4 忘れ物
ここ最近は小説での表現力が落ちています。なので若干「あれ?」と思う部分があるので宜しくお願いします。
ところで、鉄道車両の忘れ物は何が一番多いのでしょうか?
作者はここ最近に折り畳み傘を電車の中に忘れたことがあります。
今日は何か短くて内容の濃い掃除がしたい。そう感じた少女はとある短い編成の前に立っていた。何しろ掃除をする車両は彼女の自由に決められるから。
目の前にある車両は勿論長年の赤錆で茶色く変色している。だが、今回の特徴はそれではない。他の車両と違うのは編成自体が極端に短いことだ。そして屋根にはパンタグラフがないことも。
そう、電車ではない。ディーゼルエンジンで動く気動車だった。しかもそれは二両編成でここに留置されている。前部の運転台は高く、ヘッドライトは更に上に丸形で左右対称、両端に二つ。その二つに挟まれるように行先標示板がある。勿論そこには回送の二文字が寂しく掲げられている。テールライトは下の方に、丁度連結器の真上にこれも二つヘッドライトと同じ配置にある。
塗色は全体がクリーム色に赤い帯が入った構成である。因みに赤い帯はまるで鉢巻きのように運転台と客席の窓に掛かっていた。それを一部の人間は国鉄色と呼び、鉄道が国に管理されていた時代によく使われていた色の組み合わせである。
さて、特徴はともかく少女の短い掃除が幕を開けた。
少女は揃えた掃除道具を車両の隣の空いた線路に置くと、一応列車の識別番号を確認する為に車両側面に書かれた形式番号を見た。
キハ58……(後はやはり文字が掠れて読めない)
キハ58。かつて列車に電気を流せない路線に於いて使われた気動車である。そして大量に製造された為にこの車両基地でも少女が分別に困る車両だ。バリエーションが多いのは嬉しいのだが管理に対しては厄介。
「たぶん……これで大丈夫よね。よしっ♪始めよう」
少女は自分にそう言い聞かせながら呟くと、先ずは中に蓄積された埃を駆逐するべくはたきを持ち、口にはマスクをする。勿論長い白銀の髪は邪魔にならないように束ねておくことを忘れない。それら準備を確かめてから、開かれた運転席のドアを開けて中に突入した。
中もやはり使い切った車両よろしく錆びていて、このままでは運転するのは不可能な状態である。機器はまた別の管轄が取り替えてくれるにして、内装を綺麗にしなければ。
彼女はひとまず車両全ての窓とドアを開放する。そんなときに今回は小さな発見があった。
「よいしょっ」
固定された座席を回り、固い窓を何回か開けていたときにそれは見つかった。彼女が密かに楽しみにしているものが。
「あっ!!」
窓を開け終えて次の座席に視線を移すと、その座席の上に何かが落ちていた。少女はすぐさま駆け寄ってそれを両手で握り、拾い上げる。埃を被っていたのでその場で手で払うと正体が露になった。
それは一本の傘だった。持っていた主人に捨てられてしまったのか、それとも忘れてしまったのかは分からない。恐らく骨が折れておらず破れていないところから、後者だろう。どういった経緯でここに流れてきたのかは不明だがこのまま捨ててしまうのはもったいない。
「またコレクションが増えたわね……」
ただ、傘の忘れ物はダントツでよく見つかる為そんなに珍しいことではない。今回は無傷だからこそ彼女は喜んでいるのだ。逆にボロボロになったものを発見したときは厳かに“お疲れ様”と言って冥界の製鉄所に送る。テンションは勿論低く。
傘は一応換気が終わるまで彼女と行動を共にすることにして、次の列へと視線を走らせる。少女はこのときもう忘れ物はないだろうと考えていた。
しかし……。
「あれ?まだあったんだ……」
次の列の座席には堂々と一本の一升瓶が床に転がっていた。しかも状態が良くてラベルまで貼ったままだ。(因みにお酒の銘は読者の自由で)栓抜きはないにしても、王冠すら近くにある。列車の中で飲んでそのまま捨てたのだろうか?
これ以上だと少女の手には負えなくなるので、仕方なくポケットから白いビニール袋を取り出して傘もろともそれらを放り込んだ。こうなるとゴミ扱いみたいになってしまうので複雑な気分になる。
それ以降は表向きに忘れ物は見付からなかったので、一気に窓を全開にする。そして編成の端まで辿り着くと、折り返して座席と荷物棚、室内灯の埃落としを行う。年季が入っているのとディーゼル車のせいか特殊な匂いが充満していて少々苦労する。
その後はいつも通り雑巾がけ……なのだが、また彼女は捨てられたものを発見した。雑巾がけの最中に埃に混じって手にチクリと何かが軽く刺さる感覚。
「……?」
埃の山から引っ張って見るとそれは小さな長方形の硬い何か。文字が幾つか掛かれていて、片方の端っこにMの形に欠けている。
「これって……」
今度は切符だった。忘れ物として見つかる物の中でもレア中のレアである。車窓の投影から生まれる記憶よりもこちらの方が、どこを走っていたのかが正確に知ることが出来るのだから……。
国鉄線
(始発は読者の想像で)→ 850円区間
小児 420円
発売当日に限り有効 前途下車無効
850円区間。この切符を使い目的地まで行った人は一体何を想いながら列車に揺られていたのだろうか?思わず想像してしまう。彼女は生きていたとき、そんなに遠くへ行ったことがない。だからこそ遠くへとひたすらに走る列車に憧れ、清掃員をやっている。
この車両で忘れ物が見付かったのは、それで最後だった。後は何事もなく清掃は進み、この短い編成は往時の姿を取り戻した。また、この列車にもオルゴールが内臓されているので、持ってきたスペアパーツを駆使して修理、今回は敢えて曲を司る部分のパーツを変え、自分オリジナルの曲が流れるように改造してみた。(選曲は読者の自由で)
「♪♪♪~~~♪♪♪」
運転台にあるネジ巻きを回し、試しに流してみると彼女が自作したオルゴールの音色が車両内に響き渡った。往時とは違うオルゴールによってその車両は復元を越え、また新しく生まれ変わる。これもまた車両基地で起こる奇跡だ。
「そう言えば、この車両一体どこへ行くのかしら?」
本当に早く終わってしまったので、彼女は運転台に置かれた記録簿のノートを開いて内容をよく見てみる。回送する機関車は毎日夕方にやってくるのでまだ太陽が図上にある今はまだ時間がある。
せっかくだから隣の編成でもついでに掃除しようかと考えながら読んでいると、ノートの下の方を見て手が止まった。それを目にした瞬間、少し血の気が引く。
本車両の詳細
形式:キハ58系
車両数:2両
管理編成番号:No.371
WSランク:B
走行区間記録:(読者の想像にお任せします)
走行予定区間:251系統区間 天の川線
列車種別:急行
改列車名:五月雨
停車駅:(読者の想像にお任せします)
列車運行簿認証コード:E5470レ(EはExpressの略)
発行:冥督府 幽霊列車専用軌道 奏橋運転所
備考:この列車を復帰回送する際には車両基地にある同系列の車両を集め、増結して回送するように。
総合車両数:3両以上
「ちょっと……これは不味いわね……」
彼女は口に右掌を当てて呟いた。同じ車両を増結するということは、このだだっ広い車両基地の中から目的の系列を探さなければいけないということを意味する。
左右の運転窓から顔を出して車両の仲間が近くにいないか探してみた。しかし周りに留置されている車両はどれも電気を動力源とする車両ばかりだった。
諦めずに廃車車両の窓を通して向こうの車両を確認するが、目的の車両はない。更に向こう……と言いたいが年季が入っているせいで磨りガラスのようにぼやけていて見えなかった。
「もう、アレを使うしかないわね……」
走って探すにも体力的に限界がある。留置車両記録を使って探し出すという手もあったが、肝心の留置されている線路の場所を書いていないから役には立たない。だから秘密兵器を使うしかなかった。
キキィィ―――!!
それは掃除していた車両の近くの線路に偶然あった電車とは言えない代物。そして、鉱山にありそうなお手軽な移動手段。レバーを上げ下げして前に進む人力トロッコだった。
トロッコ。何故そんなものがここにあるのか?理由は簡単である。遠くに早く移動する為に彼女が冥界の廃棄場から引っ張ってきたのだ。そう、こういった事態に備えて……。
少女はトロッコに直ぐ様乗ると、前を見ながら漕いで進行させる。因みにこの車両基地の線路、何もずっと直線しかない訳ではない。トロッコの移動用に一定距離にポイントの付いた渡り線があるのだ。しかも隣に向かって連続して。
目の前に別の廃車車両が迫るが、その前に渡り線で隣の線路へ、またすぐに渡り線で次へ……。まるで蛇のような動きで先へ進んでいく。
「何処にあるのかしら……?」
ツールボックスから持ってきた双眼鏡を片手に遠くの車両を見ながら探す。彼女の車両基地を舞台にした小さな冒険が幕を開けた。
結局、問題が解決したのは回送する機関車がやってくる夕方近くだった。その頃には走る蒸気機関車の音よりも彼女の息遣いの方が荒かったのは言うまでもない。
更新がかなり鈍行列車状態ですが、しばらくはこんなペースになりそうです。
何かリクエストがあれば投稿お願いします。