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前編

短編にするつもりが、ちょっと長くなったので前後編にわけました。

「Black Night・・・」の1ヶ月くらいあとのお話ですが、一応これ単体でもわかるようになっています。

お楽しみいただければ幸いです。

「では、秘密会議を始める。」


コンクリートの薄汚れた壁、埃っぽいストレージユニット。その間にパイプ椅子を並べて円陣をつくり、男たちが集まっている。人数は10人ほど、部屋に窓はあるが厚手のカーテンが閉められ、電気も消されているため薄暗い。

そして、円陣の中央にもパイプ椅子がひとつ。冷や汗をたらした男が一人緊張した面持ちで座らされている。


「まずは証言を聞こう・・・加藤」

「はい」


円周部に座っていた加藤と呼ばれた男は、うなだれた様子で話し始めた。


「彼女とはもう2年もつきあってるんです。めちゃくちゃ美人じゃないけど、俺にとっては誰よりもかわいい・・・すごく大事にしてきたつもりなのに、なのに」


加藤は涙をこらえるように膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。話を聞いているほかの人間からは「リア充め・・・」「爆発しろ・・・」と呪いの言葉が聞こえてくる。


「なのに!あいつが来てからはあいつの話ばかり!そればかりか、あいつと俺を見比べて、た、ため息を・・・」


くくくっと押し殺した鳴き声が響く。さっきは呪いの言葉をつぶやいていた加藤の隣の男が加藤の肩をぽん、とたたいて慰める。


「いいか諸君」


リーダー格の男が立ち上がった。


「やつの存在は我々にとって脅威だ。ここでなんとかしないと、我がサークルはやつのハーレムになってしまう!」

「「「それは困る!」」」

「われらの最重要イベント、学祭で我々の望みが絶たれてしまうのを、むざむざ見過ごすわけにはいかなーーーい!」

「「「そうだーーー!」」」


何人かが一斉に叫んだ。リーダー…部長は軽く手をあげて全員を黙らせると、改めて咳払いをひとつした。


「そのために、今日は貴重な情報源を確保してきた。・・・番匠君」

「へ?」


中央の椅子に座らされていた男・・・番匠拓海が、なかば呆れた顔でリーダーを見た。


「さあ、彼の弱点を聞かせてもらおうか。古川蘇芳の!!」


古川蘇芳。

二年生になってから入部してきたこの学生は、とにかく美形なのだ。人柄もスタイルも良く、容貌が整っていることももちろんだが、ハーフとかで、淡いプラチナブロンドに鮮やかな青い瞳で、学内でも際立った存在だ。


その蘇芳の親友・拓海は「はあ」とこっそりため息をついた。サークルの先輩に突然拉致られて部室に連れてこられ、どうみても自分がつるし上げられるような状態で何を言い出すかと思えば。


「あの~、心配いらないと思いますよ、先輩方。あいつ先月、彼女できたって言ってたから」

「「「なにっ!!」」」


全員の視線が拓海に集中する。問い詰められるような視線に、意味もなくこくこくとうなずいてしまう拓海だった。


「そうか、そうだよな。彼女の一人や二人や百人や二百人、蘇芳のやつならいてもおかしくない」


多すぎでしょ。


「だとしたら、来月の学祭にその彼女に来てもらって、仲睦まじいところを披露してもらえばいいわけだ」

「畜生、リア充め・・・」

「月夜ばかりと思うなよ・・・」

「この世界に神はいない・・・」


本当にこのサークルを見捨てようかと拓海は一瞬思った。それなりにテニスの巧い先輩のいる小さなサークルを狙って入ったというのに、入ってみたら活動はそれなりにするものの、一番の目的はもてること。同じサークルの女子にはあらかた声をかけて撃沈した奴らなので、学祭で彼女をゲットすることを至上の命題としているのだ。

そこにこの爆弾を落とすことは、少々ためらわれた。


「でも、蘇芳、学祭には彼女呼ばないって」

「「「なんだって!」」」

「そもそも、あんな企画立てるからですよ。彼女に見られたくないんでしょ」

「う・・・」

「いい案だと思ったんだよ。やつに女装させてメイド喫茶って」

「逆にやつの周りに集まりますよ、きっと」


拓海の冷静な指摘に全員が黙り込む。・・・と、そこへ。


「ちょっと待った!企画の変更を提案するわ!!」


バタンっと勢いよくドアが開き、サークルの女子がなだれこんできた。


「なんだなんだ!」

「いい!蘇芳君の女装もみたいけど、彼のいやがる顔は見たくないの!ね、みんな!」


女子が全員一斉に頷く。


「そこで!ちょっとの変更で可能なアイディアがあります。それなら蘇芳君も彼女を呼ぶ気になってくれるはず」

「!!彼女いること、知ってたんだ」

「確信はなかったけど、いるに決まってるとは思ってたわ。だから私たち女子部員一同は、蘇芳君の幸せを見守る会を結成したの!」


なんだそりゃ、と男子部員全員が思った。


「ま・・・まあ、それでその代替案は?」


リーダーが訊くと、女子代表がにやりと笑った。


「執事喫茶よ。うちのサークル、みてくれは無駄にいいのが多いんだから、資源を有効活用しないテはないわ。少なくともメイド喫茶よりは女の子の集客率が高くなるわよ。これで売り上げ倍増よ!」


もちろん、女子部員の思惑は『蘇芳の執事姿を見ること』だ。それを内心わかった上でも女の子が一杯来る、という点にはものすごい誘惑があった。男子部員たちは一瞬目を見合わせて、


「おお!執事喫茶に変更だああああああ!」


一斉に雄叫びを上げた。

拓海だけは大きくため息をついた。







『えー!なんで行っちゃだめなの?』


毎晩かけている電話で、夏世が不満そうな声をあげた。夏世はほんの一月前に付き合い始めたばかりの蘇芳の彼女。さらさらストレートのロングヘアが印象的な美人系の高校生だ。


「いや、ほらさ、サークルの出し物で手一杯になっちゃうから。夏世をひとりでほっとくわけにいかないだろ?」

『でもぉ!』


夏世の声が怒ったような声ではなく寂しそうな声だったので、蘇芳は「うっ」と詰まってしまった。確かに、ここ一週間くらい、大学だ仕事だと忙しくて会っていない。夏世はわかってくれているので文句は言わないしわがままも言わないが、蘇芳とて悪いと思っているのだ。

でも、執事喫茶に決まったと聞いた瞬間に、夏世を呼びたくないと思ってしまった。口には出さないが、いくつか理由はある。


「…じゃあ、予定上はお昼前にシフトが終わるはずだから、それからでもいい?それに、最後まで一緒にはいられないかもしれないけど」

『いいの?』


弾んだ声に苦笑する。


「うん、そしたら大学の正門で待ち合わせよう」


結局、惚れた弱味なんだろうか。押し負けてしまった。

正直、蘇芳自身も夏世に会いたいのだ。


でも、来てほしくない気持ちもあるのも事実だった。










「で?彼女、呼んだんだろ?」

「うん、一応。でも、あんまり見られたくないなあ」


学祭当日。黒のスーツに蝶ネクタイ、白の手袋という執事姿に着替えた蘇芳が気乗りしない様子で同じようなファッションの拓海に返事をする。本当はタキシードにしたいと女子部員が大騒ぎしたのだが、予算の関係で諦めざるを得なかった。


「なんだよ、恥ずかしいわけ?」

「たいした理由じゃないんだよ。でも、そういうキャラだって思われたくない」

「いいじゃんか別に。メイド喫茶よりはましだろ?」

「それだったらそもそも呼ばないよ。第一、夏世ならこの格好見たら絶対大爆笑する。・・・だから、待ち合わせはここのシフトが終わったあとにしたんだ」

「下手に格好つけんなよ。自然体でいけよ」

「そのつもりなんだけど・・・やっぱり、かっこつけてるのかな、無意識にやってるのかな?」


確かに、このきざっちい雰囲気は意識して作っているわけではないのはわかっているが。


「何はともあれ、見られたくないものは見られたくないんだよ。それに」

「それに?」

「…まあ、いいや、とにかく夏世が来るのは僕のシフトのあとだから問題ない」


「わかったわかった、じゃそれ以上追及しないから、あとで彼女…夏世ちゃんだっけ?紹介してくれよ」







11時半にサークルの出し物のシフトが終わるから、それくらいの時間に待ち合わせ、と蘇芳に言われたが、夏世は1時間早く到着していた。


大学での素の蘇芳が見てみたい。

それに、なんであんな頑なに自分を呼びたがらないのかも気になる。


そんなちょっとした思い付きだった。


でも、蘇芳は大学生でありながら、日本屈指の企業グループ・昴グループの会長。二足のわらじを履いて、人よりもはるかに忙しい、いや、激しい日々を送っている。だからこそ、大学でもきつきつの生活を送っているんじゃないかと以前から気になっていたのだ。

夏世はまだ高校生だが、親が大手の会社社長なので容易に想像ができる。



(たしかテニスサークルだって言ってたよね)


受付でもらったパンフレットで探してみる。

が、テニスサークルは五ヶ所存在する。


(あちゃー…出し物の内容、聞いとくんだった)


聞くには聞いたのだが、何故か教えてくれなかった。とはいえ、この一時間の間に覗いて回れない数じゃない。

夏世はひとつずつ見て回ることにした。



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