帰りたい
ちょっとお話ししましょうか、ということで王様のお部屋のリビングに移動しました。ワインレッドのソファーは座り心地は最高です
さて、
「嫌ですが、それと犯人探しは関係あるのでしょうか?」
…。
…。
…。
えっと…皆さん沈黙ですか。
「どちらが嫌なのだ?」
何だか気まずい沈黙を破ったのは王様でした。私と王様は隣り合わせに座っていて、向かいのソファーにグレンリードさんとグレースさんが座っています。
「後宮に入るのがか?それとも俺の后になるのがか?」
王様が私を見つめて、そう問うてきます。
「後宮に、入る、のは…、いや、です。」
「では、俺の后になるのは?」
「…っ、そ、そんなことより、私が後宮に入るのと犯人探しは何の関係が…」
「そんなこと、なのか?」
王様のスカイブルーの瞳が真っ直ぐに私を見射る。私は、今はその瞳と目を合わせたくなくて、何だか、怖くて、下を向いてしまう。
そうしたら、ポロ、ポロ、と私の目から何かが零れ落ちてきます。
誰かに優しく頭を撫でられる。すると、更にそれは零れ落ちてきて、
「王、父上も、早急過ぎです。ハナコ嬢は連れて帰りますよ。」
ゆっくりと、声の方に顔を上げると、いつの間にかグレースさんがすぐ側に立っていて、私の頭をいつものように撫でてくれていた。
「うぅ~…」
子供みたいに、グレースさんのお腹辺りに顔を埋める。
そんな私にグレースさんは、「さあ、行きましょう」、と囁いて、そっと抱き締めてくれました。
あれから、ベソベソと泣いている私は、グレースさんに連れられて、カッパニーニ邸に帰って来ました。
今は夕方。寝室の窓の側に椅子を持ってきて、ぼーとして、何もせず外を眺めています。
「ハナコ様、お茶はいかがですか?」
アイリーンさんがいつの間にかお茶の準備をしてくれていました。
「ありがとうございます。いただけますか?」
リビングのソファーに移動してお茶を頂く。
仄かに甘い。
「蜂蜜、ですか?」
「はい。ハナコ様、お好きでしょう?」
ふふふ、と目尻の皺を深くして、得意気に、でもこの上なく優しく笑うアイリーンさん。
「ありがとう、ございます。」
また、ポロ、ポロ、と。今日は何だかよく目から何やらを零します。
「アイリーンさんは、旦那様と幾つで結婚されたんですか?」
零れてしまった涙を誤魔化すように、質問する。
アイリーンさんは結婚されていて、お子さんも一男二女おられ、皆さんそれぞれ、息子さんは旦那様の跡を継ぎ、娘さんは既に嫁がれております。
「二十歳、でしたでしょうか。」
「そう、ですか。…あの、その時、誰かに、相談とか、されたのでしょうか?」
「そうですね。相談というか、報告はしました、母に。」
プロポーズされたのが嬉しくて、と、またふふふ、と優しく笑う。
「じや、じゃあ、娘さんからは…」
「ええ。二人とも。」
「そう、ですか…。」
また、ポロポロと涙が零れる。
その時、トントン、とノックの音がして、
「ハナコ嬢、よろしいですか?」
と優しい声がする。
「グ、グレー、ス、さん…っ。」
「おやおや、今日のハナコ嬢は泣き虫ですね。」
困ったように、でも優しく笑って、グレースさんが私の隣に座り、また、頭を撫でてくれます。
その手が、暖かくて、優しくて…。私は思わずグレースさんの胸に、ぎゅっと、顔をくっ付けます。
「後宮に、入るのは、嫌、なんです!」
「ええ。」
「私の、いた、世界では、17歳で、け、結婚なんて、考えられなくて…っ」
「そうですか。」
この世界では、成人が15歳。だいたいの結婚年齢は18~20歳です。だから、17歳で結婚というのは、特に早いわけではありません。
そう、結婚、です。
後宮に入るのということは、すなわち王様の奥様になるということ。
いえ、奥様の一人に、なるということです。
「后に、なる、というのは、私だけでは、ないです、よね…」
後宮というのは、日本で言う大奥のことです。
沢山の女性が、一人の男の人、その人のために閉じ込められるところ。
「…ですがハナコ嬢、王は…」
そう、思ったら、今まで張り詰めていたものが弾けとんでしまったように感じました。
「帰りたい!マミーとパピーの、家族のところに!!か、彼氏はいたことがないけど、出来たらマミーに報告して、ケンカとかしたら、相談して…っ。そ、それで、結婚の時も、プロポーズされた報告、とかっ、マリッジブルーの、相談、とか…っ」
「ハナコ嬢…」
グレースさんを困らせているのはわかっていました。でも、どうしても止まらないのです。
「帰りたい!帰りたい!マミーに会いたいよぉ!グレースさんっ!!」
ぎゅうっと、グレースさんが私を抱き締めてくれる。
私も負けないくらいの力で、グレースさんにしがみつく。
すみません、
作者は、
宰相好きです!!!
…失礼しましたm(__)m




