王様の想い(王様side)
すみません、少々手直ししました。
内容に変わりはありません。
「残念ながら既に姿を消しておってのぉ。だが、これであの娘の無実を大方晴らせたであろう?」
確かに、曲がりなりにも王太后がここに出てきてこの発言をしたことで、声高々にハナコを容疑者と言う者もいなくなるだろう。だか、それだけの為に王太后が出てくることこそ信じられん。何か他に目的があるはずだ。
「のう、王よ。あの渡り人の娘、后にするつもりかえ?後宮に、入れるのじゃな?」
ざわ、と一瞬その場がざわめき、次の瞬間、聞き耳をたてるように静まる。
王太后の後ろに並び、ハナコを容疑者と宣い、違うと分かるとその背に隠れるようにする者共。
皆、自分の権力を少しでも強め、懐を潤すことしか考えておらぬ。その為に、普段自分達は恐れ近付かぬ俺に娘を送り込み、寵を受けれれば幸い。万が一娘が後継者を産もう者なら、その祖父として権威をふるいたい、そんな輩ばかりだ。
だが、曲がりなりにもこやつらはこの国の高位の役人であり貴族だ。ある程度の意を汲み、均衡を保たねば国が揺らぐ、とまではいかぬが、好ましくない火種とはなりうる。だから、後宮の準備をしてきた。后の選出もほぼ終わっている。こやつらの均衡を保つ為にも今更白紙になど、出来ぬ。
その火種を、いや種を種のうちに摘んでしまおうという、俺の安直な考えの結果がこれだ。
ハナコに出会い、牢屋などに追い込み、しかしグレンリードを通して再会したときは懐かしい彼女の面影を勝手にハナコに重ね、目が覚めた気がした。そしてグレースの補佐役としてやって来て、一緒の時を過ごし、少しずつ、少しずつ、距離が近づき、いつの間にか、特別な存在となっていた。そして、つい昨日のこと。母を殺したと言う俺に、母は俺を守ったのだと、そう言われ、彼女への想いを確信した。
そんな彼女を、俺は、こんな泥々しい思惑の渦に巻き込むのか?俺の身勝手なこの想いで…。
「あれに、無理強いは出来ぬ。」
「何をおっしゃる!王よ。無論、一点の曇りもなくその御世を治めておられるが、世継ぎが出来なくてはもともこもありませぬぞえ。」
そんなこと!分かっている!!
焦りたくない。押し付けたくない。もっと、もっと近くまで、ゆっくりと近付きたいのだ。
例え仮の後宮だとて、はりぼてだとて、他に后がいたら、ハナコは、側に居てくれるだろうか。そして何より、後宮という、その場所にあれを放り込むなど…。
「世継ぎも大事だが、まずはわしら以外の魔術を使える者、魔術師が他にいるというのが気になるのぉ。」
今まで静観していたグレンリードが声を発する。
「しかも、王太后様の話と、実際の爆破事件と言い、あまり好意的にも思えんしのぉ。」
「だがなぁ、グレンリードよ。その事に関してもあの娘の後宮入りは重要ぞ?」
王太后がニヤリと笑いグレンリードを見る。
「あれほどの魔術の使い手。王家以外の血筋で、渡り人であれほどの者は二人とおらぬはずではないか?なのに、それが今は不確かなものとなっておる。」
「そうじゃのう。して、王太后様は何が仰りたいのじゃ?」
グレンリードが何時ものように飄々と問う。しかしその眼光は鋭い。
「ほほほ。わらわはあの娘を評価しているのだぞ?魔術の中でもあの様な桁外れな治癒魔法の使い手。枷が必要じゃと思うてな。」
「枷、だと?」
自分の中で禍々しいものが渦巻くのがわかる。王太后にそれを打ち付けて殺りたくて、だがすんでのところで抑える。
「そうじゃ。この世界は我が国の王の御力が他の王家に比べ優れてる故、均衡をたもっているな。特に現王に関しては圧倒的じゃ。」
ちろり、と王太后が俺を見る。
「だがな、あれほどの治癒魔法の保持者。しかも聞くところによると防御魔法と空間魔法も使いこなしておるとのこと。万が一でもその力が他国にでも渡れば、均衡は崩れる。」
ギリギリと奥歯を噛む。殺気を隠す気は、ない。
「更には、不確かなもう一人の、魔術を有しているかもしれぬ存在。それ故更にあの娘の存在は貴重であり、脅威だ。渡り人の保護という枷だけでは些か心細い。それ故、後宮に迎え入れ、王の后という新たな枷を…」
皆まで言わせてたまるか!もう我慢の限界だった。
この場になんとも言えぬ緊迫感が蔓延する。
「王よ、ハナコ嬢が目覚めたようです。」
グレースの静かだが、こやつもまた、怒りを抑えた、そんな声が後ろから聞こえた。
「直ぐにそちらに向かう。」
グレースにそう言い、王太后を見据える。
「継母、爆破事件に関しても、後宮についても、まずはハナ…渡り人の娘から話を聞かねばならぬ故、これで失礼します。」
「そうじゃのう。後宮入りは早いほうがいいぞえ、王よ。」
王太后の後ろで青冷めている輩を一瞥し、謁見の間を後にした。