昌討伐軍
帝都「玉座の間」
「――――以上が昌の劉宗谷の言葉でございます」
そう言って使者は頭を垂れた。
「ではお前は、おめおめと何もせず逃げ帰って来たのか!」
そう甲高い声で叫んでいるのは宦官の李鐸である。
今、李鐸と皇帝遼寧は使者から昌での事を報告されていた。
あの後、宗谷は使者に対して、
「今陛下の元に参上する事はできません、佞臣李鐸めを排除しに剣を持ってお伺いいたします」
と言ってきたのだ。
この事を使者は一言も漏らさず皇帝の前で報告したので、李鐸は顔を真っ赤にしてわめいているのだ。
「陛下!これは明らかな反逆ですぞ!すぐにでも討伐軍を起こさねばなりません!国家の威信にかかわりますぞ!」
「しかし李鐸よ、呂将軍ら主だった将は東部の反乱を鎮圧しに行っておって軍を率いれる者が居らんのではないか?」
がなりたてる李鐸に皇帝は諭すように言った。
ただ、李鐸もその辺は承知していたのかすぐに将軍の名前を挙げたのだ。
「では、退役された李鵬将軍に兵を任せましょう。かの老人でも反乱が小規模なら大丈夫でしょう」
この李鵬という老将軍は、現時点で齢60の退役将軍である。
年を理由に隠居しているものの、昔は大軍同士の戦いでは負ける事の少ない堅実な用兵を旨とした将軍だった。
「しかし、李鵬老人はもう還暦ではないか、軍を率いても大丈夫なのか?」
「確かにご高齢ではありますが、昌だけを落とすのです。そんなに時間もかからないかと思われます」
「それもそうだな。では至急李鵬老人に招集命令を出せ」
こうして、李鵬将軍は隠居生活から引っ張り出されることになった。
次の日の朝、呼び出しに応じた李鵬将軍は現役時代の鎧兜に身を包み、皇帝の前に参上した。
「陛下、この老骨をお呼びと伺いはせ参じました」
そう跪いて恭しく李鵬は挨拶した。
「うむ、ご苦労である。此度呼び出したのは他でもない、南部で小規模な反乱が起こったのだ。李鵬にはその反乱を鎮圧してもらいたい。行ってもらうのは昌の街だ」
「はっ!しかと承りました」
「して、兵はいか程必要か?」
「まずは反乱の規模をお教え頂けますか?」
李鵬の問いかけに皇帝は李鐸の用意したメモを見ながら話し始めた。
「反乱の規模は、昌の城だけである。他の城は今のところ反乱に参加する様子はない。ただ、昌は南部有数の巨大都市だけあって、兵は5千程用意する可能性がある。これが現状で判明している事の全てだ」
「なるほど、でしたら兵は2万程お預け下され。2万あれば、敵が籠城しても勝つことができます」
「そうか、では李鵬よ!2万の帝国兵を連れて昌の街を奪還してまいれ!」
「ははー!」
こうして、李鵬将軍率いる2万の反乱鎮圧軍は出発したのは、知らせが齎されてから1週間程度後の事であった。
一方昌城の執務室で宗谷は間者からの報告を受けていた。
「帝国軍約2万李鵬将軍の指揮で出陣したとの報告が入りました」
「2万か……ご苦労、引き続き監視してくれ」
宗谷がそういうと間者はまた監視の任務に戻っていった。
「さてはて、2万か……。この城一つ落とすには御大層な数だな。敵の狙いはなんだろう、俺たちに籠城させる事が狙いかな?となると、李鵬という将軍以外に主だった将が居ない可能性が高いな……。さてはて、どうしたものか……。」
俺がそんな事を考えていると、部屋をノックして尹魁が入ってきた。
「先程の者は間者ですか?」
「あぁ、帝国軍が動き出したそうだ」
「どれくらいの規模なのですか?」
「約2万だそうだ」
俺がそういうと尹魁は顔を青ざめさせた。
「に、2万ですか?この城は耐えられるのですか?」
「いや、城に籠ったら耐えられないかもしれないな。余程相手がアホな事をしない限りは」
「ど、どうするのですか!?」
そういって慌てる尹魁を無視して俺は自分の気になる事を質問した。
「なぁ、李鵬って将軍どんな人だか知ってるか?」
「李鵬将軍ですか?もう引退されたと聞いていましたが、復帰されたのですね」
「引退って事はご老人か、どんな戦い方をするか知ってるか?」
「また聞きでよろしければ知っておりますが」
「うん、それで良いから教えてくれ」
「では、李鵬将軍の戦い方は……」
それから俺は尹魁から李鵬将軍の戦い方を聞いた。
まぁなんと言うか、セオリー通りの人だな。
俺は説明を聞き終えると作戦を思いついたので、諸将を集め会議を開いた。
「さて、皆に集まってもらったのは他でもない。先ほど間者からの知らせで帝国軍がこちらに向かって出発したそうだ。その数約2万で指揮するのは李鵬将軍との事だ。ここまでで質問は?」
俺がそういって見回すと、全員がこちらをみて首を振った。
「で、こちらの取るべき作戦だが、一度野戦を仕掛けようと思う」
俺がそういうと、全員が一斉に驚きの表情と共に反論してきた。
「太守!それは無謀というものだ!帝国兵2万に対してこちらは4千集まれば良い方なのだぞ!しかもそのうち2千は今回徴兵した練度の低い兵だぞ!まともに戦えるわけがない!」
「そら、あの兵たちでは1万居ても勝てないよ。だから策を弄するんだよ。良いか今回は……」
俺が作戦を伝えると諸将は上手くいくかどうか頭の中で考えていた。
「どっちにしても練度にばらつきのある4千の兵ではまともな戦術では勝てない。なら奇策を用いて賭けに出るしかないよな?」
俺がそう言うと、仕方が無いと全員が頷き了解した。
「では、諸将は2日後の出陣に備えて準備を怠らないようよろしく頼む」
そういって、全員が飛び出すかと思ったら、残っていたので俺が不思議そうな顔をすると、一人の将が手を挙げて質問をしてきた。
「作戦については理解したのですが、太守の横に居る子供はなんでしょうか?」
そう、俺の横には結婚祝いを持ってきた劉徽が隣でメモを取りながら待機していた。
「ん?あぁ~説明してなかったか?こいつは俺の弟で劉徽という、今度からここの事務方を頼むことになった。なお能力については十二分にある。恐らく郷挙里選で選ばれれば中央からもお呼びがかかるくらいだ。安心して任せてくれ」
俺の説明を聞いた諸将は、信じられないのか「はぁ」と気のない返事をしただけだった。
「以上で質問は終わりか?では各自準備をしてくれ」
そういうと、諸将はそれぞれの準備に取り掛かるのだった。
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