過去へ繋がる島
幾百、幾千の戦を駆け抜け、
その果てに見つけた物、それはいったいなんなのか、
男の目的とはいったい。
何処からとも無く吹いてくる潮風を身に感じながら、
錆びれた黒い鎧を身に纏った男は独り、
祖国を離れ、海を渡って、ある孤島に滞在していた。
男の祖国以上の面積を持っていながら、大海の東の果て近くに存在するこの島。
現在、その孤島に正式な名など無く、住民達によってこの島は「時流れ島」と呼ばれている。
元々は「過去へ繋がるシマ」という変な呼び名だったらしく、
なぜそんな呼び名だったのか不思議に思ったが、
島の人間は、その理由を男に話してはくれなかった。
この島自体には特に変わったものは無く、
.精々目をつけるとするならば、日が落ちた頃に始まる市場ぐらいだろうなと。
男はいつものように孤島を探索しながら胸の内で呟きを入れた。
祖国を持ち、印の入った鎧を身に着けている、
この男が今、この孤島に居る理由。
それは、偶然に見つけた日記が真実を理解させ、
この身に宿る呪いが、この孤島の場所へ向えと発していたからだ。
この、錆びれた黒い鎧を身に纏った男は、
騎士になる前の記憶が無かった。
気がつくと鐘に導かれ、
祖国で最上である騎士と称えられ、
戦に出向き幾千の敵を屠り、
幾百の時を経て今この場所に経っている。
この男は平穏な暮らしには戻れない程、
身体を血に染めていた。
この男は、総てを知る上で、
この孤島に来た。
目的は唯一つ、この孤島に存在するというある力を手に入れるため。
目的は唯それだけ。
それがどんな力なのかは男にはわからない
ただ、今の男に必要なものだと感じるのみ。
長いこと思想に耽っていた男は、自身でも知らぬ内に、
海岸にポツリと一軒だけ建っている、
古い建物へ足を運んでいた。
男は、
.いつ入ったか気付かなかったが…。
と声を零した刹那。
鎧の首元目掛けて何かが飛んできた。
欠伸をしながら飛んできたものを手で弾く。
武器を持っている人間かと思ったが、
人の気配などしない。
.おかしい、人の気配はしないのに、何かの意識は感じる。
と男がポツリと言う。
すると。
.いつまで無視なんてしてるのよ?
私が声をかけるなんて滅多に無いんだからちゃんと受けなさい。
と。何処からか声がしている。
建物の入り口を見ても何も居ない。
あるのは壁面に刺さっているかんざしという髪飾りのみ。
.鐘以外の物が人の言葉を話すなんて、驚いた。
と男が言うと、
かんざしは呆れたようにこう言った。
.貴方、私が欲しいんでしょ。早くこの壁から抜きなさい。
私を抜いたら直ぐに効果が出てくるわ。
男は、何もかも見据えているのか。と苦笑いしながら、
かんざしを壁面から引き抜いた。
途端に、蒼い光が男を包み込む。
心地の良い光だと感じながら、
錆びた黒い鎧を纏った男は、静かに眠りへと落ちていく。
かんざしがポツリと。
頑張りなさいよ。と言った気がした。
過去へ繋がる島を読んで頂きありがとうございます。
この物語の彼はいったい何者なのか。
そして彼はこれからどうなるのか。
それはこれからの作品をお待ちいただければいずれ…
ということであとがきでした。