英雄の誕生
初投稿です。
処女作です。かなり無謀な事してます。これからよろしくお願いします。
遼帝国、かの大皇帝遼班によって築かれた大帝国である。
広大な国土は、東に大海、西に砂漠、北は草原地帯にまで広がり、大小様々な民族が共生し、繁栄を享受していた。
そんな帝国も250年以上の長きにわたり、徐々に腐敗し不満が溜まってきていた。
特に近年は、国境を侵す賊も多発している。
北は狼賊、西は虎族、南からは海賊が国境付近で略奪を繰り返していた。
しかし、内地ではまだまだ安定した日々が続いていた。
皇国暦253年1月
帝都からは、新年を祝してあちらこちらから笑い声や爆竹のはじける音が響いていた。
異変が起こり始めたのはそんな新年の昼間であった。
新年という事もあって、みな仕事を休み家や軒先で宴会をしたり、出し物をしたりして楽しんでいた時、一人の男が空にできた雲を見て叫んだのだ。
「りゅ、龍だ!龍が昇っている!」
それは、南の空から天高く昇っていく龍の姿をした雲であった。
この現象は都中で見られ、市民は「正月に縁起が良い」と皆で見入っていた。
そして、龍が消えると市民もまた自分たちの宴会に戻っていくのだった。
これだけなら「縁起の良い物が見れた」で終わったのだろうが、その日の帝都は異常事態の連続だった。
その日の夜、新年のお祝いも佳境に入ったころ、突如空の星々が西から東に向けて流れ始めたのである。
その様子は、星が落ちてくるのではないかと心配し、泣き出す子まで出てくる程の異様な光景だったという。
そして深夜、皆が寝静まった頃に突如、ドン!と縦に揺れたかと思うと物凄い勢いで横に大きく揺れ出したのである。
この地震によって都の中流階級以下の家屋の大半が倒壊し、帝都の市民は瓦礫の中に生き埋めとなってしまった。
これら一連の出来事を受け、幼き皇帝遼寧は宦官の李鐸に相談していた。
「李鐸よ、こたびの出来事は、何事であったのかお主にはわかるか?」
「陛下、不肖の我が身では、わかりかねます」
「そうか……」
「しかし、光華山に住まう鍾仙人ならば今回の事も占うことができるのではないでしょうか?」
「鍾仙人?あの鎮国の祈祷をしているご老人か?」
と幼き皇帝は訝しげな表情で聞き返した。
「そうです。かのご老人、祈祷が専門でありますが、占いの方も詳しいのでございます」
「ほう、それは初耳である。では、誰かを使いに出そう」
「それが宜しゅうございます。こちらで手配を致しておきます」
「うむ、頼んだぞ」
光華山山中
帝都から西へ向かうと険しい山々が見えてくる。
この山脈の中でも一際険しく、高い山が光華山である。
この光華山の山中に李鐸から派遣された使者陸大官が到着したのは、勅命を受けてから4日後の事である。
山の麓に到着したのが2日前、それからずっと獣道と変わらない山道を登っているのだった。
「おい、一体いつになったら鍾仙人の山小屋に着くのだ」
いくら皇帝の命令とはいえ流石に耐えられなくなってきた陸大官は、道案内に連れてきた地元の官吏に今日何度目かわからない質問をした。
「そうですね、明日には到着できるのではないでしょうか」
「……どうにかならんのかこの道は」
そう愚痴を零したくなるほど光華山の山道は人が半身にならないと通れない道が続いていた。
それから歩くこと1時間やっと山小屋を見つけ一息つける事に陸大官は安堵していた。
「おい、官吏。鍾仙人をこの小屋に呼び出すことはできんのか?」
「申し訳ございませんが……、ご祈祷を絶やすことができないので難しいかと……」
そう申し訳なさそうに官吏は答えた。
「俺が陛下の勅命を受けてここまで出向いているのに迎えにも来んとは……」
「こればかりはどうしようにもございませんので、お許しください」
陸大官は不満もあったが、何よりも山道にうんざりしていた。
この陸大官という男は、元々は、帝都の下っ端役人であった。
この男の興味と特技と言えば、いかに上手く賄賂を手に入れて送るかとという事と自分の保身を考える事くらいであった。
ただ、この賄賂を集め、得た資金を元に宦官の李鐸に取り入る事に成功してしまったのである。
そのため、現在は大官――課長級――の役職について威張り散らしていたのであった。
次の日、日が昇ると同時に登山を開始した。
先日までの難路から幾分かましになった山道を登り、鍾仙人の祈祷小屋のある屋敷に着いたのは、その日の夕方だった。
「ん?おい官吏、この石はなんだ?」
屋敷の表には一つの大きな石碑があった。
「これは、確か鎮国の石碑にございますこの石碑に朝昼夕とご祈祷なさるとか」
「これが、鎮国の石碑か……」
高さは約4メートルある石碑に「遼国鎮国之碑」と書かれていた。
その石碑の裏に回ると何やら呪文のようにたくさんの文字が書かれているのだった。
「おい、この裏の文はなんだ?」
「そちらは、この地でしてはならない習わしを表したものと聞いております」
「してはならない習わし?」
「はい、この地では、不殺、不淫、不盗、不妄、不飲を侵さない事が習わしです」
「では、肉も酒もダメなのか?」
「はい、この寺では五不を破ると祟りが起こると恐れられておりますので」
「ムムム……」
光華山は神域であり、遼国を鎮護する役目を負うと同時に悪霊なども鎮めているのである。
そんな話をしながら屋敷の玄関にたどり着くと一人の男が立っていた。
「これはこれは、険しい山道をよくお越しになられました」
そういって出迎えたのは、齢70を超えたであろう白髪の老人だった。
「うむ、してお主が鍾仙人か?」
「はい、私が鍾でございます。ささ、まずは中で旅の疲れを癒してくだされ」
そういって案内された一室で鍾仙人の用意した夕食を食べ終えてから、陸大官は本題を切り出した。
「お主の所に来たのは他でもない皇帝陛下からの勅命である」
「ははー」
そういって鍾仙人は頭を垂れた。
「陛下は、先日都で起こった事をお主に占ってほしいとおっしゃっておられる」
「かしこまりました。ですが、今日はもう暗くなりましたので、明日朝に占わせて頂きます」
「うむ、それもそうだな、では詳しい話は明日しよう」
そうして、次の日の朝から占いの準備が始まった。
鍾仙人の身の回りの世話をする弟子が忙しなく準備している間に、陸大官は帝都で起こった異変を事細かに鍾仙人に伝えたのだった。
「なるほど、大変なようですな」
「うむ、皇帝陛下もご不安になられており、お主に占うよう言っておられる」
「かしこまりました。不肖の身ながら精一杯占わさせて頂きます」
そういって、占いの準備を終えた部屋へと移動するのだった。
部屋の中は鍾仙人と陸大官の二人で入り、他の者は部屋の外で結果を待つのだった。
鍾仙人の祈祷は、現代でいう所の降霊術である。
一心不乱に祈りをささげ一種のトランス状態になる事で神や霊との交信ができるのである。
そんな鍾仙人の様子を陸大官が見つめていると、急に鍾仙人が倒れた。
鍾仙人が立ち上がりながら占いの結果を話し始めた。
「陸様、お待たせいたしました。占いの結果が出ました」
「うむ、結果はどうであった?」
陸大官は、鍾仙人を見上げながら結果を促した。
「結果から申しますと、凶兆でございます」
「凶兆だと?それはどういったものだ?」
凶兆と言われムッとしたのか難しい顔をして鍾仙人に問いただした。
「まず、南の空に現れた龍ですが、これは英雄が天に昇るという知らせにございます。天に昇る要するに皇帝になるという事でございます」
「……なるほど、では、星が流れたのは何であったのだ?」
陸大官は少し考えるそぶりをしたものの、先を促した。
「次に起こった星が流れ落ちる現象ですが、これは、東より強大な敵が誕生したことを意味します」
「……そうか、最後の地震はなんだ?」
先を促してはいるものの、陸大官の表情は徐々に強張ってきている。
「地震は、遼帝国が滅亡することを示しております」
「なに!?滅亡だと!?」
鍾仙人の言葉を聞くや否や陸大官はいきり立った。
「はい、これらの出来事が示しているのは、遼帝国の滅亡としか結果が出ません」
「どうにか回避する方法はないのか?」
「こればかりは運命としか言えませぬ。それに英雄は誕生してしまいました。この者は、やがて帝都を目指すでしょう。その者がたどり着いたときが、帝国の滅亡なのです」
「……そんな事どうやって陛下に伝えたら良いのだ。伝えるだけで首が飛んでしまう……」
まるでこの世の終わりと言わんばかりの表情で彼はその場にうずくまってしまった。
「どうせ滅亡するのですから、適当に誤魔化すというのも手ですな。幸いここには私と貴方様しか居りませんし」
「それは、陛下に嘘の報告をしろと言うのか?」
「なにも全て嘘をつかなくても良いのでは無いでしょうか?英雄が現れる事は間違いなでしょう。その者が皇帝陛下を奉戴するかもしれません」
「要するに、遼帝国の滅亡という部分だけ報告をしないという事か?」
そう確認してくる陸大官に大きく鍾仙人は頷きながらぼやいた。
「近頃私も歳でして、物忘れが激しいのです」
それを聞いた陸大官は覚悟を決めた。
「そうか、そうか、お主も大変だの儂も忘れんように帰らねばの」
そういって陸大官は鷹揚に頷いた。
その様子を見て、鍾仙人も恭しく礼をするのだった。
「では、占いの結果を陛下にはよろしくお伝えください」
「うむ、儂は早く戻らねばならんのでこれで失礼する」
こうして、占いの結果は二人の手によって改ざんされてしまうことになった。
この報告を聞いた遼寧は、大そう喜び英雄の誕生を心待ちにしたと伝えられている。
この二人の改ざんにより命を救われた二人はこの後この遼帝国を舞台に激しく相争うのであった。
良ければ、感想、評価頂けると嬉しいです。
ご後援の程よろしくお願いします。