少女の決意.2
毎日の夕食が終わった頃に、バイオレットと待ち合わせている場所があった。そこは、町とシェイカたちの教会の間にある小さな丘だった。
春になればスミレの花が咲きほこる、美しい丘だ。夜だとよく見えないけれど、今も紫の花を咲かせているに違いない。
「バイオレット!」
今日は彼女の方が早かった。夕闇に、彼女の真っ黒な髪がなびくのが見える。
「シェイカ・・・」
「バイオレット、どうしたの?」
どことなく元気のないバイオレットの声に、シェイカは心配になって尋ねた。いつも叔母にいじめられても、決してシェイカの前でそんな素振りを見せなかったバイオレットだ。よほどのことに違いない。そう、彼女は泣いていた。
「シェイ・・・カ、シェイカ・・・!!」
「うん、大丈夫、大丈夫だよ。大丈夫だから。どうしたの?」
抱きついてきたバイオレットの背をそっと撫でながら、シェイカはもう一度聞いた。
彼女は少しずつ話し出した。
バイオレットは小さい頃に、両親を亡くした。それからずっと意地悪な叔母夫婦と子供たちと生活してきた。
叔母夫婦は実の子たちと同じようにバイオレットを愛すことはなかったし、バイオレットにとってそれは当然だったからもう呼吸をするかのごとく慣れていた。
家事を押し付けられるのは当たり前。少しでも気にくわないと、暴力をふられたりもした。しかし、育てて貰っている恩義は感じていたので、バイオレットは耐えていた。
バイオレットの家での唯一無二の友達は、小鳥のピーちゃんだった。怪我をしていた彼を、バイオレットは助けてあげたのだ。彼はバイオレットの家でのたった1匹の味方だった。
しかし、
「あんた言い付けたこともしないで、よくもまぁどこかへ行ってくれたね!」
「えっと、言われたことはやったはずです、が」
「やれてないから言ってるんだよ!掃除をしろって言ったじゃないか!」
そう言いながら、叔母は"何か"をバイオレットに見せた。
それは、冷たくなったピーちゃんの姿だった。
その日の叔母はかなり虫の居どころが悪い日だったそうだ。そこにピーちゃんがうるさくさえずり、そして・・・
「・・・・・・バイオレット、」
「シェイカ、私、もう我慢出来ないかもしれない」
「だったら教会においでよ。叔母さんたちが何を言いにきても、全然迷惑じゃないよ」
「ううん、大丈夫。ねぇ、シェイカ」
「なに?」
瞳に涙を溜めたバイオレットが、シェイカをまっすぐに見つめる。
シェイカはその眼差しに、心がざわつくのを感じた。
「何があっても、シェイカは味方でいてくれるよね?」
「・・・うん」
バイオレットの問いは、質問というより懇願のようだった。
帰り道。バイオレットは背に気配を感じて振り返る。
そこには、1人の青年がいた。
「決心出来た?」
「はい」
バイオレットは即座に頷いた。
親友の顔を見てから、もう心は決まっていた。
たとえ死ぬことになっても、後悔はなかった。