ニート君の一日
部屋に日差しが差し込む。
『・・・ん・・眩しいと思ったら昨日の夜はカーテンを閉め忘れて寝たのか。』
時計を見ると針が10時半を指していた。
勤めに出ている方々なら完全に寝坊である。だがこの男は今若者の間で急増中のNot In Education,Employment or Training 所謂ニートと呼ばれている人種である。したがってこの男には遅刻等という概念自体が存在しないのだ。この話はこのニートな男の観察日記である。
『腹減ったなぁ。何か食い物有ったっけ?』
男はパンツ一丁の姿で独り言を言いながら冷蔵庫をガチャリ
『おお!!これは最近出たばっかりのアノボカロがコラボしているコンビニ弁当!
美奈子の奴が買っといてくれたのか?ありがたやありがたや』
男はそう言いながら弁当を温め、炭酸飲料を片手に朝ご飯兼昼ご飯を食べていた。
『ふぅ。食った食った。・・・味は普通だな。』
男は弁当の空箱を片付けもせずパソコンの前に。
『さてゲー速でもチェックするかな。』
この男は毎朝、昼とパソコンの前に座りゲーム速報なる物をチェックするのが日課になっている。
正直25歳にもなる男性が仕事もせずに日中からパンイチでパソコンの前に座りニヤニヤしている姿は気持ち悪い。
なぜ、この気持ち悪い男を私が観察しているかというと、私が通う妖精大学人間界学部には毎年夏休みの宿題に人間界の20代男性に関するレポートの提出を求められるからである。
正直こんな気持ち悪い男じゃなくて、イケメン俳優や爽やか大学生、仕事がバリバリに出来るエリートサラリーマン等でも良かったのだが、そういった方々に関するレポートは毎年多く提出されているのでインパクトに欠ける。
故に、今人間界で急増しているニートの観察レポートを作成しようと思った次第である。
『おぉ、あの名作がVCで出るのか。過去の名作を現行機で再度プレイ出来るのはやっぱりいいよなぁ』
この男はオタクと呼ばれる様な人だ。趣味はゲームやらアニメ鑑賞等である。
好きなアニメは二度も三度も観て同じゲームを何十時間もプレイするような人である。
なぜ、その情熱を仕事や就職活動に活かせないのであろうか?
まぁ活かせないのがこの男の二ートたる所以なのだろうけど。
チャラララ♪♪
急にアニメソングが部屋中に響き渡る。
『はい。もしもし?』
男の携帯電話が鳴ったのである。
『今?ゲー速見てたよ。これから??
いいけど二日間ぐらい風呂入ってないからシャワー浴びてからでもいい?起きてから歯も磨いてねぇ笑。
ok。したら一時間後にお前ん家行くわ。』
ピ。
男は電話を切るとシャワーを浴びに浴室へ行った。
このニートな男にも友人や親友、恋人と呼べる様な人が存在する。
正直この男は周りの人達に恵まれていると思う。
数自体は多くないが本気で笑い、泣き、怒れる友人が数人いて五年間も付き合っている彼女までいるのだ。
よく友人達や彼女に見捨てられないものだ。そこだけは感心する。
『ふぅ。。やっぱシャワーは作業だわ。』
意味不明な事を言いながら男が浴室から出てきた。
男は髪を乾かし身なりを整えると『今から行くわ』と友人に電話をし部屋を出た。
『そういえば、昨日外に出てないな。』
男は車を運転しながら独り言を呟く。
この男は独り言が多い。一人でいる時間が多いと独り言が増えるのであろうか??
あと、アニメの曲を掛けるのは勝手だがもう少しボリュームを下げてほしい。
『お、今日は月曜日か。週刊ステップの発売日だ。』
男は思い出したようにコンビニに立ち寄る。
『この連載引き延ばしすぎだろ。でもやっぱステップは面白いな』
・・漫画を読みながらニヤニヤしている人は男女問わず正直気持ち悪いと思う。
『おいっす』
そう言うと男は呼び鈴も鳴らさず友人の家へ上がり込む。
『これコンビニで買ってきたわ』
男はステップを立ち読みしたついでに買ってきたスナック菓子やジュース等を無造作にテーブルの上に置く。
『おお!これ、ゾンビ6じゃん!今日発売だっけ?』
『うん。今朝朝一で買ってきた。どうせなら一緒にやろうかなと思ってショウの事呼んだんだよね』
このゾンビ6を買った男はニート君から博士と呼ばれている。
ハカセと呼ばれているが別に研究所に勤めているわけではない。
風貌が博士のようだから博士と呼ばれている。ちなみにリサイクルショップに勤めている二十代独身である。
『お前このシリーズ全作品持ってるもんな。ってか今日仕事は?』
『ゾンビ6の発売日だから休んだ。前々から有給の申請出してたんだ。』
『ゲームの発売日に有給ってww完全にネタだろww。』
『ん?そうかな?どうせ残しておいても使う予定のないし。こういった時にでも使っておかないと。
そんなことより早くやろうよ。』
類は友を呼ぶとは正にこの事である。オタクにはオタクの友達ができる。
気心が知れている仲間と共通の話題で遊べたり笑い合ったり出来るのは正直羨ましい。
『博士、俺そろそろ俺帰るわ。』
夕暮れ時になると男はそう言い帰り支度を始める。
『ショウもうちょっと遊んでけばいいじゃん。どうせ家帰って寝るだけでしょ?俺明日も休みなんだよ。
それにこういうゲームを夜一人でやったら・・・わかるだろ??』
『朝やれよwwそもそも怖くて一人で出来ないなら買うなよww
美奈子の晩酌の相手とか仕事の愚痴を聞かなきゃいけないんだよ。
昼飯の後片づけも済んでないしな。そうだ。博士が俺ん家に来いよ。美奈子も入れて三人でやろうぜ。』
『美奈子さん仕事の後で疲れてるんじゃない?』
『ん??大丈夫だろ??体力が長所みたいな所あるし。ストレスは溜まってると思うけど。それに博士が来てくれた方が美奈子も美味しい酒が呑めるってもんだろ?それに美奈子明日休みだし。』
『う~ん・・・・んじゃそうするわ。セーブして支度するからチョイ待ってて』
『はいよ。ゆっくりでいいからな。一応美奈子にも連絡入れとくか』
そういうと男は美奈子さんに向けてメールを打ち始めた。
この男は美奈子さんに関してはマメな方だと思う。晩御飯はいつも一緒に食べ毎日愚痴を聞き休日にはしっかりデートをしている。マッサージなどをしている時もあるのだ。今回博士君を家に呼んだのだっておそらく美奈子さんの為だ。美奈子さんは人と接するのは好きだが気心のしれた友人が少ないのである。
『ショウ準備できたよ』
『おう。したら行くか。』
そういうと二人は博士宅を後にした。