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劉皇国戦記  作者: リューク
第二部江南地方制圧戦
26/78

同盟


 宗谷達が西進の準備を進めている時から少し遡って、江中城攻略の準備をしている頃。

東部地域では、宋沢が一人ため息を吐いていた。

 

 「はぁ、どうやっても西に進めない。呂延はもちろんだが、なんで狼賊まで出てくるんだ」

 

 宋沢は度々西に進もうとして中央地域に当たる済陽まで進んでいるのだが、呂延の守る済陽城を抜けず苛立っていた。

 また、済陽城を攻城している時に限って、北から狼賊が侵入してきて後背を脅かしてくるのだ。

 流石に連戦連勝で勢いに乗っていた青巾党も一度勢いを止められてしまうと、二進も三進も行かなくなってしまったのだ。

 

 「ここまでタイミングが良いと、恐らく狼賊は遼国と組んでいるだろうな……」

 宋沢は、このまま西進する事がほぼ不可能だと考えていた。

 地理的には、宋沢が現在居る東部地域から中央地域に入るには、済陽を突破するのが最短距離になる。ただし、済陽には一大軍事拠点である済陽城があり、他にも支城や監視台等が点在する堅固な場所になっている。

 当初の予定ではこの済陽を勢いに任せて破ってしまう事を考えていた宋沢だが、この城に呂延率いる中央軍が入ってしまったので、計算が狂い始めてしまったのだ。

 

 中央軍は、現在この遼帝国内で最大かつ最強の軍団であると目されている。

 兵の数は2万とそこまでの数では無いが、練度・装備共に随一とされている。

 

 対して宋沢の率いている青巾党は、数こそ10万人規模にまで膨れ上がってはいるものの、練度と装備では確実に中央軍に劣っているのである。

 それでも、宋沢の卓越した指揮能力と武力をもってすれば勝てない事は無いのだが、狼賊が横槍を入れてきては話が別である。

 これが、宋沢が長らく足止めをされている原因の一つでもあった。

 

 「まずは、狼賊を何とかするか……。後は南の昌で起こった反乱だな。この期に南の反乱をこっちに合流する形で統合してしまっても良いな……。」

 この時、宋沢の元には第一報しか届いていなかったのである。

 その原因は、摂南城が落とされてしまい、第二報を持った間者が逃げ出せない状態になってしまったのが大きかったと言える。

 

 「うん、それが良いな。誰か居るか?伝令を呼んでまいれ」

 こうして宋沢は、昌での小規模な反乱と考えて、伝令を出してしまったのだった。

 これが、この後、宋沢と宗谷の2人を生涯にわたって争わせる原因になるとは、この時誰も予想していなかっただろう。

 

 

 

 

 

昌城内「謁見の間」

 

 俺は、海賊との取引を終えてから昌に戻ってきてすぐに謁見の間に呼ばれることになった。

 なんでも青巾党から使者が来たらしい。

 

 俺が謁見の間に到着すると、手に青い巾を巻いた官服を来た40代くらいの男が居た。

 

 「私が、劉宗谷です。青巾党の宋沢殿からの使者と伺いましたが、何用ですかな?」

 俺が自己紹介と一緒に用件を催促すると、使者は俺に対して一礼もせずに話し始めた。

 その態度を見て、左右に控えていた、尹魁と黄煉の2人が顔を一瞬顰めるのが視界の隅に見えた。

 

 「劉宗谷殿に申し上げる。貴君に我ら青巾党に入る事を許す。ついては、昌の統治を任せる故、何かあった際には助けるので、連絡役を置いていきたい。と、我らが主、宋沢様からの言伝です」

 流石にこの上から目線の物言いに腹を立てたのか、尹魁がいきり立って叫んだ。

 

 「なんという無礼な!我らは青巾党の家来ではない!何の権限があってその様に命令をするか!」

 確かにこの使者の言い方は余りに酷かった。

 昌やこの江南地方は我らが勝ち取った物なのだから、命令してくるなど筋違いも甚だしいのである。

 

 「まぁまて、尹魁」

 俺が落ち着かせようと声をかけると、今度は俺に怒鳴ってきた。

 

 「これが落ち着いていられますか!こんな無礼な話聞いたこともない!」

 

 「確かに無礼だ。だが使者殿の情報はどうやらかなり前の物だろう。確かに昌城だけをとったのだとしたら、今の提案は魅力的だった」

 そこまで俺が話すと、黄煉が続きを話し始めた。

 

 「だが、我々はすでに江南地方一帯を制圧して実効支配を始めている。ですね」

 そう、使者は恐らく昌から凌、摂南、江中の三城を既にとっていた事を知らないで来たのだろう。

 その証拠に、黄煉の言った事を聞いたとき、かなり驚いていた。

 

 「さて、使者殿。我らの現状をこれで理解して頂けたと思うのだが、ここで私から提案がある」

 

 「提案、ですか……?」

 このままでは手ぶらで帰る事になるので、使者としても提案と情報だけでも持って帰るべきだろうと考えたのか、話に乗ってきた。

 

 「我らと同盟を結ぶというのはどうであろう?恐らく摂南辺りまでは宋沢殿の領域になってきていると思う。この領域が接した時、互いに東進も南進もしないという不可侵同盟を結ぶというのはどうだろう?」

 ここまでいうと、使者は目を瞑って黙って考えていた。

 少しの間待っていると、使者がこちらに向かって頷いてきた。

 

 「では、こちらとしては同盟を結ぶために、文を2通用意しよう。それに私と宋沢殿の名を書き、同盟締結としたい」

 俺がそういうと、黄煉がすぐさま書記官に小声で何事か言うと、紙に同盟の文章を書き始めた。

 

 同盟は以下のとおりである。

1、互いの支配地域には立ち入らない事

2、遼国を滅ぼすまでこの同盟は有効である事

この2点を決め、文としてしたため、2通作った。

 

 「では、使者殿。申し訳ないが、2通共に署名して頂き、持って戻ってきていただきたい。名が書かれた紙にこの印を押し、両方の紙が同盟の証となるようにしますので、必ず宋沢殿にお届け下さい」

 そういって、2通の文を使者に尹魁が渡すと、使者は謁見の間から退出していった。


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