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劉皇国戦記  作者: リューク
第一部 反乱
16/78

夜襲

いよいよ昌独立も大詰めです。


 李鵬将軍が帝都を出撃して5日後、昌城まで約3日の所まで進軍してきた。

 ここまでの進軍では特に大きな問題もなく無事2万の大軍を率いていた。

 ただ、この日彼は偵察隊から信じられない報告を耳にするのだった。

 

 「伝令!1キロ前方に敵が布陣しております!数およそ4千!」

 そう伝令が伝えるや否や李鵬は驚いて聞き返した。

 

 「布陣しておるだと!?何かの見間違いでは無いのか?」

 

 「いえ、敵は盆地に柵を大量に作って陣地を形成しており、こちらの進路を阻んでいます」

 そう告げる伝令に李鵬は「そうか」とだけ答え、敵の意図が何か考えていた。

 

 「将軍、ここは全面攻勢に出て相手を蹴散らしては如何でしょうか?陣地を形成しているとはいえ、相手は高々4千程度ものの数にもなりません。一戦して蹴散らしてしまいましょう」

 そう迫る副官達の顔を見て、李鵬も覚悟を決めたのか口を開いた。

 

 「敵の目的は恐らく我らの疲弊であろう。だが、平地に出てきた事が彼らの失敗である!ここで奴らを叩き潰し一気に昌へ攻め入るぞ!」

 

 「おぉー!」

 こうして、光丘盆地での戦いの幕が上がった。

 

 「まずは全軍!相手の築いた柵を全てなぎ倒せ!盾兵前に後ろから鈎縄を投げ!柵を引っぺがせ!」

 号令が伝わるや否や2万の大軍が一斉に動き始めた。

 この動きに対して昌城の兵は、一斉に弓を射始めたが、帝国兵の盾兵によってそのほとんどが防がれてしまったのだ。

 

 こうして、柵前での攻防が繰り広げられたが、1時間ほど経つとほぼ全ての柵が壊され、帝国軍が昌軍の前に肉薄した。

 しかし、あと一歩という所で昌軍が後退を始めたのだ。

 

 「逃がすな!追え!追えー!」

 李鵬の掛け声と共に2万の軍勢が必死に追いかけたものの、相手の逃げ足が速く見失ってしまったのだった。

 

 見失っては仕方が無いと軍を再編し、再び歩きはじめると、昌軍がまた柵を大量に立てて陣を構えているのだった。

 

 「ええい!先ほどと同じように盾兵を押し進めて鈎縄で引っぺがせ!」

 李鵬がそう命令するのと同時に全軍が再び動き出し、柵を引き倒し、昌軍にあと一歩という所まで迫ると、また昌軍は逃げるのだった。

 これを見た李鵬も流石に切れたのか、本陣で怒り心頭であった。


 「あいつらは一体何がしたいんだ!出てきては柵の中に閉じこもって!嫌がらせ以外の何ものでもないではないか!」

 この日の李鵬は同じことを何度も何度も繰り返す事になった。

 この日だけでも4回同じことを繰り返し、ついには今日中に抜けるはずだった光丘盆地で野営をする羽目になってしまった。

 そして、この日の攻防のせいで、帝国軍には表面上には表れない深刻な事態が迫っているのだった。

 

 野営を行っている盆地から少し離れた丘から黒ずくめの一団が帝国軍の様子を伺っていた。

 

 「さて、ここまでは俺の予定通りだな。しかし、張児将軍もなかなかやるもんだ。新兵含めて3千を率いてここまで乱れず作戦を遂行するとはな」

 

 「全くです。彼のおかげで兄貴の作戦が上手くいきそうですね。ほら見てくださいよ帝国軍の奴ら余程眠いのか欠伸をかみ殺してる奴ばかりですよ」

 そう言いながら俺と関勝は帝国軍の様子を観察していた。ただ、俺には暗くて遠くて帝国兵の顔まで見えない。

 関勝の眼は一体どうなっているのか不思議だ。

 

 今回の作戦はこうだ。

 まず、新兵を率いて柵を大量に作って相手の行軍速度を落とし、所定の場所で野営させる事と相手の軍を何度も走らせ、徹底的に疲れさせる事の2つの狙いは張児将軍によって達成できた。

 次に野営している帝国軍にこちらが夜襲を仕掛ける。夜襲の目的はただ1つ、李鵬将軍の首だけだ。

 李鵬将軍の首さえ取れれば相手は恐らく恐慌状態になるだろう。そこを付近に待機させている昌軍の精鋭1千を使ってかき回し、相手を壊走させる事ができれば我々の勝利、どれか1つでもミスすれば……、その瞬間に敗北が決定してしまう。

 正直かなり綱渡りな作戦だ。


 作戦を成功させるためにもまずは李鵬将軍の寝ているであろう天幕を探す事が必要だ。

 この作戦の為に何人か夜目の利く者を街からも連れてきている。

 

 「どうだ、李鵬将軍が寝て良そうな良い天幕は見つかったか?」

 俺がそう問いかけると、関勝が指さしながら答えた。

 

 「恐らく野営地の真ん中あたりに豪華な天幕があります。あの辺りにあると思うんですが……、あ、あれだな老人らしき人が入っていくのが見えました。中央天幕の左側にある中くらいの天幕です」

 関勝がそういうと、他の面々も確認できたのかこちらに向かって頷いてきた。

 お前ら全員見えたのかよ。とんでもない視力だなこいつら……。

 俺は、そんな彼らの視力に呆れながらも作戦を全員に伝えた。

 

 「では、まず目標の確認をする。今回の目標は李鵬将軍の首だ。これが取れなければ意味はない。作戦は、部隊を二分する。第一部隊は俺と共に60名、第二部隊は関勝と共に60名だ。基本的に見張りと進路上邪魔な兵以外は殺さず、最短で李鵬将軍を狙え」

 指示を聞いた関勝ら別動隊が移動を開始した。

 それから1時間後移動が完了したのか、別動隊からの合図がきた。

 

 「これより、李鵬将軍の首をとりに行く!全員林の如く静かに、風の如く素早く動け!」

 そう小声で号令すると共に、60人の精鋭が静かに素早く敵陣に入っていく。

 敵の見張りは、野営地の入り口に3人だけだったので、静かに忍び寄り、一斉に吹矢で仕留めた。

 

 「よし、他の兵が気づく前に李鵬将軍の元へ急ぐぞ」

 

 そこからは順調に事が運んだ。たまに巡回する兵を見かけるものの、1、2人なのでやり過ごせばよく、侵入してから約1時間程度で李鵬将軍の寝所に忍び込むことができたのだ。

 俺は、李鵬将軍が眠る天幕の近くまで来ることができた。

 ただ、流石に将軍の天幕の前には屈強な兵が4人程周囲を警戒しており、容易に入る事が出来ないでいた。

 

 「さて、ここからどうするかな……」

 

 ここに来るまでに途中途中で退路を確保するために兵を配置してきたので、現在手元には40名居る。

 数で押せば大丈夫だが、騒ぐことになるし、そうなれば脱出が難しくなる。

 できる事なら静かに撤退できるのが理想なのだが……

 

 そう考えていると、別ルートから侵入した関勝達60人が合流した。


 「兄貴、どうしますか?このまま数で押し切りますか?」

 関勝が合流したことで、混乱さえさせれば脱出は可能となった。

 それも1つの手ではある。

 俺は目を瞑りどうやって退路を確保するか計算した。

 

 「よし、全員一気に敵大将の首を取って元来た道を帰るぞ、その際に関勝についてきた10人は各地に散って火を放ってきてくれ。その後『敵軍が大挙して東から攻めてきたぞ!』と大声で吹聴して攪乱してほしい」

 俺が指示を出すと、選抜された10人が一斉に動き始めた。

 

 それから5分後、李鵬将軍の眠る天幕に対して急襲をしかけた。

 

 「……っ!て、敵襲!」

見張りの兵たちは一瞬慌てたものの、すぐさまこちらの数に気付き、大声を出して異変をしらせた。

 

 「ちぃ!流石によく訓練されているな!俺と関勝で李鵬の首を取る。20名は退路を確保するために動け!残りは邪魔されないように天幕の周辺で待機!」

 

 そうして、俺たちは見張りの兵を手早く片付け、天幕の中に入った。


 「そこに居るのは誰だ!ここが李鵬の天幕と知っての狼藉か!」

 老いたと言えど流石は一国の将軍だけあって、迫力のある声が帰ってきたが、関勝は気にする風でもなく、李鵬に飛びかかり、持っていた鉄棍で李鵬の首を90℃に折り曲げ、絶命させた。

 

 「容赦も何もないなお前は」

 俺が呆れてそういうと、さも当然と言わんばかりの口調で、

 

 「兄貴の作戦ですからね」

 と言い返してきたが、すぐに切り替えて警告してきた。

 

 「それよりもさっさとずらかりましょう。敵が集まったら厄介です」

 

 「確かにそうだな、全員これよりずらかるぞ!遅れるなよ!」

 俺がそういうや否や天幕の周りに居た全員が走り始めた。

 李鵬を殺して天幕から出ると、あちこちで既に火の手が上がり、各地から「敵襲!東から敵襲!」という声が西に向かいながら響いていた。

 

 「よし、他の奴らもうまい事やってるみたいだな」

 事態が上手くいっている事を確認してから、自分の逃走に集中した。


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