治癒魔法 (王様side)
誤字訂正しました。
「茶葉、か…。」
力なく息を吐き、思わず片手で顔を覆いソファーに沈む。
「つい先日取りに行ったばかりでしたよねぇ。」
「ホッホッホ。」
この親子…。気心が知れているとは言え、本当に容赦がない。
「しかし、王よ、御免です、と言われてしもうたのぉ。」
「フンッ。元より後宮には、馬鹿貴族の馬鹿娘以外入れる気はない。三年だったか?俺の訪れがなければ実家に返すか、望む者がいればそやつに下げ渡すことができよう。元々、あまりに煩い輩を多少なりとも黙らせる為の後宮だ。本気で通おうなどと露とも思わぬ。」
「そうでしょうが、ハナコ嬢はその事は知りませんしねぇ。」
「ホッホッホ。そうじゃのぉ。知らんのう。」
「グレンリード!元はと言えば…!何より、罠だろう、王太后の。」
何を考えているかはわからないが、王太后からそのような申し出があることは、普段ならあり得ぬことだ。先日、ハナコと王太后が接触した際に居たとされる魔力の効かない王太后の私兵も気になるし、きな臭いことこの上ない。
「ええ。そうでしょうね。先日の王太后の魔力の効かない私兵も探ってはいますが、何せ私兵。なかなか掴めるものではありません。」
そうだ。罠なのは明らかだ。
「グレンリード、お主も罠なのは分かりきっていただろう。なのに、何故わざわざ…」
「いやはや、お二人の反応を見ようと思いましてな。ホッホッホ。」
「おまえ…暇なのか…っ!グレンリード、グレース、俺は先に行く!」
その時、魔力が膨らんだ気配がした。ハナコが茶葉を取りに行った厨房の辺りだ!
俺は空間魔法で直ぐ様転移する。が、しかし、
ドドオーン!!
「クソッ!!!」
ハナコ、ハナコは何処だ!
爆破のあった厨房を見ても、黒い煙と炎でよく見えない。焦りと、炎の熱のためか額に汗が吹き出す。
「ハナコ!」
やがて煙が幾分晴れる。すると、ハナコが厨房の扉のすぐ側で佇んでいた。
ハナコの周りだけが何事もなかったような状態だった。グレンリードとグレースも駆け付けハナコの名前を叫ぶ。
ハナコから返事はないが、とりあえず、ハナコを安全な場所へと避難させねばと駆け寄ろうとすると、
「ダメェ!誰も来ないでぇ!!!」
ハナコが叫ぶ、と同時に、
ドドオーン!!!
また、あの凄まじい音が聞こえるが今度は音だけだった。
俺はゆっくりハナコに近付く。
「ハナコ…。おまえが抑え込んだか?」
厨房の様子からしても、爆発音からしても、それなりの規模だったと思うが、それをこんなにも咄嗟に押さえ込むとは…。
そう頭を過るも、とにかく避難させようと更にハナコに近付くと、
「王様!怪我人がいます!早く助けなきゃ!!」
と、厨房の中へと入ろうとする。
「待て!この状態の中に入るのは危険だ!」
そう止めるも、ハナコは止まらない。
「クソッ!俺も行く!」
「王!ハナコ嬢も!危険です!!」
グレースの声を無視して俺はハナコを追いかける。
そこは、悲惨な惨状だった。
あちこちが燃え、黒く焦げた調理器具、…そして人。
厨房で働く者は確か20名ほどいただろうが、どれだけ命があるのか、あったとしても、助かる見込みは俺の治癒魔法を駆使しても…
「ひ、どい…」
ハナコの弱々しい声が聞こえる。
「ハナコ…。気持ちはわかるが、とにかく今は避難だ。これ以上犠牲を出すわけには…」
俺がそう言った、その瞬間、
「うぅ、熱い…」
呻き声が聞こえる。見ると崩れた壁の下敷きになっているが、酷い火傷だ。これでは…
「だ、れが、こんなこと…。だめ、死んじゃ、ダメェ!!」
ブワァ!
と、ハナコの周囲が、いや、ハナコが、光だす。
「こ、れは…」
その光は瞬く間に、厨房を、被害を被った所を、覆い尽くす。
思わず目を閉じる。
一瞬だったか、数分だったのか…。いや、一瞬だったであろう。再び目を開けると、そこは、多少焼け焦げてはいるものの、火は消されており、そして、厨房で働いていたであろう者達が所々におり、ある者は体を起こし、ある者は倒れ込んだままだが、明らかに無傷で、茫然と佇んでいた。