親とは 4 ~王様の過去~ (王様side)
「それで?それで、どうして王様がお母様を殺したことになるんですか!」
そう、荒げた声が震えていた。泣いて、いるのか?
俺に恐怖を抱いて?いや、しかし、抱き締められている。
「どうして、など。そのままの事ではないか。余は…」
「余とか言わない!気が付いてなかったのですか?途中から王様、俺ってご自分のことおっしゃっていたの。今はそれでいいのです。王様とかそういうの、どうでもいいのです!!」
王であることが、どうでもいい?訳がわからぬ。俺は王であり、そのために生まれてきた。
「今、俺は王であるために生まれてきた、とか思っていたでしょう、ダニエル.ウラン.レイニール!」
「な…」
「名前長いですよね!ダニエルでいいですね!!」
「あ、ああ。」
思わず頷く。すると、俺を抱く細い腕に力が籠る。
「ダニエル、親とは、親子とはそういうものです。」
『王、親とはそういうものですよ。』
懐かしい、心地好い声とそれが重なる。あれの妻も、ユキコも同じ事を言っていた。
あの事があって以来、俺を、俺の魔力を恐れて誰もが俺を遠巻きにしかみず、側近など、ほぼ皆無となった。お陰で、本来政治に関わることの出来ないカッパニーニ家のグレースが宰相など務めておるのだ。
「ユキコも、同じようなことを言っていた。」
ユキコ。ユキコは俺が母を殺した後も俺を恐れる事なく、変わらず側にいてくれた数少ない友だ。
俺がそういうと、さも当然と言うように、
「だから、そういうものなんです。」
という。
「そういう、とはどういうことだ?」
俺が問うと、彼女は溜め息をついたようだ。吐息が首にかかってくすぐったい。
「もう、王様って皆さんこうなんですか?いいですか?良く聞いて下さいね、ダニエル様。」
鼓動が跳ね、何かにすがるように俺も彼女を強く抱き締める。
「お母様は、貴方を守ったのですよ。」
周りの音が全て止んだようだった。風も、それに揺られて擦れる葉の音も、噴水の水音も。その中で彼女の声は凛と響く。
「自分を貶めた賊でもなく、王宮でも、国でも、世界でもない、貴方を守ったのですよ。」
「母が俺を守った…?」
「そうですよ。」
何故分からないのだ、と言うように、彼女は続ける。
「賊を、人を、貴方が殺したら、王宮を、国を、世界を、貴方が壊してしまったら、苦しむのは貴方だから、だからお母様は貴方を守ったのですよ。王だろうが、なんだろうが、親にとって子は守るべき愛し子です!何処の親が!我が子が人を、殺すのを、喜びますか!自分の家を、国を、世界を壊してしまうのを、黙って見ているわけ、ないでしょうっ…ひっく」
ああ、そうか、と心にストン、と何かがしっくりと埋まる。
「泣くな、ハナコ。泣くな…。そうか、俺は、母に、守られていたのか。そうか…ありがとう、ハナコ。だから、泣くな、ハナコ。」
彼女を、ハナコを、強く、強く、抱き締める。
「貴方が、ダニエル様が、泣かないからでしょう!?」
それでもハナコは泣き止まず、しゃくりあげる。親子とは、そういうものだと。俺が母を守りたかったように、母も俺を守りたかったのだと。何度も何度も、そう言葉にしてくれる。
だから俺は、ただ、ただ、彼女の名を呼び、そして抱き締める。
ハナコ、俺の愛しい人。




