親子 2
あれから、王様はまた空間移動の魔法で消えてしまいました。
私はグレースさんに連れられてカッパニーニ邸帰って来ました。
せっかくのディナーも食べる気にならず、直ぐにお風呂に入ってベットの上でゴロゴロしています。食欲がない上に寝れないなんて、いつぶりでしょうか。
「マミーやパピーを殺す…。」
声に出してみたけれど、想像できませんでした。どうして王様は…。
そんな風に悶々としているとドアのノックの音と、
「ハナコ殿、もう寝たかの?」
優しい声がきこえた。
「グレンリードさん?」
「ホッホッホッ。まだ起きていたかい。」
そう言ってドアが開かれる。
まだ遅い時間ではないにしても、寝支度をした女性の部屋を訪ねるのは本来失礼にあたるのだけれど、グレンリードさんはなんか特別です。この世界での私の保護者のようなものですから。
「起きていたと言うよりは、色々考えていたら眠れなくて…。」
「そうかい、そうかい。…知りたいかえ?王と王の母君のことを。」
グレンリードさんらしからぬ、何となく躊躇った様子で問いかけてくる。私は何だかそんな様子が可笑しくて、私が知りたいのは、とうだうだと悩んでいることを相談してみました。
すらとグレンリードさんは、これもまたらしくなく、一瞬ポカンとしたあと、
「ホッホッホッ、ホッホッホッ。そうかい、そうかい。これは年寄りのお節介だったのう。ハナコ殿、その疑問、王に直接聞いてみたら良いよ。」
と、いつもよりも笑いながら、アドバイスにならないアドバイスをして私の部屋を後にしました。
「…なんだったのでしょう。まあ、私も明日直接聞こうと思ってましたし、いいか。」
そう思ってふかふかのベットに体を沈めると、先程までが嘘のようにあっという間に夢の世界へ旅立ちました。
恐るべし、グレンリードさん効果?
「王様、聞きたいことがあります!」
「私は所用がありますので、暫し失礼します。」
翌朝、王様の執務室に何時ものように行き、グレースさんと私が言ったのは同時だったと思います。
グレースさん、今日は一段と忙しいのですね。
「王様、王様も忙しいでしょうか?」
「い、いや…。分かった。話しか。ここでか?」
見目麗しい王様が何とかが豆鉄砲をくらったお顔をしています。
「はい。まあ、何処でもいいのですが。」
王様の様子が気になり曖昧な返事を返す。
「そ、そうか。そうだな、ここでは、あれだしな…。に、庭でも歩くか?」
本当に何処でも良いのですが、
「王様がそうおっしゃるのでしたら。」
「そうか…では、こちらへ。」
そう言って、やや躊躇いがちに王様が私のてをとる。次の瞬間、昨日と同じ目眩のような感覚が私を襲い、次の瞬間、目を開けると、懐かしの庭園に私と王様はいました。
「ここ…。」
「王の庭だ。初めてお主と会った。ここは余と…余が許した限られた者しか入ることが許されぬ。」
だから、存分に話せ、ということなんでしょうが…
「何か、すみませんでした。その様な場所にいきなり私のような者がいたら、それは…不審者ですよね…。」
そりゃあ、地下牢に入れますよ。忘れかけていたけれど、私一国の王様に結構な事を言ったような…。
そんな私の今更な懺悔に、王様は苦笑いをしながら、
「いや、あれは余も考えがなさすぎた。…それより話し、聞きたいこととは?」
そうでした!ただお散歩しに来ただけではありませんでした!相変わらずこのヨーロピアンな庭園が余りにも美しいので忘れるところでした。
「王様のお母様のことですが…お聞きしても?」
途端、王様のお顔に影がさす。
「…ああ。」
王様はやはりその事か、というお顔。だって、昨日あんなに思わせ振りに消えたじゃないですか!?…とは身の程を弁えて言いませんよ、私は。
「では。何故、王様は、」
王様のお顔に険が走る。
「お母様を殺したなどと訳のわからないことを思い込んでいるのですか?」
きちんと聞きたいことを質問したはずなのですが、今日王様は百面相ですね。目を見開いて瞬きを忘れたようなお顔をしております。
「な…に…?」
「いえ、ですからね、何故王様はその様な何の根拠もない…」
「根拠など、その様なものっ!お主、何を知ってその様なことを申す!!」
私の言葉を遮って王様が声を荒げる。
「何をって…王様と王様のお母様のことですか?何も知りませんが…」
「はっ!知らない?グレンリード辺りに何か聞いたのではないのか!?」
何故か、物凄い喧嘩腰なんですが、この方は!
「よそ様の過去をその当人以外からわざわざ勘ぐるように聞くような無粋なことしませんよ!って言うか、何故いきなり王様が怒り出したのか、私には理解しかねますが!!!」
「理解に苦しむだと?それはこちらの台詞だ!何も知らぬのに、何故その様なことが言える!?お主に何がわかる!!!」
最近優しいことが多いから忘れてましたが、王様って、やっぱり、結構短気ですよね!!!
「短気は損気なんですよ!」
「は…?な、に…?」
怒りからか顔がやや紅潮していた王様のお顔が再び豆鉄砲をくらっています。しかし、そんなことはお構い無しですよ!
「初めてお会いした時もそうですが、王様って人の話しきちんと聞かないことありません!?先程、ご自分で考えなしっておっしゃってましたが、そう思うならもう少し他人の話しをきちんと聞いて下さい。そう直ぐに熱くならずに、何て言うんですか?ご自分を制御なさるというか…」
「そうだ…その通りだ。そのせいで余は母を殺した。」
「…は?」
またも懲りずに私の言葉を遮り、王様が自嘲気味に語り始める。




