一話
魔法には才能というものが深く、深ーく関わっている。なぜって?そんなの知らん。でも、才能が無ければ魔法は使えないし、それが全てだろ。才能があればそれだけで大魔法士になれるし、どんなに賢くても才能が無い可哀想なやつには魔法は使えない。らしい。ここで一つ気になるのは、俺の魔法の才能はどんなもんだろうかって話だ。ちょうど目の前には魔法の才能を測る神器『魔法水晶』が用意されている。さてと、運命の瞬間だ。俺の才能が発揮されるのはここしかない。大丈夫、俺にはきっとできる。
こいっ、こいっ、こい!
俺は目を瞑り、水晶に手を乗せて念じた。冷んやりとした水晶の感触。それがだんだんと熱を持ち始めた。すると、突然水晶がまるで燃えているような熱を纏った。
「アチッ」
俺は堪らず手を離した。先の一瞬で、目を開けずとも、凄まじい光が放たれていたのが分かった。
「……これって?」
「おめでとう、リクヤ殿。貴方の才能は天からの贈り物よ。素晴らしいわ」
王女様が言った。一瞬とはいえ、強い光を正面から見てしまった瞳が潤んでいる。その表情には安堵が含まれていた。俺はホッと胸を撫で下ろした。いきなり召喚されて、お前は勇者とか言われても、今の今まで嘘だと思っていた。勉強も運動も出来ない俺が勇者なんて冗談だろ、って。才能なんてあったためしもなかった俺は、すごく満たされた気分だった。
「次はお前の番だ、ハルカ」
「……うん」
ハルカは不安そうだった。いつもの自信が全然見えない。でもハルカのことだから、根拠は無くても、俺は心配してなかった。俺は下がり、今度はハルカが水晶に手を置いた。王女様も含めて、衛兵やら、大臣やらの衆人環視に注目を浴びて、流石にハルカも緊張しているんだろう。でもハルカは凄いやつだ。幼馴染みの俺はハルカのことを誰よりも知ってる。なんて言ったら気持ち悪いけど、実際のところ、家族の次に一緒にいた時間は長いんじゃないか?ハルカは美人だし、器用だし、賢くて、しかも優しい。背が高くて、運動も出来て、友達だって多い。天地がひっくり返っても俺とは釣り合わない最高の女の子だと思う。……ぶっちゃけ、俺はハルカが好きだ。絶対に告白はしないけど。ハルカの幼馴染みって役得だけで、十分だ。それ以上は高望みだと弁えてる。どうでもいいことをぼーっと考えてたら、周りがザワザワしているのに気付いた。ハルカの魔法の才能が規格外でどよめいてるんだろうか。昔から、ハルカが褒められるのはよく見る光景だ。でも、異世界に来てまで、魔法の才能でまで負けてたら、今さらだけど悔しいな。なんて、この時の俺は呑気だった。それから周りの様子がおかしいことに気付くのに時間はかからなかった。
え?
間抜けな声が漏れてしまった。俺はハルカとハルカが手を置いた水晶の方を見て、どうしようもない違和感を感じたのだ。俺の時は眩い光で、目を開けるのも難しいほどだったのに、今は向かい合う王女様の整った顔がよく見える。王女様は美しいけど、今はその顔も歪んでいた。
「魔力の才能が……無い……のですか?」
王女様が恐る恐るといった口調で言った。
周りの者はハッと息を呑み、途端に場に静寂が広がった。ハルカの肩越しに見た水晶は、一切の輝きを放っていなかった。誰も何も言葉を発しなくて、嫌な沈黙だった。王女様がつかつかとこちらに歩いてきて、俺の前で止まった。
「リクヤさん、残念ですがこの者は処刑せねばなりません」
俺には何も分からなかった。




