大口の取引
ストックがどんどん減っている……。
徐々に話に動きが出てきました。
昌城内の一室
「はぁ、どうしたものか……。」
彼は今日何度目かわからないため息をついた。
ここ最近の彼の懸案事項は、例の婚約話である。
どのようにして妨害工作をして、彼女を手に入れるかという事にのみ心を砕いているのだった。
「あの愛らしい瞳と顔立ち、それでいて豊かな体つき、あれを私の物にするには、さてはて、どうしたものか……手を出さないでいればあの小僧の物になってしまう。だからと言って流石に冤罪で裁くと後々面倒がある……どうしたものか……」
流石の彼も婚約話の成立している相手に対して直接手を出すという事は出来る限り避けたい事であった。
そんな事をして、宰相派に攻撃材料を与えれば、李鐸から切り離され、これまで築いてきた全てが崩壊する。
だからと言って、諦めるという気持ちにはなれないでいた。
それは、これまでも西域美人を多数みてきていたが、玉麗程の美人はまず滅多にお目にかかれないからだ。
しかもその美人がこの国では不美人と言うのだから手に入れやすいと考えていたのだ。
自分の物になると思っていたものを横から掻っ攫われたら、諦めるに諦められないというのが人の性というものだ。
「いっそ、店員を殺すか?」
短絡的な行動ではあるものの、相手が居なければ結婚などできない。
まして、不美人と噂が立っている彼女はいくら大店の娘でも貰い手は少ない。のだが、懸念すべきこともあった。
「いや、またあの店主が別の店員と婚約させるかもしれない」
そう、優秀な店員を何十人と抱えているのだ、もう一人二人候補が居ても不思議ではない。
そこまで考えると、彼の中にある妙案が浮かんだような気がしたのだ。
「そうか、そうすれば今後を憂うことなく、手を出せる。他からの手出しは、そうだなこちらで抑え込んでしまおう……」
彼は自分が出した妙案に一人ほくそ笑んでいた。
「これで、彼女が手に入る」
楊商店
ある日、旦那様は皆を緊急で集めていた。
なんでも、とんでもない知らせがあるらしい。
「何の話だろう?」と隣同士で話し合う騒がしい中、旦那様が壇の上に立って話し始めた。
「皆、急に集めて申し訳ない。実はとても素晴らしい知らせがあるんだ」
そういって、旦那様は満面の笑みで俺たちを見回した。
「実は、今回太守様経由で、なんと……」
物凄く嬉しいのか、かなりもったいぶっている旦那様に誰かが声をかけた。
「旦那様、もったいぶらないで早く教えてくださいよ」
「今言うよ。なんと!皇帝陛下から直々のご注文が入ったそうなのだ!」
そう言い終えると、旦那様はどうだと言わんばかりの顔で皆を見回した。
「え?皇帝陛下って本当ですか!」
「そうだ!皇帝陛下からだ!私たちの商品が認められたんだよ!」
そう言い終えると、あちこちで一斉に「やったー」と喜びの声が上がった。
ただ、俺だけは素直に喜べなかった。
自分で言うのもなんだが、確かに画期的な発明はしたし、物珍しい物は作ってきた。
だが、皇帝が欲しがる物を作った記憶が無い。
それに、嫌われ者の太守経由というのもかなり疑わしい部分である。
そんな事を考えていると、旦那様がまた皆に話し始めた。
「ついては、今回の商品は私が直接帝都に届けないといけないらしい。なので、暫く店を留守にして、帝都まで行ってくることにする。この店の事は、宗谷に任せようと思う。皆、私が居ない間しっかりと留守を守ってくれ」
「お義父さん、今回の護衛は何人連れて行かれるのですか?」
皇帝陛下への献上品を運ぶのだから相当数の護衛を連れなければならない。
特に道中は、野盗に狙われる可能性がかなり高いのだ。
「今回は、うちから護衛は出さない。太守様が護衛の兵を店に寄越してくれるそうだ。」
「太守様が、ですか?」
どうもおかしい、あの太守がこんなに働き者だっただろうか?
女の尻を追いかける事と、金をふんだくる事しか頭にない様な人物なのだが、流石に皇帝陛下への献上品は別なんだろうか?
「お前の疑問も解るが、今回は皇帝陛下へお送りする献上品なんだから、あの太守様でも下手な事はしてこないよ」
まぁ、確かに献上品を運んでいる最中にというのはいくら何でもないかもしれない。
一抹の不安があるものの、俺は納得する事にした。
それから2週間は、大忙しだった。
献上品を全て用意して、見栄えの良い入れ物を手配して、梱包して、とそれだけで大変な騒ぎになってしまったのだ。
そして、出発の日がやってきた。
店先で今回護衛してくれる兵士がやって来た。
やって来たのだが、何かおかしい気がする。
護衛の兵士の数が少ないのだ。
「隊長様、今回はお役目ご苦労様です。」
俺は、探りを入れるため、隊長と思しき人物に声をかけた。
「うむ」
隊長は、そう鷹揚に頷いた。
「ただ、皇帝陛下への献上品の守備にしては少し人数が少なく感じるのですが、気のせいでしょうか?」
俺の問いかけに隊長は、見下すように答えた。
「ふん、これだから兵法を知らぬ者は、よいか兵をただ集めれば良いというものではない。特に今回の様に皇帝陛下への献上品。この品にもしもの事があればとんでもない事になる。よって、大人数でゆっくり目立ちながら行くよりも、少人数で素早く都まで運んでしまう方が良いのだよ。兵は拙速を貴ぶという奴だ」
「さすがは、隊長様。私が浅慮でございました」
俺はそういって、隊長との話を打ち切った。
どうも引っかかる部分があるが、太守へのイメージが悪いせいで偏見を持ってしまったのだろうか。
俺がそんな事を考えていると、いよいよ出発の準備が整ったらしく、旦那様が壇上に上がられた。
「それでは、皆、留守の間をよろしく頼んだぞ」
そういって、旦那様は兵たちに守られながら、帝都へ出発していった。
この3日後、旦那様の訃報が届くのだった。
評価、感想、ブックマークお待ちしています。
少しずつブックマーク増えてきた事にテンション上がってます。(言って一桁ですがw)
今後とも、ご後援よろしくお願いします。