色付き
ルシフィーナ様はブロンドの艶やかな髪に、真っ赤な胸元の大きく開いたドレスで、金糸で見事な花の刺繍が施されているドレスを、見事に着こなしております。
胸など、軽く私の3倍は…。
ですが、不思議なことにお色気ムンムンなのに、嫌味なく着こなしております。
幼児趣味…。
かなりの侮辱でありますし、私の一番許せない発言だとは思うのですが、この方、不思議な方で、この本来なら私が食って掛かるであろう発言にも嫌味を感じないのです。
「あの、ルシフィーナ様、私、一応17歳でして、この世界での成人は越えております。」
そう言うと、大きな藍色瞳をしばたかせて、
「あら、そうなの?ふふ。あまりに可愛い子猫ちゃんだから、つい。」
そう言って艶やかに微笑む。こ、子猫ちゃんですか…。すると、
「ルシフィーナ様、その辺に。ハナコ様、ごめんなさいね。私はサリーナ.アラウド.キャナシンスと申します。」
「そうですわよぉ、ルシフィーナ様。このように可愛らしい方を猫だなんてぇ。どちらかと言うと、子リスじゃないですかぁ。あら、失礼しましたぁ。私、スリナリー.カワラ.カウランドと申しますぅ。」
深い藍色の髪の知的美人なサリーナ様、赤茶色のくりっとした瞳に、少しポッチャリとしたほんわか美人のスリナリー様が、そう、おっしゃいます。
「えっと、なんか、皆様、後宮っぽくないですね。」
お三方、特にお二方の明け透けな態度のため、思わずそう言うと、一瞬ぽかんとした後、皆さんで笑いだしてしまいました。
「ふふふ。可愛い上に面白い子猫ちゃんね。さあさあ、こちらにお座りになって?」
ルシフィーナ様に勧められるままに腰を下ろします。
「あの…、えっと、…いただきます?」
余りに予想外の展開のため、取り敢えず喉を潤そうと紅茶に口をつけます。
なんというか、この世界では、私は異質です。その上、渡り人であるため保護対象ではありますが、一般庶民です。…カッパニーニ邸てお世話になっていたため、あまり一般的な生活をしていませんでしたが…。
このように、異端な一般ピープルが後宮へ入ったからには、風当たりがキツイのはある程度覚悟していたのですが…。
「そのように警戒なされないで?私達は同じ色付きのお部屋を賜った者同士交流を深めようと思っただけなのですよ。」
そう、サリーナ様が言います。
この後宮には現在私を含めて、9名の側室方がおられます。
その内、ルシフィーナ様は赤の間、サリーナ様は白の間、スリナリー様は黄の間、そして私が青の間を承っております。
「それにぃ、私達はきちっとこの後宮の意味を分かってますわぁ。無駄にハナコ様と争う気はありませんの。」
スリナリー様が肩をすくめなが言います。
「後宮の意味?」
私が、良く分からない、という顔をすると、
「あら、子猫ちゃんは気にしなくていいのよぉ。ただ、私達はお馬鹿な男共とは違う、ということよ。」
だから、これをお食べ、と、ルシフィーナ様にクッキーを差し出します。
私は、訳が分からないまま、そのクッキーを口に運ぶのですが…
「うわぁ、美味しい!」
ほんのりと、甘過ぎない甘さが絶妙で、クッキーなのにマイルドでクリーミー。だけど歯ごたえはサクサクとしていて…とにかく、今まで食べたクッキーの中で一番美味しいです!
「あら、ますます可愛い顔しちゃって。ほら、じゃあ、これは?子猫ちゃん。」
ルシフィーナ様がマドレーヌを、
「あら、では、これなどもお好きなのでは?」
サリーナ様かスコーンを、
「やっぱり甘いものならこれよぉ。」
と、スリナリー様がブルーベリーのパイをすすめて下さいます。
…なんだか良く分かりませんが、とにかく美味しくて幸せです!
「子猫ちゃんは幸せそうに食べるわねぇ。ふふふ。餌付け成功かしら?」
「え、えりゅれ!?(え、餌付け!?)うっ、ゴホゴホッ。」
ルシフィーナ様の言葉に驚いて思わずむせてしまう。
「ルシフィーナ様ったら…。大丈夫ですか?ハナコ様?」
そう、優しく言って、サリーナ様が綺麗なハンカチを差し出して下さいます。
「だ、大丈夫です。失礼しました。」
私がそう言うと、サリーナ様が、
「ふふ。でも、確かにハナコ様の食べているお姿は、本当に小動物のようで、とても可愛らしかったですわよ。」
そう言って微笑みます。小動物ですか、サリーナ様…。
でも、とサリーナ様は続けます。
「私達以外にはそのような可愛いお姿、あまりお見せにならない方がよろしいですわ。」
そう、おっしゃいました。
「え…?」
スコーンを手に持ったまま私が固まると、
「そうねぇ、ハナコ様はぁ、可愛いけど、少し無防備過ぎねぇ。」
と、スリナリー様。
「子猫ちゃんは可愛くて美味しそうだから、馬鹿なのに獰猛なハイエナ達には格好の餌食ね。しかも、王の唯一の寵姫ですもの。怨み妬みの対象でもあるわね。」
ば、馬鹿、イエナ、餌食、怨み妬み…ザッ、後宮?




