二方面作戦
本日から第三部です。
結婚式も初夜も無事に終わった。
本当にこう、なんというか女性って良いよねって事を実感できたかもしれない。
さて、そんな夢の様な時間はすぐに過ぎてしまう。
ここしばらくの間に昌を含めた江南地方の四城で募兵と調練を繰り返し、現在の我が軍は、昌2万、凌、7千、摂南1万、江中1万2千の合計で4万9千の兵にまでに膨れ上がった。
ただ、数は揃ったのだが、問題があった。
それは訓練の難しい騎兵と弓兵があまり育っていないのだ。
弓兵は、昌で3千、凌で5百、摂南で1千、江中で2千と心もとない数字である。
騎兵に至っては凌では、百にも満たない数しか揃っていないと報告を受けている。
凌の場合は港が近く騎馬の活躍する場が少ないという事情があるとしてもかなり少ない。
他の城でも騎兵だけは数が揃っておらず、全軍を合わせてやっと3千と言ったところだ。
まぁとりあえず、歩兵という名の槍兵は揃った。
ちなみに槍兵には、この時代には存在していない三間槍を導入している。
これは、通常の槍よりもおよそ2~3倍の長さを誇っており、こちらから一方的に攻撃する事ができる。
もちろんこれにも問題はある。それは、長さ故の取り回しの悪さである。
草原地帯ではこれで大丈夫なのだが、海賊の領地を抜けると山岳地帯に入っていく、山間部は足場が悪く、周囲も開けていないので三間槍は扱いにくく、無用の長物と化すので困っているのだ。
まぁ山岳地帯に入ったら槍を短くして運用する方が良いのかもしれない。
そんな事を考えながら戦争の準備の最終チェックをしていると、伝令が大慌てで執務室に駆け込んできた。
「失礼いたします!火急の要件です!江中から援軍要請です!」
「江中だと!?相手の数は?」
「それが、狼煙だけですので詳細は不明です」
狼煙だけか、ただ、江中には1万を超える兵と堅固な城がある。
あの城は、過去に昌を都とした国が北からの防衛の為に築いた城なので、遼国から攻めるには難しく、こちらは守るに易いのが特徴だ。
特に、北を流れる赤江はこの大陸を東西に流れる巨大運河で、川幅だけでゆうに1キロ近くある河だ。
もちろん渡るには船が必要で、敵が接近すると同時に渡し守を一時的に城で囲ってしまう事で、相手の渡河を防ぐこともできるのだ。
その河川が流れる江中が落ちようと思えば、軽く4万から5万の兵が必要になる。
それに守備に残しているのは、堅実な王信将軍だ。
彼が1万の兵をもって江中に詰めれば、俺がいくら兵を集めても攻め取るのは難しい。
「あの王信が援軍を欲するという事は、それだけ切羽詰まった事情があるのやもしれん。まずは輜重隊を切り離して最大速度で歩兵、弓兵を送れ!食料は行きの分だけで良い!後で送ると伝えておけ!」
俺が伝令兵にそう伝えると、各部署に向かって駆けて行った。
「しかし、こうなると海賊の方も活気づくかもしれないな……」
俺がそう考えていると、また伝令が走ってきた。
「伝令!潘紅様から援軍要請です。敵が攻めてきたとの事……」
「敵の数を言え!」
伝令が言い終わる前に遮って聞きたい情報を聞いた。
「はっ!敵は7千程との事です。潘紅様の軍は2千で、現在籠城中でそう長くは持たないとの事です」
こっちは具体的な数字が出ているのか、最悪江中を放置して潘紅を先に助ける事も考えなければならない。
「江中と潘紅の所とで兵を二分する。先ほどの命令と変わった事を各部署に伝えろ!林、史両将軍と各部署の代表者を同時に呼んで来い!軍議を開く!」
俺がそう怒鳴ると、再度伝令が走り命令の訂正と呼び出しがされた。
数十分後、各部署の代表者と両将軍が集まり、軍議を開始した。
「さて、伝令で各々事情は聞いていると思うが、江中と潘紅の2か所が同時に攻められた。これに対応するための話し合いをしたい」
俺がそういうと、林冲が手を挙げて発言してきた。
「殿、両方を助けるにはちと数が足りませんぞ。どちらか一方に我慢をしてもらわねば間に合いますまい」
林冲がそういうと、史明など主だった者も首を縦に振っていた。
「確かに林冲の言う通りでどちらも同時に行くのは至難の業だ。だが、これを可能にしなければならない」
俺がそう言うと、全員が難しい表情になった。
言うは易く行うは難しとはこの状態と言える。
だが、どちらか一方でも落ちたらこちらが身動きできなくなってしまうのだ。
「今現在、敵の数がわかっているのは潘紅の方だ。その数は7千で、現在は潘紅が2千で籠城しながら耐えているらしい。よってこの7千を叩こうと思う。林冲、城の兵と呼応できると考えてどれくらいの兵があれば潘紅を助ける事ができる?」
俺が林冲に問いかけると、林冲は目を瞑って兵力の算出をしていた。
「……そうですな、城の兵力が2千程残っているのならば4千もあれば大丈夫でしょう。ただ、2千以下だった場合を考えると心もとないので、5~6千あれば救援は可能かと思われます」
「そうか、ではすまぬが5千でどうにかしてくれ。目的はあくまで敵を追い払うことであって敵を殲滅する事ではない。その事を肝に銘じて動いてくれ」
俺がそう言うと、林冲は「御意に」と言って頷いてきた。
「では残り1万5千のうち1万を率いて江中に俺が向かう。史明にはこの昌を守ってもらいたい。恐らく遼国は今回の事でこちらにも何らかの策を巡らしているかもしれん。しっかりと守ってほしい」
俺の指示を聞いて全員がしっかりと頷いた。
「では、各々自分の準備に取り掛かってくれ。なお、林冲は潘紅を助けたら、そのまま俺が向かうまで助けてやってくれ。以上で終わるが意見は無いな?では、解散!」
そういうや否や全員が走って準備に取り掛かった。
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明日は、一か月記念として、2話投稿します。
追記:モーニングスター大賞に新しい作品でエントリーしました。「ゼロの魔術書」というファンタジー物です。宜しければそちらもご覧ください。




