似た様な事情を抱えていれば、同じ様な結論に至りますわな」
そう言って、俺と王洪の2人で会話していると、林冲が物見からの報告を告げてきた。
「相手の一部戦力が戦場を離脱したようです。数は約1~2千程度との事です」
「ほう、敵さん開戦前に動くか……。多分陽動だろう。こちらは戦力を向けずに会戦時間まで待機していよう。相手はどっちの方角に向かって行った?」
「離脱した部隊は、北に向かったとの報告です」
「なるほど、そうなると王洪殿の所に出てくる可能性がありますな、どうされますか?」
俺がそう言って王洪に話を振ると、彼は少し考えるふりをした後、すぐにこう言い切った。
「たかが2千、どうとでもできましょう。問題無し、ですな」
恐らく何かしらの秘策なり対策を考えついたのだろう。
本当にこのオジサンは味方にしておいて良かったと思える。
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