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劉皇国戦記  作者: リューク
第一部 反乱
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謀殺

旦那様が遺体となって帰って来たのは、出発してから3日目の夕方だった。

 旦那様の死因は、首を切断されての斬殺だったため、首元を隠してしまうとまるで寝ている様だった。

 俺の隣では、玉麗が旦那様の遺体にしがみついて咽び泣いていた。

 幼い頃に母を無くしている玉麗には、唯一の肉親だっただけに悲しみも深い。

 俺はそんな玉麗の背中をさすりながら、旦那様の仇を討つ方法を考えていた。

 

 まずこの事件では、おかしな点がある。

 一つ目は、死体だ。

 通常盗賊は街の近辺に潜んでいる場合、発覚を恐れて死体を発見しにくいところに置いていくか、発見しにくいところで殺すのが普通だ。

 わざわざ発見しやすい通り沿いに放置していた事から、盗賊の仕業という所も怪しくなってしまう。

 

 二つ目は、死体の数だ。

 今回発見されたのは、旦那様の死体と、守備隊の数名分しかなかった。

 残りの半数はどこに消えたのかまだわかっていない。

 旦那様は他の守備隊の人間よりも良い()を(・)着て(・・)いた(・・)。

 そう、出発の時の服を着たままなのだ。

 盗賊がこの服を盗まないで帰るのも明らかにおかしい。

 

 三つ目は、発見までの日数だ。

 死体の固まり方――所謂死後硬直というやつだ――から、恐らく1日目の夜~2日目の朝までには死んでいる事がわかる。

 昔、高峰が呼んでいた推理小説には、死後12時間で硬直が開始して、30時間で緩くなってくるはずだ。

 死体を触ってみた感じだと、すでにガチガチになっていた指先が柔らかくなってきている。

 この事から死後30時間以上経っている事が解る。

 となると、旦那様は死後硬直が完了するまでに発見されて、家に戻されたことになる。

 

 全体の状況、行程を把握している人物で、楊旦那に危害を加える理由がある人物が犯人になるのだが、一番怪しいのは一人しか居ないが、確証がない。

 いくら嫌な奴でも確証もなく弾劾するわけにはいかない。

 どこかで尻尾を出してくれるのを待つしかないか……。


 などと、一人で今回の犯人について考察していると、店先から店員が飛んでやって来た。


 「番頭、太守様からの使者が来られました」


 「使者?お悔やみにでも来たのか?」

 

 太守の使者なら無下にする訳にもいかないので、店先に足を運ぶと、使者は申し訳なさそうに俺を見た。


 「すみません、お待たせいたしました。どういったご用向きでしょうか?」

 

 「色々立て込んでいる所を申し訳ないのだが、太守様から陛下への献上品を早く用意しなおせと仰せで……」

 

 「な、店の店主が死んだところなんですよ?店員も皆不安がっているのに、今献上品を用意しろと言うのですか?」

 俺は、太守の使者に襲い掛かりそうな勢いで問い詰めた。


 「そ、そうは申しても、陛下への献上品でもある。もし不手際があれば太守様もお主も首が飛んでしまうのだぞ?」

 

 確かに、このまま失敗しましたでは、首が飛んでもおかしくはない。


 「……かしこまりました。すぐに準備いたします。1週間以内に用意をしておきます」

 どうにか俺は、気持ちを抑えて声を絞り出した。

 俺の返事を聞いた使者は、「うむ」と頷いてから帰っていった。


 使者が帰るのを見届けてから俺は、全員の集まる広間へと戻った。

 広間では、全員が集まっており、今後どうなるのかという不安の声があちこちで囁かれていた。

 

 「みんな、聞いてくれ。今後の話をしたいと思う」

 俺が静かにそういうと、全員が俺に向き直った。

 

 「今しがた、太守様からの使者がきた。用件は、陛下へ献上する品をもう一度用意して出発の準備をしろ、という内容だった」

 使者からの言葉を伝えたのと同時にガヤガヤと騒がしくなり、あちこちから「こんな時にそんな事言ってくるか」という感じの内容だった。

 

 「確かに、皆の不満も理解できるし、これはあまりにも理不尽だ。それに俺は今回の事が太守の陰謀では無いかと考えている。以前から太守はこの店の利益と玉麗を狙っているという噂があった」

 俺がそこまで言うと何人かの店員が驚いた顔をしていた。

 それもそうだ、堂々と太守を批判するなどこの国では自分の首が危うくなる。

 

 「だが、現状では太守の仕業だという確たる証拠がない。このままでは恐らく次の献上品と一緒に俺も消されるだろう。そこで、皆に協力をしてもらいたいんだが、手伝ってくれないだろうか?」

 広間に集まっている全員が頷いて口々に賛同してくれた。

 

 「番頭、旦那様の仇を討ちましょう!」

 

 「兄貴!俺も協力するぜ!」

 こうして、俺たちは太守の謀略の証拠を掴むための準備と、献上品の用意を並行して行うことになった。

 

 旦那様が死んで5日後、準備ができたので太守に使いを出し出発できる事を伝えた。

 次の日の朝、城の守備兵隊の1部隊が荷物を守るために店に来た。

 店に来た守備隊の隊長は、用意していた馬車が3輌になっている事に驚き、尋ねてきた。

 

 「代表者よ、先日は、確か馬車1輌と聞いていたが?」

 

 「先日は、献上品だけでしたので、1輌で良かったのですが、此度は予定より遅れてしまっております。今回は、もしもの時の為の品物も一緒に運ばなければなりませんので、よろしくお願いします」

 俺はそういって、隊長の掌に少しばかり握らせた。

 隊長もそれを手にしたとたん、「そうか、殊勝な事だな」と言ってそれ以上咎めなかった。

 

 そんなこんなで、準備も整い出発となった。

 3輌の馬車には、俺と関勝ともう一人腕利きの手代を御者にして1輌ずつ任せる事にした。

 

 昌を朝に出発して、夕方まで走ったところで今夜は野宿をする事になった。

 夕食を食べたらすぐにそれぞれの馬車で横になり、襲撃を待った。

 太守がやったのであれば、恐らく同じ手に出る可能性が高く、それは死後硬直からも解るように1日目の夜~2日目の朝までの間だ。

 

 そして、夜も更けた丑三つ時に奴らはやって来た。


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