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1 おっさんもゲームしたい

誤字脱字についてはご一報ください。

 前日のお話である。

 私も随分おっさんになったもので齢もとうとう四十を数えてしまった。嫁さん一人に子供が二人、内息子のほうはもう私の手を離れ、娘も反抗期、衣服を一緒に洗うのも嫌がるようになった。噂にばかり聞いていたが……実際にやられると傷心免れぬというものだと、改めて実感した。おっさんは今日も仕事に行く。挨拶どころか顔も合わせてくれないテンプレ反抗期な娘を家において。大らかで寛容な嫁さんをもらってよかった。ここでヒステリックな人だったらきっと私の頭は随分と薄くなっていたことだろう。

 会社に私が着くと、若手の幾人かは舌を打つ。私はこんな年だというのに三再び(みたび)新人の教育を任されてしまったからだ。こういうのは中堅がやるものではないのだろうか? などと上司に相談しても

「君は教育がうまいと他の課でも聞いているのでね。ぜひお願いしたくて」

というお世辞たっぷりの答えがあるばかりなのだ。ちなみにそんな評価を受けたことは生まれてこの方ない。噂にも聞かないということは辞めたか、使えないということなのだろう。実際私も半分ほど窓際職員である。こういった役目でもないと置いてやる理由もない。そんなことなのだろう。私はいかにも最近の若者風の新入社員に喝を入れてみたりもするが、その屈辱をバネに伸び上がるという根性は、ゆとりを持って日常に身を置いてきた彼らにはなく、ただただ押しつぶされて腐っていってしまう。かと言って褒めて伸ばす教育方針にした結果、前年の若手は『増長する』『偉そうだ』『言われないとできないし、褒められないと愚痴をこぼす』と、見事に甘ったれな社会人かぶれの元大学生を作り上げてしまった。今では会社を辞めて、なんだかクリエイターになっているとか、風の噂に聞いてみたり。今年は一体どう教育しようか。娘、新人、なんにせよ頭の痛い日々を過ごす。

 今日もそんなことに悩みながらも、渡された資料を適当にエクサルに打ち込んでいく。これも本来ならば若手の仕事。だが若手は一〇を教えて……とまでは言わないものの五を教えて一を知る。入ってもう五ヶ月だというのにその『五』以上の仕事を受けるとやりもせずに音を上げる。サービス残業をしろなどと言ったわけでもないのに、やれ「こんなにいっぱい一日でできるわけがない」だ、やれ「会社の横暴」だ。「若手いじめだ」などと抜かしたバカもいる。教えたはずの五、この程度のノルマもこなさずに、数万足らずしか変わらない給料をもらっているのかと思うと、重いため息もつけるものだ。

 ため息が床上五センチを埋める陰気な窓際に、明るく近づく足がある。

「おい柚寿(ユズトシ)、タバコ吸いに行こうぜ」

 同期で、俺の二個上の立場にいる茅原だ。普通ならこう言う奴に羨望と嫉妬の眼差しで、関わるのを避けそうなものだが、私はこいつに気を許していた。理由は周りの同期が俺を哀れみと蔑みの目で見る中で、いつもタバコに誘ってくれた、愚痴を聞いて聞かせて、吐くまで呑んだ仲だ、ということだ。対等に立ってくれるのはコイツぐらいのものだ。

「あぁ……」

 だが今日は茅原の姿が眩しかった(上にみえた)。誕生日を迎え、四十路という大台を迎え、自分という存在がなんだか見窄らしく、廃れたものに見えてしまった。特に、同じ年月だけ働いてきたはずの、上司な同期を見て、(つくづく)だった。

 茅原にそのことを漏らすと、茅原は笑っていた。

「そんなことか!」

「そんなこととは売り言葉か?」

 少々むっと返してしまう。年はとっても成長がそれに伴うかといえば、そうじゃない部分もあるもの。だが茅原は少し眇めるようにしてこちらを見つめ、こういった。

「それなら俺も味わったさ」

「……? これをか? いつのことだよ」

 紫煙が鼻から抜ける。空になったタバコの箱がちょっと恨めしかった。ひと箱500円はちと月末の懐に辛い。

「俺が三十になった時だから……九年前だな。お前が結婚したんだ」

 あぁそういえば、私は思い出す。そういえば茅原が結婚したのは三四の時、結構最近で『晩婚化』というのを感じたのはまさにこの時だった。

「なるほどね……ふぅ」

 戯れに灰色のリング。かき乱されて霧散した。

「どっちも三十路で、俺だけが昇進してて、ちょっと俺は余裕があったつもりだったんだ。でも先にお前が結婚したって聞いて、驚いちまったよ。前妻の息子もデカい奴がいるってちょいちょい聞いてたしな」

「まぁ思春期子持ちの三十台、よく嫁さんも受け入れてくれたもんだ。だからこそ結婚したくなったんだけどな。アイツも気に入ってくれたし」

「そ。一気に俺がもろい場所に立ってるように思えたさ。立場はもちろん、顔だって俺の方がいいと思ってたしな」

「……おいおい」

 私は茅原に苦笑を向けた。随分な言い草だ。若造だったら小突いてるところだ。

「でもそんときだけだった。俺の場合は」

「あれ? お前密留さんと付き合い始めたのっていつだっけ?」

「三二の……春、いや、もうお前が子供について愚痴ってたし夏初頭ってところだな」

「一年ちょい空いてるな。でもすぐだったのか?」

(ぎゃく)さ。だから、だよ」

 タバコの灰を灰皿に落として、上を向く茅原。

「今日は俺が話し役だ。聞けよ」

「おう、てか聞かせろ」

 冗談めかしく私が言う。茅原も乗り気だ。

「お前みてぇな野郎でも結婚できるんだ、っツーのがよ。俺の支えになったのさ」

「か~! 言ってくれるわ。まぁいい。居酒屋のつけ分といつもの愚痴の聞き役でなしってことにしといてやるよ」

 馴れ初めらしい馴れ初めを聞いたことがなかったので、聞いておくのも悪くはない。

「ありがとよ。んで、俺もやらしいことに、そこら辺知ってる風の若手ちょっとつついて、『俺に気のあるやついねぇ?』って聞いてみたわけ。いねぇのなんの、課にはいないしお隣にも、隣の会社にもいないって言われて多少凹んだんだが、そのあとに、そういやあいつお前が教育したやつだったな。そこらへんだけはいい教育だ。んで、俺に気のある奴はいないけど、俺が好きそうなやつってのを教えてくれたのよ」

 ライターのドラムを回して、話半分に聞く。ノロケと自慢はその程度で十分だからだ。

「それが、副社長さんのいとこだったと」

「すごい情報網だよな、あの若手。まぁ今じゃ若手とも呼べねぇけどさ」

 現在は情報部で、見事な資料整理を行っている。

「知るぶんにゃそれでいいがよ。出会いはどうやったんだ?」

「俺の兄貴が、その子の父親と大学で知り合ってたらしくて、その父親ってのが教授だったんだよ。すごいよなぁ。ちなみに特許とか結構持ってて、なんだか賞っていうのに名前が上がったこともあるようなお偉いさんなんだと」

「そんな父さんだとお嬢様になりそうなもんだがな」

「それが意外とフランクで、今っぽさとそういう知的な感じが混じってて、そうそう彼女のお兄さんも職業的にはゲーム会社の……で! VR機が……」

 いかん、眠くなってきた。この喫煙所はどうにもいい日向で、昼寝に向いている。

「で、俺は密留と付き合い始めたのよ」

 私は急に脳が冴え、やたらはっきりと聞こえた茅原の言葉に、はっとした。いやこれは嘘だ。別に茅原の言葉にではない。体内時計だ。

 すかさず腕時計に目を落とす。12:38。これはまずい。

「やっべ、おい一久(かずひさ)! そろそろ昼休み終了。残りは飲み屋で聞いてやる」

「あ、忘れんなよ。あとちゃんと払えよな!」

「うっせ、お前の方が給料いいんだからケチケチすんなよ」

「あ、お前そういうの反則……まいいや。じゃーな」

「おう」

 私はフィルター近くまで灰が来ていたタバコを揉み消し、吸殻入れに投げる。綺麗に入って小さなガッツポーズをしつつ、駆け足にそこをあとにした。


 疲れた……。結局午後も教育につきっきりで、くてくてになったところに、見事に話上戸になった茅原のノロケ話が襲った。あいつは自分が飲む時に人に注ぐのが悪い癖だと今度注意しないとな。

 酔いが足に回って、千鳥足に鳥目で徘徊のように家に帰れば、優しい嫁の顔がそこで待っていた。

「おかえりなさい、あなた。お風呂沸かしてあるわ」

 優しく私に言ってくれる。なんといい嫁を持ったことか。ほっぺたに縫い物なのかボタンの跡がついてて、慌てて起きたようなのが、余計に息抜かせる。

「ただいま。風呂の後始末とかあと俺がやっとくから、ゆっくり寝てくれ」

「あ、ワタシ眠そうに見えたかしら?」

 ここは正直に

「ほっぺたに跡ついてるし、目の下、ちょっと暗いしな」

「あら、あら、あらららら」

 嫁さんや、そのあらあら言う癖だけはなんとかならんものかね。ちょっとしたおばあちゃんみたいじゃないか。

「……(ゆかり)は?」

「今日はなんだか……不機嫌みたいでねぇ。帰ってきたらすぐに部屋に行っちゃって……ベットでジタバタしてたわよ」

「わかりやすく青春してんなぁ、うちの嬢さんは」

「可愛いわね。昔を思い出すわ」

 私は普段薄いと言われる目を大きく見開いて目を丸くする。昔を……思い出す? 似ても似つかぬ今の由の姿を嫁に投影し、四十路の想像力の限界を感じる。

「昔について教えてくれ」

「……女の秘密は、妖艶っぽくてなんだかよくありません?」

 うふふ、と謎っぽく笑う嫁っこだが、残念ながら可愛い丸っこい顔立ちのため、妖艶さは醸し出せていない。ワード自体もかけ離れている。だが、寝る前のちょいとハイになっている嫁は『よーえんさ』が出ているつもりなのだろう。なぜか(うなじ)を見せつける。あーもー可愛いなこの三八!

「妖しいし(なまめ)かしいな。だからお休みしような」

「むぅ……」

 あら、いなしたのが気に障ちゃったかもしれない。しかしフォローができる頭ではない。すこし慌てた素振りを見せると、……どうやら嫁の意地悪だったようでえへへと笑った。こちらの方が似合っている。

「お休み、柚寿さん」

「お休み、(ゆか)

 嫁の顔を見る以外にストレス発散の機会はないものかね、私はそんな他愛もないことを思い浮かべつつも睡魔が誘うままに暗闇へと沈んでいった。


 翌日、土曜日、つまり今日。

 目が覚めると私はベッドから転がり落ちて、首を少々寝違えていた。右斜め四十五度で、痛みに目が開き気味になっていると、起きてそうそう娘から

「何朝からキメ顔? キモいからやめてよ」

 と言葉のナイフで一突き。娘の言葉は心臓に染み入り、寝違えによく効いた。

「朝一キモイとは挨拶だな? キメ顔じゃなくて寝違えてたんだよ。わざわざ身内にそんなもの見せて何になる」

 はじめの口上はおはようと返ってくるのを期待してのことだったが

「ソレモソウダネ。さっさとご飯食べたいんだけど、じゃま」

 娘は冷たいままだ。朝、一番に起きる嫁と目配せし合う。

「あらあら……」

 また嫁の悪い癖だ。

 

 朝食も済み、私は嫁と二人で出かけることにした。

 娘も一人でやりたいことの一つや二つや三つ、AからCまであるのかもしれない。私は娘に対し、独占欲的親心を抱いてなどいない。バカ親ではないということだ。と、いうか、私が三〇まで堅物だったことが原因で結婚もできなかったわけだし、むしろ思春期には青春を謳歌して欲しいというもの。私たちの娘にしては性格もいい方だ(別に今の反抗期が、ではない。幼少期から中学校二年までの話だ。自分から家事手伝いに家庭科の授業の成果も見せてくれた。自分から肩を揉みに来てくれたころもあったなぁ……)。

 私たちは田舎町にしては大きい日本第三位を誇るショッピングモールで、落ち着いた色の服や、くたびれてきたので新しいスーツ、ちょっとした娯楽の品々を買った。年代物のワインは良い値をしたが、それなりの美味さも期待できることだろう。試飲ですっかり出来上がった嫁が何よりの証拠だ。いつもながらに弱すぎじゃないか?

 昼食もそこで済ませ、すっかり日も傾いた頃、私たちは家に帰り着いた。娘は最近の態度よろしく不機嫌そうにするでもなく、何故かぼっと「おかえり」と普通に挨拶をした。私たちが不審がって(失礼な話だが)その理由を問うと、微妙な面持ちでリビングのデカ物に指を向けた。

「な、何アレ……」

 私は、その巨大なダンボールに目を向ける。

「どこからだ?」

「兄貴みたいなんだけど……デカすぎて引くわぁ……」

 私はなんとも珍妙な大きさのダンボールにカッターナイフで捌いていく。中から出てきたのは……実に大きな黒いリクライニングの椅子だった。椅子の肘掛脇のポケットから、「オヤジへ」と相変わらずの丸文字で書いてある。

『オヤジへ


 オヤジ、四〇の誕生日おめでとう』

 息子が自分の誕生日を覚えていたことに感涙を流しそうになる。だがなぜ椅子?

『相変わらずな低い役職で苦労してそうなので、ストレスも溜まっているでしょう』

 今まさにな。こういうところで人の心中察しない発言をするのが俺の劣性遺伝であろう。

『そこで、俺の会社で新たに開発したゲーム機『ブレーメン』を送ります。

 いわゆるVR機なのですが、これは脳内で擬似的に視覚に電子信号を流し、これはヴィジュアルコーテクスファールドって言うんだけど脳内でより鮮明な映像を……』云々。

『実はこの椅子自体はインターフェースになってて、本体は本社の半分ぐらいを埋め尽くす程の大量のスーパーコンピューターが一斉に情報処理をしてて、つかこのゲームは元々、地球環境シミュレーターとかリハビリや感覚的改善の医療技術のおこぼれみたいなもので……』かんぬん。

『プログラミングの問題点として昔からあったバグだけど、実は現在ではバグを自動で検知するシステムがあって、その情報をでバッキングシードっていうソフトに……』ぽっぽろぺー。

『うちの新技術として身継社長が直々に開発した『グローンプログラム』っていう学習し、改善し、成長するっていう人間顔負けのプログラムが……』べらべら。

 つらつらと立ち並ぶ意味の不明な文字列に頭がくらくらする。自慢っぽいところはどうやら社会に出ても治らなかったようだ。

『要するに現実顔負けの超リアルな3D映像をバグなしで楽しめるってこと。これでゲームでもして、ストレス解消でもしてください。

 かしこ』

 ……「かしこ」は女性が使うのが主だぞ、息子よ。いやそうではなく、息子はどうやら不器用なりに自分の得意分野で俺に親孝行をしてくれようとしていたようだ。専門的なことは分からないが、綺麗な擬似現実的なものがゲームでできる、という話のようだ。最近久しくゲームなどやっていないのも確か。久々に触ってみるのも面白いのかもしれない。私は、椅子を出し、なおかさばるダンボールの中にある、二〇〇ページを軽く超える分厚い説明書の必要そうな部分にのみ目を通す。付箋やメモが貼ってあるのはとても嬉しいことだった。

「大容量LANてのが必要なんだな……買いに行ってみるか」

 ポケットに携帯を詰め込み、ショルダーバックを担いで出かけようとしたとき、インターホンが来客を知らせた。

「お届け物デース!」

 今日は届け物が多い日らしい。

「はんこおなしゃーす!」

 インクをしっかり付け、枠内に押す。

「ありやとしゃーす! そいじゃ!」

 日本以外の言語を使う郵便配達はさておいて、その郵便物の名前をのぞく。そこには見慣れた文字列。まさしく私の苗字で、まさしく圓寿(えんとし)と私と元嫁の名を取った名前がそこにあった。紛うことなく息子である。中には、まさに買いに行こうとしていた大容量LANとノイズフェンサーというLANの乱れをなくす機能と、音楽ステレオを安定的に現実感を近づけるため、ノイズを最低限に抑える機能を両立するという優れものが入っていた。我らが息子は、意外にも太っ腹であることが判明した。中には『追伸:仕送りは一生できないと思います。さーせん』とあった。追『伸』なら最初の手紙に書け、これは追報だ。

「金持ちだなあいつ……」

 ゲーム会社に就職すると聞いたときは、夢はいいが儲けは伴うものか? と聞いたが、杞憂だったようだ。こうして行動とモノで示してくれている。ともかくだ。道具は揃った。あとはセットするだけだ。

 セットには案外時間はかからず(一応だが、伊達に朝から晩までPCいじくってる仕事を一八年も続けてきてはいない)、陽の落ちきらないうちに終わらせることができた。

 16:28……まだ晩飯までにも時間はある。

 私は椅子に腰掛け、サイクロップス型のメガネをかけ、すっぽりとハマるよう凹んだ部分に頭を入れる。さて……初めて見るか。

 目を閉じる。暗くなる景色が一気に白に埋め尽くされる。耳元に息子の会社の軽妙なロゴサウンドが流れ、平面に現れたロゴマークが立体になって落ちてくる。すごく綺麗で、鮮明だ。現実……というには少々遠いものがあるが、人を騙すような現実っぽさが出ている。技術の躍進というものは目を見張るものがある。初期設定画面が続いて現れ、説明書にあったメモ書きの通りに設定を変更する。それが終わるとゲームの一覧が出た。当然何かを買った覚えはないため、これは入れておいてくれたものだろう。パズル、RPG、シューティングにアクション、シミュレーションにミステリ、ホラーもあった。だが縁寿、お父さん美少女ゲームはいらなかったな……。一〇年前ならそれなりに楽しめていたが、今はもう食あたりしそうだし……。そんなことを考えていると、二回ほど鈴を鳴らすような音がして、メール画面に切り替わった。インターネット回線にこの機械個体固定のメールアドレスがついていると書いてあったのを思い出す。

『父さんへ』

 呼び方は固定しようマイサン。まぁ私が言えた義理じゃないが。

『これが届いているということは、オヤジがブレーメンを起動したということですな?

 よろしい』

 何様? ……お子様か。

『実はこれ、いわゆるフラゲというやつなので、今ブレーメンを持っているのはかなり限られた人間になります。しかも社員割引で20万! ち、ちょっと財布には痛かったけど、そうそう買えるものでもないし、初期版には特別『懐ゲーやり放題』っていう特典が付いてて、オヤジと一緒にやってたようなゲームもたくさんあるし、ぜひやってみてね』

 お……おぉおおおお!! ということは愛を足す感じのゲームとかセク○スとかデビルが五月に泣き叫んだりとか怪物狩りとか犯人は○スとか踊る踊る革命とか『お母さん(英語)』とかポケットのにいる怪物的なゲームとかあるのか! む、胸が熱くなる。だが……。

「このゲームの売りを捨ててる形になるよな……戦略シミュレーションゲームって」

 気になってしょうがなかった。確かに一番ハマっていたゲームが戦略シミュレーションだったことがある。だがそれとは別に、ゲームのスペックを上げていくことで、こういった種類のゲームでぶつかる壁なのかもしれないとも感じた。『シミュレーションゲームは、ハイスペック、ハイヴィジョンである必要が皆無』だと。なぜならば、だ。拠点としてのA、支配下のB,Cがあり、それぞれの技能を持った兵隊1、2、3。そして戦略を立てるに足る条件を持ったフィールド……。拠点、兵隊、フィールド、この三要素でかたがつく。兵隊が動くさまを見ることをこれをやる人間はほぼ望まないし、移動にいちいちデモを挟まれれば、フラストレーションを持つ人間もいるだろう。余ったスペックを謎のパラーメーターに使い、そちらに構って兵を動かすことができなくなるなんてことがあればそれはもう本末転倒だ。そんな中、あえてシミュレーションゲームに手を出した。……それなりに自信がある、ということだろう。そんな深読みをして、私は頬が緩んでいるのを感じた。

「……そそるな」

 男は、その多くが、いつまで経っても大人になれない者だ。私とて例外なく。

 私はそのシミュレーションのファイルに入ったゲームを見た。二つある。ひとつは……まぁ何とも言えぬ『萌え』を漂わせる美少女がセンターでミリタリー系の格好をしている。……コメントがひとつついている。

『萌えとしてもシミュゲーとしても駄作 tokumeikibou1341』

 ……私が持ってる時点でフライングゲットで早いはずなのに、もうプレイした人間がいるのか。まずそこに驚く。で、ツッコミどころのあるプレイヤーIDのコメントは……まぁお慰みなゲームだというこき下ろしが並ぶ。この人の萌えとシミュレーションゲームに対する熱は相当熱く、それの期待に応えてくれるものを期待し見事に打ち砕かれたと……。ポイントは『BUT』に押されているのは言うまでもない。萌え云々はともかく肝心なシミュレーションゲームの部分がボロクソなのでは仕方がない。私はもうひとつのゲームに手を伸ばした。

 そちらにはコメントはなく、ただ三つほどの『GOOD』がついていた。期待してもいいというのだろうか。やってみるしかないだろう。

もし宜しければ感想ください。

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