次の一手
黄煉さん再登場です。
地下牢と言っても比較的低層なので、風通しもそこそこあり、日も入ってくる牢に彼は入れられていた。
「さて、話して頂けると聞いて来たが、なぜこんな所に入れられておられるのですかな?黄煉殿」
俺がそういうと、黄煉はため息を吐いてから牢に入れられた経緯を話し始めた。
「貴方に城を落とされてからこの江中城まで戻ってきたのだが、太守に凌城を落とされた事とおめおめと一人逃げてきた事を糾弾されてな。最初は打ち首にされそうだった所を他の方々にこれまでの功績と相殺して命だけは助けてやってほしいと嘆願して頂いて、こうして牢につながれて居るのだよ」
「そうか、で、今後はどうしたいのだ?」
そう俺が問いかけると、黄煉はこちらを真直ぐ見つめ、頭を下げてきた。
「私としては遼国と主君に義理は果たしたと考えています。もしこんな私でもよろしければ、貴方に仕えさせて頂けないでしょうか?」
「では、まず牢から出て身支度を整えられよ」
俺がそういうと、近くに居た牢番が鍵を開け、黄煉を外に出した。
俺は黄煉の手を握りながら、彼を歓迎する旨を伝えた。
その後、黄煉は身支度を整えるため、兵に連れられて出て行った。
「これで少し楽ができるな……」
ここで黄煉が手に入った事は俺にとって嬉しい事だった。
これまで事務仕事の中で決済が必要な物は俺か尹魁のどちらかしかおらず、どう考えても人手が足りていなかったのだ。
その点を黄煉はカバーしてくれるだろう。
彼は本来補佐をする事が得意な人物であると俺は見ている。
大将の器ではなく、既定路線の上で様々な準備や障害の排除などに力を発揮できるタイプだと考えている。
なので、彼を手に入れた事で、俺と尹魁はあの積み石地獄の様な書類の山から少しは開放されるだろう。
「そういえば、昌の内政を尹魁に任せっきりにしているが、大丈夫だろうか?」
それから数日後、俺たちは昌に戻ってきた。
一応の防衛ラインが整ったので、これで一息つくことができる。
そう思って執務室に入ると、書類の山に埋もれてガリガリに痩せた尹魁が必死に筆を走らせているのだった。
「尹魁?大丈夫か?」
俺がそう問いかけると、尹魁は鋭い目つきで俺を見てきた。
「……つ、ついに殿の声と、姿が見える幻覚が、……」
そう言ったかと思うと、彼はバッタリと倒れてしまったのだった。
その様子を俺の後ろから見ていた黄煉は、冷静に典医を呼び、医務室に運ぶよう指示を出していた。
尹魁が連れ去られてから執務室内で、俺は黄煉と今後の方針を話していた。
「まず、今後の方針だが、考えているのは、西ルートでの進軍だ。これは、東から行くと青巾党という面倒な相手とぶち当たってしまう事を避けるのが目的だ」
「確かに、青巾党とこちらがぶつかっては、遼国を利するのみですからね。ですが、西ルートの場合、どうしても海賊の領土を通る事になりますが、よろしいのですか?」
そう、進軍ルートは2つある。
一つは東ルートで、本来ならこっちを通る方が、道が整備されていて通りやすく、攻め易い。
だが、現在東ルートは青巾党に占領されており、下手に近づけば戦闘になりかねない。
できる事なら、青巾党には遼国を釘付けにして頂きながら戦力を削いで頂きたいのだ。
そうなると、こちらの進軍ルートは西になる。
ただ、西ルートは遼国を脅かす蛮族の海賊が勢力を伸ばしている地域でもある。
その為、道は整備されておらず、進軍しにくい状況になっている。
なので、このルートを通るには海賊をどうにかしないといけないのだ。
「西ルートを通るとして、どうしたものか……」
俺と黄煉の二人で考えていると、間者から報告があると知らされた。
良い考えも浮かばなかったので俺は、一旦報告を聞きに間者の元へと報告を聞きに行った。
「ご報告します。海賊の頭領が先日亡くなりました。その為、海賊の内部で後継者争いが発生しております」
「ほう、頭領が亡くなったか、誰と誰が争っているんだ?」
「現在争っているのは、頭領の弟と頭領の娘の二人です。現在の形勢は弟側が大勢を味方に着けていると思われます。娘側は少数でどうにか抵抗しているものの、領土の東側に追いやられているとの事です。以上が現状わかっている状況です」
その報告を聞いた俺は、間者にもう暫く詳しく様子を探るように指示をして退室させた。
俺はこの情報を黄煉と話し合うことにした。
「……でしたら、弟側に味方して娘を挟み撃ちにしては如何でしょうか?そうすれば奴らに恩も着せられますし、領土内を通過するくらいの許可は貰えるのではないでしょうか?」
「確かに、それは1つの手段として考えておいて損は無いだろう。ただ、俺としては、余程の愚物でない限り娘を支援するという手も考えているのだよ」
俺がそういうと、黄煉は不思議そうな表情で問い返してきた。
「娘ですか?何故娘を相手にされるのですか?」
「娘側が窮地に陥っているからだよ。この場合、弟側に味方しても旨味は少ない。なら後方から娘側を支援してやって、上手くこちらに依存する形を作ってやれば旨味は大きくなる」
そういうと、黄煉も得心がいったのか、納得した表情になったが、すぐに懸念に気付いたのだろう難しい表情に戻った。
「しかし、我々には娘の為人を知る術がありません。しかも、少しでも時期を逸しては巻き返しもできなくなってしまうのでは?」
「確かにその懸念はある。だから、私自ら少数の護衛と共に彼女の元に行こうかと考えている。そこで、娘の為人を見極めて今後の対応に繋げたいと考えている」
そこまで説明すると、黄煉は真っ青になって反論してきた。
「ご冗談を!殿自ら出向くなどもしもの事があったらどうするのですか!?」
「まぁ君の懸念も尤もだが、流石に渦中の娘自身を連れてくるわけにもいくまいて、それに護衛には一番強い者を選定して、最悪の場合でも切り抜けられるようにしておくよ」
俺がそういうと、黄煉は諦めたのか、頭を抱えてうなだれてしまった。
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