サンタクロースのおじいちゃん?
私、性格は前向きな方だと思うんです。
でも、これはなかなかヘコみます。
四畳くらいの石造りの肌寒い部屋。ベッドと呼ぶにはお粗末過ぎる板の上に白い布を被せたような寝床。ボロボロの毛布。悲惨過ぎる排泄場所(トイレだなんて呼べません)。灯りは逆立ちしたって届かない所にある窓とも呼べない穴からの入ってくる外界の微かな光のみ。朝夕二回の固すぎるパンとお湯のようなスープのみの食事。
「唐揚げ、食べたいなぁ…。」
あのイケメンで非道な王様にこの地下牢に入れられて1週間。日にちを数えるのも面倒になってきてしまいました。
「カラアゲ、とは食べ物かの?」
マミーの特製唐揚げを懐かしみながら、そろそろこの悲惨な地下牢で、生ける屍と化しそうだな、いや、本物の屍かな、と働かない頭で考えていた時、1週間ぶりに自分以外の声が聞こえました。
「げ、幻聴?」
ああ、私、遂に本物の屍に…。
「ホッホッホッ。幻聴ではあらんよ、娘さん。おまえさん名はなんと申すのじゃ?」
「…名前?…っ」
「おやおや、どうしたんじゃ?可愛い顔に涙は似合わんぞい。」
「わ、私、ここに来て、な、名前を、初めて聞かれました。」
私は、断じて子供ではありません。そりゃあ、未成年ですが、17歳で、その気になれば結婚だって出来ます。でも、でも、止まらないのです。な涙が。
「ホッホッホッ。そうかい、そうかい。」
学校帰り、家に帰るつもりが、何故か”王の庭“にいて、そこで王様に会って、地下牢に入れられて…。
ここには見張りの兵隊さんがいるけど、話し掛けても応えてはくれなくて。ここが何処なのかも分からなくて、何で私がここに居るのかも分からなくて。そしたら、1週間たって、やっと、やっと、私に、話し掛けてくれて、私という、一人の人間に名前を聞いてくれたのは、サンタクロースのようなおじいちゃんでした。