少女の決意.1
シェイカは不機嫌だった。
親友のバイオレットは、意地悪な彼女の叔母に呼ばれてどこかへ行ってしまった。バイオレットは優しすぎるのだ。あんなに酷い扱いを受けているのに(現に家事のほとんどを彼女が引き受けている)、文句1つ言わない。だから良いようにされるんだと言っても聞いてくれない。
そしてもう1つ。バイオレットがいなくなってしまって、暇になったシェイカは魔法の練習をしていた。すると、数日前にこの町に来たと言う旅人に一言、
「下手くそ」
といわれてしまった。ノーコンなだけで、決して才能がないわけではないのに。
そんなわけでシェイカは、口を尖らせながら我が家に帰ったのだった。
「ただいま」
「遅いよシェイカ姉ちゃん!もうすぐお祈りの時間だよ!」
「あ、ごめん!」
シェイカの帰宅を出迎えたのは、レイン。彼女はシェイカの家、正確にはシェイカが住んでいる教会の前に置き去りにされていた子だった。
そう、シェイカが住んでいるのは"愛と調和のリーベ"の教会だ。そこで彼女は、一人前のプリースティスになるために働いていた。
「遅れてすいません!」
「良いのですよシェイカ、レイン。さぁ、リーベに祈りを捧げ、感謝をし、それから皆で食事を頂きましょう」
この教会のトップである、一番歳上の司祭様が言った。
そして皆で祈りを捧げ、夕食を食べた。
リーベの使いたちは皆が女であったが、その中に、1人だけ男の姿があった。
先程シェイカに「下手くそ」と言った旅人だ。
旅人は大抵、教会に泊まることが多い。女性ばかりのリーベの教会に男性の旅人が泊まることはさすがに少なかったが、司祭様の優しさで、彼は泊めて貰えていた。
「よう、さっきのプリースティス」
旅人に話しかけられたシェイカは、あからさまにそっぽを向いた。そして、旅人が連れてきたという黒猫に、パンをあげた。
「ルグスは良いのに、俺は無視なの?」
「黒猫ちゃんは何もしていませんが、あなたは私を貶しました」
「下手くそなんだから仕方ないだろ」
あっけらかんと言い放つ男を、シェイカは思い切り睨みつけた。
下手くそなのは自覚していたが、一生懸命練習しているのに、いきなりそんな言い方をされれば腹が立つものだ。
「あなたは、私に話しかけないでください!」
ピシャリと言い放つと、シェイカは大股で教会から出た。
寝る前に、もう一度だけ親友に会いたかった。