結婚式
式当日です。
私の中で、宗谷の嫁は玉麗だけの予定です。(あくまで予定ですw)
指揮官を採用し終わった俺は、次の準備に取り掛かっていた。
そう、結婚である。
ちなみに、高峰は未婚のまま死亡しているので、両者通じて初の結婚式である。
そのせいもあって、ここ何日か俺はマリッジブルーというものになっていた。
「高峰、なんというか、不安だな」
『流石に劉君も不安かい?僕も結婚は体験したことないからね』
俺は今、自分の不安を紛らわせるために高峰の居る白い部屋に来ていた。
「しかし、この部屋は相変わらず真っ白だな。何か飾ったりできないのか?」
俺が辺りを見回しながら壁すらない様に見える白一色の空間について質問した。
『ん~一応ソファーとかを置くイメージはして出したんだけど、イメージしなくなったらすぐに消えちゃうんだもん。疲れちゃったよ』
そう言って高峰は悪戯っぽく舌を出して答えてきた。
「イメージし続けないといけないのは、辛いな」
『まぁ一応テレビみたいに君の見ているものが見えるから退屈はしないけどね』
一応俺の見たものは高峰にも共有されているらしい。
『「ところで大丈夫か?」』
あ、質問が被ったという事は、心の声がダダ漏れだったのだろう。
『まぁ1つの肉体に2つの精神だからね。少し摩耗しているけど大丈夫だよ』
「俺の方もどうにか大丈夫そうだ。まぁ転生なのだから元が似た者なのかもしれないな」
『そうだね。僕が読んだことのある漫画の様な状態にはならなさそうだね』
その漫画では、2つも精神があるために、正邪のバランスが崩れて聖女を手にかけようとする教皇が出てくる話だ。
「あぁ~あんな風に悪落ちだけはしたくないな」
俺が笑って言うと、高峰も同意してくれた。
『まぁ僕たちの場合は正邪とはっきり分かれていないから大丈夫だよ。ただ……』
珍しく高峰が言い澱んだ。
「人の生死が軽い、か?」
俺が高峰の言いたい事を引き継いで言うと、高峰は無言で頷いた。
「そればかりは、すまんが慣れて欲しい。この時代は、高峰の居た平和な時代とはかけ離れている。殺さなければ殺される世界なんだ」
俺がそういうと、高峰は俺を見据えながら確認の言葉を発した。
『撃たれる覚悟が無い奴は撃ってはいけない、かい?』
「そうだ、俺たちは生き残るために撃ち始めたんだ。相手に撃ち返されるのも、こっちが返り討ちにするのもお互い様だ。だから、血を流すのを最低限にしたい。極力被害を減らしたいんだ」
『そのために策を弄してまで地盤を固めたんだ。ここから先が本番だね』
高峰の言葉に俺は力強く頷き、目を瞑った。
次に目を開けた時に見えたのは、いつもの寝室のベッドだ。
俺の隣には、幸せそうな顔をして玉麗が寝ている。
今日、俺は彼女と結婚する。
その笑顔を俺は守れるのだろうか?
大国に対して反旗を翻し、勝ち続けなければならない。
一つでもミスをすれば、全てが崩壊してしまう。
そうなれば、この笑顔も見れなくなるだろう。
そんな不安が彼女との結婚を俺に躊躇させている。
「そんな事考えても仕方が無いよな……」
誰に聞かせるわけでもなく、俺は呟いていた。
次の日の朝、街は早くから式の最終準備が始まっていた。
沿道には警備の兵たちが見回りをし、会場では尹魁達が忙しそうにしていた。
俺はその様子を城の一室から眺めていた。
結婚式用の衣装に身を包み、花嫁である玉麗の準備が整うのを待っていたのだ。
ちなみに俺の衣装は、真っ赤な絹製の布に金の刺繍がふんだんに施されているものだ。
特に金の刺繍は龍を象っており、とても煌びやかな印象を与えている。
「宗谷様、花嫁の準備が整いましてございます。こちらへ」
俺が自分の衣装を点検していると、係りの者が呼び出しに来た。
俺は、係りに誘導されて花嫁が準備していた部屋へと案内された。
「では、宗谷様中で花嫁がお待ちです。お入りください」
そういって係りは扉を押して中に入り、一礼した。
俺が中に入ると、玉麗が椅子に座ってこちらを見ていた。
その姿は美しいの一言だった。
亜麻色の髪は綺麗に編み込まれ後ろにまとめられ、頭上には大きな金の飾りがついた冠を戴き、衣装は俺と同じように真っ赤な生地に金の刺繍がされていた。
刺繍は俺とは違って、鳳凰を象っており、より優雅な印象を与えてくれた。
そして何よりも、彼女の嬉しそうな、恥ずかしそうな表情に俺は魅入ってしまい、言葉を失っていた。
その様子を心配したのか、玉麗が口を開いた。
「あの、どうですか?似合っているでしょうか?少々派手な気がしていて」
「え?あ、あぁとても似合っている。というか、似合い過ぎて一瞬言葉を失くしてしまったよ」
と笑いながら答えると、玉麗も安心したのか、ホッとため息を吐いてこちらを見てきた。
「それは、良かったです。この衣装お揃いなのですね。それにしても発表から式まで時間が無かったのに良くこんなに良いものが手に入りましたね」
「うん、どうやら尹魁の奴がいつでも式を挙げられるように衣装を準備していたらしいんだ。全く手回しの良い奴だよ」
これだけ手の込んだ衣装が1週間やそこらで用意できるわけがない。
俺が江中攻めをしている時に尹魁が既に発注していたらしい。
「でも、彼のおかげでとっても素晴らしい式ができそうですね」
「確かに、その事に関しては感謝しきれないな」
そういって二人で笑いながら見つめ合った。
「あなた、これで本当の夫婦になれます。幸せにしてくださいね」
「あぁ、俺の出来る限りの事をして幸せにすることを誓うよ」
それから式は滞りなく行われた。
沿道に集まった市民には、馬車でパレードをして2人の様子を見せ、会場の近くでは、肉と酒が大いに振る舞われた。
そのお陰もあって、多くの市民が歓声を上げ、祝福してくれた。
玉麗の笑顔と、民の笑顔、臣下の笑顔が集まった最高の式になった。
ただ、式の最後に玉麗が、「両親に見せたかった」と呟いた事だけが俺の耳にはっきりと残っていた。
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