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劉皇国戦記  作者: リューク
第三部海賊平定戦
32/78

潘紅救出作戦

 

 潘紅への救援を行うことになった林冲将軍は、軍団を編成しすぐに出立していた。

 軍団の陣容は、歩兵3千、騎兵5百、弓兵1千5百の合計5千人だった。これに輜重隊が約5百ずつで交代に物資を運ぶことになっていた。

 潘紅の本拠地は昌から約3日の距離にあるものの、軍を連れて行くとなると、倍の6日かかるのが普通であった。

 ただ、今回の場合は救援という事で速度が重要と考えた林冲は思い切った指示を出したのだ。

 

 「よし、殿に習って輜重隊を切り離して強行軍で行くぞ。輜重隊は後から物資を満載して走ってこい。偵察兵は先に走って通り沿いの村から食料を買い上げ、飯の用意と寝床の準備をしてきてくれ」

 林冲が指示したのは、行軍の速度だけを追求したものだった。

 通常は、輜重隊を守りながら遅くとも確実に進むのが普通だが、宗谷の考え方で、輜重隊を置いていくという発想を得た林冲は、これまでの概念に無い行軍方法を編み出したのだ。

 ただ、本人もぶっつけ本番だったこともあり、後に「あれは一種の賭けだった」と振り返っていたほど、無謀な方法だったようだ。

 

 この革命的な行軍方法によって、林冲は6日かかる道のりを4日で行軍しきってしまい。

 5日目には、敵の目の前に到着する事ができていたのだった。

 

 敵が見え始めた頃、林冲は馬上から状況を確認していた。

 潘紅の立て籠もっている屋敷は小高い丘の上に立っており、街もその周辺に建てられていた。

 門はまだ固く閉ざされており、未だに抵抗している事がわかった。

 様子と状況がわかった林冲は、何かを思いついたように隣に居た兵に囁き、命令を聞いた兵は奥に引っ込んでいった。

 

 「さて、では始めるとするか……。全軍!鬨の声を挙げろ!」

 林冲がそういうや否や、横に居る副官が、「えい!」というと兵たちが「おー!」と答え、何度か繰り返した。

 それを聞いて軍の後ろから急に角笛の音と銅鑼の音が鳴り響いた。

 

 「者ども!敵陣目がけて突っ込め!」

 林冲がそう怒鳴ると同時に、走り出した。

 その後に続いて、兵たちも遅れてなるものかと必死について走り始めたのだった。

 

 

 後ろを取られた潘紅の叔父である、潘国忠は城攻めを一時中断して林冲の軍に向き直った。

 

 「者ども!昌の腰抜け軍団がやって来たぞ!迎え撃て!」

 そういって全軍を反転させ、迫りくる林冲たちに矢を浴びせようとした。

 ただ、この隙を潘紅も見逃すほどお人好しでは無かった。

 国忠が反転しきったのを確認するや、全軍に矢を番えさせ、一斉に射掛けたのだ。

 

 「撃て!撃って撃って撃ちまくれ!今が反撃の時だ!」

 城から一斉に射掛けられた国忠軍は一時騒然となった。

 それまで、虫の息と変わらない状態だった潘紅がいきなり後ろから射掛けてきたのだ。

 

 「ええい、うっとおしい、盾兵は後ろを警戒しろ!弓兵は気にせず前の突っ込んできた奴らに射掛けろ!」

 そう国忠が命令するのと同時に背後の盾兵がにわかに騒ぎ出したのだ。

 

 「何事か!?」

 

 「はっ!後ろから潘紅が打って出てきました」

 

 「打って出てきただ?なら丁度いい、そのまま城に雪崩れ込め!」

 そういうと、国忠軍は前後で2つに分かれてしまったのだった。

 それも、全面は弓兵と槍兵という防御力の低い兵が前面に立ち、後ろは盾兵という攻撃力の低い兵が城に向かって殺到するという奇妙な状況になってしまっていた。

 この好機に林冲も馬の足を速めて槍兵のど真ん中に突っ込んで行った。

 

 「おい、一人突っ込んでくるぞ!槍を前に出して殺してしまえ!」

 そう槍兵が言うと、一斉に林冲の目の前に槍が剣山の様に出てきた。

 

 「そう簡単に死んでたまるか!」

 林冲は馬ごと突っ込む勢いで走ると、直前で馬を急停止させて、鞍から一気に飛び上がり、槍兵たちのど真ん中に飛び降りたのだった。

 

 「なぁ!飛んできただと!」

 これには流石に驚いた槍兵達だったが、次の瞬間には林冲が振るった槍の一突きで後ろの兵と一緒に死出の旅に出ていた。

 

 「この場所を開けてもらうぞ!」

 そういうや否や、林冲は槍を振り回し、一振りで5人同時に手や胸を傷つけ戦闘不能にすると、そこからは上下左右に振り回し、周囲に居る槍兵たちを蹴散らしていた。

 

 「たった一人に何をてこずっている!さっさと囲んで殺してしまえ!」

 部隊長らしき男が命令すると、周囲の兵が林冲に向き直り槍で突こうとしてきたが、追いついた林冲の兵によって場は再び荒らされるのだった。

 

 「林冲様!一人で走って行かれては困ります!替え馬です。お乗りください!」

 そういって、追いついてきた林冲の副官が引いてきた馬に乗り、林冲は再び走って敵軍内をかき回すのだった。

 

 この様子を遠巻きに見ていた、国忠は軍全体の陣形が完全に崩されているのに遅まきながら気づいて、撤退を指示していた。

 

 「ええぃ、このままでは壊滅してしまう。全軍に撤退の合図を送れ!」

 合図の銅鑼が鳴ると同時に、国忠軍は東に進路をとり、城を開放していった。

 その様子を見ていた林冲は、一瞬追撃をしようかと思ったのだが、宗谷の注意とこれまでの強行軍で明らかに限界を超えている兵を見て、追撃を諦めるのだった。

 

 そんな林冲軍が活躍している時、江中には宗谷が1万の援軍と共に到着するのだった。


評価、感想、ブックマークお待ちしております。

本日、21時にもう1つ投稿します。


※1話を少し改稿しました。東西を間違えて書いていました。

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