政変
今回から少し中央の事を書きます。
摂南城に突入してからは、早かった。
裏手から先に侵入していた関勝達が既に城主以下主だった人物の捕縛を完了しており、俺は事後処理を差配するだけで済んだのだ。
なお、今回は軍規が保たれたのか、略奪や強姦、窃盗は起こらなかった。
後で恩賞や見舞金をはずまないといけないので財布的には大きなダメージだが、致し方ないと諦めている。
「さて、諸君!これで江南地方も後1つとなった。今日は激戦でもあったので、しっかりと羽を伸ばして明日以降の戦いに備えてもらいたい。ささやかだが宴も用意してある。羽目を外し過ぎない程度に楽しんでくれ」
そういうと、兵士や市民らが歓声を上げていた。
略奪等が無かったおかげか市民からは今のところ歓迎されている。
「さて、両将軍には折り入って相談があるので執務室まで来てもらえるか?」
俺がそういうと、張児将軍と王信将軍は頷いてついてきた。
「両将軍にへの相談というのは他でもない、この地をどちらかに守備して頂きたいのだ」
俺がそう切り出すと両将軍共に顔を見合わせて考え始めた。
「私としましては、王信将軍を推します。彼なら慎重に事を進め、守備計画にしても今回の事に対策を立てて守り切れるでしょう」
と張児将軍が言うと、王信将軍が反対意見を言ってきた。
「いえ、某よりも張児将軍の方が宜しいかと思います。兵への信頼も厚いですし、守備時に一番必要な士気を保つことができるのは彼の方でしょう」
「まぁ両将軍の長所ではあるな、よし!ここは張児将軍に任せてみよう。ただ、王信将軍にはこの地での守備計画をまとめておいて欲しい。補強部分、兵の配置、備蓄物資の量など細かい点を報告書としてまとめて張児将軍に渡しておいてくれ」
「「御意に」」
これで摂南城の事は張児将軍に丸投げできる。
兵の再編をさっさと終わらせて江中攻略に向かわないといけない。
この城が一応この地方では昌に次ぐ大きさを誇っている城になる。
この城を落とさないと、遼帝国に進行する事が出来ないのだ。
幸いなことになぜか江中に帝国の増援が入ったという知らせがまだ来ていない。
この機を逃せば、恐らく手に入らないだろう。
俺は、この時はまだ帝都で起こった異変について知らせが入っていなかったので知らなかったのだが、帝都でも反乱が起こっていたらしい。
時は遡る事2か月ほど前になる。
帝国軍が昌討伐の為、李鵬将軍に2万の軍勢を与えて派遣した後の事である。
帝都のある屋敷で秘密裏に会合が行われていた。
「今こそ好機ではないのか?この機を逃したらもう無いかもしれぬぞ」
大柄な男がこの機を逃さんとばかりに他の男たちに詰め寄っていた。
「いや、もしかしたら我らを燻り出すための罠かもしれぬ」
神経質そうな男がそう慎重論を出すと、他の者も互いの顔を見合わせ、ああでもないこうでもないと話し始めた。
その様子を一段上から見ていた人物が厳かに声をかけた。
「確かに、罠の可能性はある。だが、この機を逃せば奴を消し、政治の腐敗をただす事はできん。今を持って他ないだろう」
そういうと、集まっていた男たちは次々と立ち上がり、準備をしなければと言い出した。
「これより1週間後に計画を実施する。全ては陛下の為に」
「「「「全ては陛下の為に」」」」
高いところに座っている男がそういうと、他の男たちも一斉に唱和した。
帝国暦268年 6月某日
この日、帝都では初の大規模反乱が勃発した。
首謀者は、宰相の松延と派閥に所属している文武の官僚たちだった。
彼らは、宦官の李鐸とその一派を一掃するために、武力による反乱を起こしたのだ。
ただ、この動きは宰相派から寝返った一人の文官によって李鐸派の知るところとなり、自宅を軍に警備させ、皇帝と共に立て籠もってしまったのである。
このため、宰相派も迂闊に手が出せない状態になってしまい、両軍の睨み合いが1か月以上も続くことになってしまったのだ。
しかもこの反乱、ただ睨みあっているだけでなく、間者を使ってお互いの状態を探ろうと必死になっているものだから、怪しい動きをしたというだけで捕らえられる一般市民が多数出ており、宗谷の放った間者も身動きが取れなくなってしまっていたのだ。
そんな事情もあり、宗谷達の昌軍は帝国軍の妨害もなく、江南地方の凌、摂南の二城を手にする事が出来たのである。
この事態が動いたのは、睨み合い開始から1か月が過ぎた頃、李鐸の子飼いになっている将軍呂延が帰還したことで急展開を見せる事になる。
この呂延将軍は、遼国でも随一の猛将で、容貌魁偉な事と残忍な性格で知られている。
この男の残忍さが有名になったのは、彼が将軍になって初めての賊討伐の時である。
通常賊討伐は、相手の兵を蹴散らし、女子供を攫って奴隷として使うのが一般的であったが、彼は蹴散らした遺体と一緒に多くの女子供を笑いながら生き埋めにしてしまったのだ。
しかもその数5万は下らないというのだから、彼の異常さがよくわかるというものだ。
そんな呂延将軍が帝都に一時帰還したのだ。
これこそ天の配剤と李鐸は大喜びして、呂延将軍を宰相派にあたらせたのだった。
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